波羅蜜多実業高等学校へ

葦原明倫館

校長室

空京大学へ

ライバル登場!? もうひとりのサンタ少女!!

リアクション公開中!

ライバル登場!? もうひとりのサンタ少女!!

リアクション


第4章 乙女たちの聖夜


 百合園女学院の真口 悠希(まぐち・ゆき)は床に座り、サンタの補佐として百合園女学院に派遣されていた仔トナカイに真剣に話し掛けていた。
「去年はごめんなさい。僕は心を入れ替えました。去年、下心を見抜かれてあなた達の監視をうけた僕はもういません。静香さまは勿論、皆の為にプレゼントを配りますっ! だから、見てて下さいね」
 そう言って立ち上がり、プレゼント袋を担いだ悠希は、ついてくる仔トナカイの頭をよしよしと撫でる。
 悠希によりそう仔トナカイは、ちらりと仲間に目配せすると悠希の後をついていった。どうやらまだ信頼されてはいないようだ。

 ヴァイシャリーのとある子供部屋では、フレデリカとお揃いのサンタ服を着た百合園女学院の秋月 葵(あきづき・あおい)の子守歌が優しく響き、寝ずにサンタを待っていた子供を夢の世界へと導いていた。子供の寝息を確認した葵が、枕元にそっとプレゼントを置き、小声で「メリークリスマスだよ〜♪」と囁くと、葵をビデオカメラで撮影していたパートナーで白虎の獣人、イングリット・ローゼンベルグ(いんぐりっと・ろーぜんべるぐ)もそれに倣う。
「メリーク…」
 イングリットが最後まで言い終えないうちに、葵が慌てて両手でイングリットの口を抑えた。先ほどの子守歌がいくら催眠効果のあるものでも、イングリットの元気な挨拶はちょっと刺激的だろう。葵が口に指をあて静かにするようイングリットに合図する。イングリットは小さくうなずき、今度は小声で囁いた。
「メリークリスマスにゃー」
 2人は、葵の『空飛ぶ魔法↑↑』で家から抜けだすと、もう一人のパートナー、シャンバラ人のエレンディラ・ノイマン(えれんでぃら・のいまん)が待っている場所へ戻った。
「お疲れ様」
 笑顔で2人を迎えるエレンディラも、今年はフレデリカから借りたサンタ服を着ての参加だ。エレンディラは、リストに配達済みのチェックを入れる。
「順調ですよ。この調子で、葵ちゃんは配るのを頑張って下さいね。私が全力でサポートしますから」
 エレンディラの言葉に頷こうとして、葵は小さなくしゃみをした。
「すいぶん配りましたし、ちょっと休憩しましょうか」
 エレンディラは手際良くホットチョコドリンクを用意すると、葵とイングリットに渡した。イングリットはポケットからおやつの『めいりんチーズバーガー』を出し、かぶりついている。エレンディラは両手でカップを抱えて飲む葵を後ろからそっと抱き締めた。
「こうすれば少しは暖かくなりますよ」
 葵は小さな頭を甘えるようにエレンディラの胸に頭を預けた。
「うん。とってもあったかい」
 腕の中の葵に愛しさを募らせながらエレンディラは、イングリットに無言のお願いという圧力をかけた。イングリットがあわてて2人にビデオカメラを向ける。
(こんな可愛い葵ちゃんを残さないなんてもったいないですからね)
 エレンディラは葵の頭にそっとキスをした。
 そろそろ配達に戻ろうと準備をしていたエレンディラが、ふと思い出したように葵に聞いた。
「そういえば、葵ちゃん、知っていますか? なんでも今年はフレデリカさんのご友人のスネグーラチカさんもプレゼント配りをされてるそうですよ。友達思いの方ですよね」
「ふぅん、フレデリカちゃんの友達ってどんな子かなぁ?」
 その言葉に応じたわけではないだろうが、3人の近くをスネグーラチカの機晶ロボが勢い良く通り過ぎる。葵が間一髪、イングリットの腕を引っ張ったお陰で大事にはいたらなかったが、イングリットはボロボロと涙をこぼした。
「イングリットのピロシキ…まだ食べてたのに、ひどいにゃーっ!」
 イングリットの無事にほっとしながら、葵は通り過ぎた機晶ロボを睨んだ。
「せっかくのクリスマスに迷惑な危険運転なんて、愛と正義の魔法少女が許さないもんっ!」
 そういうと、葵は『シューティングスター☆彡』を機晶ロボめがけて発動させた。空から星のようなものが機晶ロボめがけて落ちてくる。光輝と雷電の攻撃を加えるこのスキルなら、機械の機晶ロボにダメージがあるはずだ。しかし、スネグーラチカをかばうように前に出た雪娘達が『ブリザード』で氷の嵐を呼び出し、葵の魔法に対抗する。

 その少し前、百合園女学院のロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)は、自前のソリとサンタ服でプレゼントを配っていた。『ピッキング』で家に忍び込み、小声ながら律儀に「おじゃましまーす」と言うと、眠っている子供の枕元にプレゼントを置き、布団を掛けなおしてその家を出る。今のところ、たいした問題はない。
 次の区画へ向かおうと、『サンタのトナカイ』のソリに乗り込み、夜空を駆ける。上空から見下ろすヴァイシャリーの街のあちこちには、暖かな灯がともっている。しかし、つい最近まで闇龍の降臨や犯罪組織との抗争があったのだ。今は夜の帳が隠しているとはいえ、まだあちこちに傷跡が残っているだろう。でも、ロザリンドは思った。街が傷ついても、そこに住む人の活気が失われない限り、いくらでも復活するはず。子供達の笑顔はそうした活気の一つのはずだ。
「だから、しっかりとお仕事を完遂しませんと」
 ロザリンドが自分に言い聞かせるように呟くと、魔法の流星群が街の一角に降り注ぐのを見た。それに対抗する魔法も発動されたようだ。
 ロザリンドは急いでその場へ向かった。

 到着してみると、葵が雪娘達と対峙している最中だった。ロザリンドは迷わず葵の側につく。
「何をしているんです! これ以上、ヴァイシャリーの街を傷つけるおつもりですか!」
 ロザリンドの迫力に、雪娘達がためらっていると、軍用バイクで戻ってきた歩が雪娘に戻るよう促した。雪娘達が素直にスネグーラチカの元へ戻って行くのを見送った歩は、葵達に向かって叫んだ。
「ごめんなさい、なんとか早めに妨害を食い止めますから!」
 そう言い残し、歩は再びスネグーラチカを追う。
 そこへ、仔トナカイと一緒の悠希が走ってきた。
「あの、こっちにスネグーラチカさま、来ませんでしたか?」
 葵がまだ怒りの収まらない様子で答える。
「それが感じ悪い青サンタの事なら、この道を走ってったよ」
「ありがとうございます!」
 礼を言って追い掛けようとする悠希に、葵が声をかける。
「気をつけてね! あの子、他人なんかおかまいなしで、なんだか怖いよ」
 悠希は葵を振り返り頷いた。
「わかってます。だからこそ、『北風より太陽作戦』で心を入れ替えてもらうんです!」
 そう言って走る悠希をロザリンドが慌てて追い、少し話してすぐにロザリンドだけ戻ってきた。
「連絡先を交換して来ました。良ければ、あなたの携帯番号も伺ってもいいですか? 連絡を取り合った方が、効率よく配れると思うんです」
 まだスネグーラチカへの怒りが収まらない葵は、ロザリンドの提案を受けた。
「あの子が、フレデリカちゃんのお友達なんて信じられない。早く配り終えて、お話を聞きにいかなきゃ!」