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【カナン再生記】擾乱のトリーズン(第1回/全3回)

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【カナン再生記】擾乱のトリーズン(第1回/全3回)

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第4章 撃  破(1)

「みんな、お待たせ」
 鐘塔から警鐘を鳴らしてワームの接近を知らせたあと、ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)は下で待っていた3人に合流した。
 自身もレッサーワイバーンに乗り、さっと空中に舞い上がる。
 ワームをおびき寄せる手筈になっている広場へ向かう4人と入れ替わるように、ロイ・グラード(ろい・ぐらーど)が建物の影から姿を現した。
 機晶スナイパーライフルの入ったケースを肩にかけ、今一度彼らが戻ってこないのを確認して、鐘塔に入る。
 外と対照的に、鐘塔の内部は暗かった。外が明るいから、内部の闇が濃く見えるのかもしれない。
 どちらにしても、ノクトビジョンがあるから支障はない。
 ロイは内部を見渡し、上に続く階段を見つけ、そちらに歩み寄った。
「オイオイオイ? ちょっと待てよぉ。マテマテマテ」
 常闇の 外套(とこやみの・がいとう)が、突然しゃべり出した。
「あれ見ろよ、ホラ、あーーれっ」
 促され、そちらを向く。
 雑多な物が積み重なった影から、細い足が見えていた。
「おほーっ、こんな所に隠れてる小ジカちゃんがいるぜぃ? きっときゃわゆい女の子だぜ? どうする? どうするよ? どうするってばよぉ、おい〜?」
 外套はすっかり興味津々行く気満々だ。
 回り込むと、そこにいたのはたしかに女の子で、しかも2人組だったが、外套の守備範囲からは大きくはずれた「ガキ」だった。
 ロイに見つかって、ますますおびえて奥の暗い壁にぺったり張りつこうとしている。
「チッチッチ。だめだなぁ、おまえ暗いから怖すぎんだよ。小ネズミちゃんたちがすっかりおびえちまってんじゃねーか。
 ヘイ! そこの浮かない顔したお嬢ちゃんたち! 突然だがここでクイズだ!
 パンパンと尻を叩く王様の名前はなーんだ? 分っかるかなぁ? 正解はスパンキング!
 なーんつってよ! ゲヒャハハハハハハ! ウヒャハハハハハハハハハ! イィーッヒッヒッヒッヒッヒッヒッヒ! あびゃびゃびゃびゃびゃ――げほがへぐはっ」
 外套が笑いすぎてむせている隙に、少女たちは脇をすり抜けて外へ飛び出して行った。
 すでにワームが暴れていたが、ここにいるよりはるかにマシだと判断したようだ。
「なんだよぉ? ひとがせっかく小粋なジョークで恐怖を和らげてやろうとしたってーのに。感謝の気持ちが足りねーぞぉ? 感謝知ってるか? カ・ン・シャ! 親か教師に習っとけぃ」
 2人の消えた入り口に向かって外套がぺっぺとつばを飛ばす。立てられたら中指も立てたかもしれない。
 われ関せず。ロイは階段を上っていった。

*       *       *


「きゃあっ!」
 真上に移動した直後、毒液の直撃を受け、レオナは悲鳴を上げた。
 別の1匹に邪魔された先の攻撃をもう一度仕掛けようとしたのだが、ワームの攻撃が一歩先んじていたのだ。
 レオナは機晶姫なので人間のように毒の影響は受けない。だが近距離で受けた衝撃と、毒液に含まれた粘性が、ブースターの噴出口を詰まらせた。
 ブスブスと音を立てたのち、完全に飛行機能を停止して落下を始めたレオナを、ワームが待ち受ける。彼女の救出にカイもオイレで急行していたが、間に合うかどうかギリギリのラインだ。
「いまだ、撃て!」
 上空のレオナを狙って伸び上がったワームに対し、レンの号令がかかった。
 屋根に上っていた兵士たちが、いっせいに弓を射掛ける。油の袋を先端に結びつけた矢と火矢だ。
 再び火炎攻撃を受けて、ワームは先の焼かれた恐怖を思い出し、身をよじって穴に逃げ込もうとする。
「逃がしませんよ」
 鼎が氷術を用いて次々と氷塊を作り出し、穴のふちをふさいでいく。すぐにワームは詰まって――表皮を焼かれたことで剛毛を失ったこともあり――それ以上もぐれなくなった。
 おまけとばかりに、ひときわ巨大な氷塊をワームの口内にぶち込む。
「よし、止まった!」
 フォースフィールド、ヒロイックアサルト全開! 典韋 オ來(てんい おらい)は方天戟を手に真っ向からワームに突っ込んでいった。
「うおりゃあ!!」
 ミラージュ発動。下等生物であるワーム相手にどこまで効果があるか不明な技だったが、派手な攻撃でワームの注意を自分に向けさせることには成功した。
 向かってくる毒液は、フォースフィールドが蹴散らしてくれる。方天戟が厚い表皮を切り裂くと同時に、左右からグロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)エシク・ジョーザ・ボルチェ(えしくじょーざ・ぼるちぇ)の得物が切り裂いた。
「……抜けない?」
 鍔の所まで突き刺さったエシクの龍骨の剣は、厚い脂肪にはさまれ、それ以上押すも引くもかなわなくなった。
「エシク、距離をとれ!」
「――はっ」
 典韋の忠告に従い、柄を蹴って離れることで毒液を回避する。毒液が通りすぎたあと、七支刀型光条兵器デヴィースト・ガブルであらためて切り裂いた。
「行くぞ!」
 いったん距離をとった3人は、再度呼吸を合わせてそれぞれの方向から同時攻撃をしかけた。
 その手には、それぞれ1つずつ、小型爆弾が握られている。ローザマリアが事前に対イコン用爆弾弓から取りはずし、渡してあった物だ。
 あいにくと遠隔操作式に変える技術がなかったため、直接爆破させるしかなかったが、1つを爆破すれば残りの2つも誘爆するだろう。
 3人がそれぞれ2度の攻撃で切り裂き、えぐった穴に爆弾を押し込むのを見て、ローザマリアが対イコン用爆弾弓を構える。
「みんな、伏せて!」
 典韋が埋め込んだ爆薬に向け、弓弦を引き絞ったとき。
「待った待った! やめーっ!」
 棗 絃弥(なつめ・げんや)が急降下し、飛空艇で前方をふさいだ。
「そんなことしたらワームの肉片が町中に飛び散って、家屋をつぶしちまうだろ。ヘタすりゃ死人だって出るかもしれないぞ!」
「えっ…?」
 その言葉に狼狽して構えを解くローザマリア。
 絃弥は彼女が正確に理解したのを確認して、機首を巡らせ、ワームに正面を向いた。
「ったくよぉ…。こんなことに巻き込まれると分かってたら、絶対来なかったのに! おまえが東の領主に会ってみたいなんてわがまま言い出すから、えらいことに首突っ込むことになっちまった」
「すまんな。だがどうして私にワーム襲撃が予測できる?」
 絃弥のぼやきに罪と呪い纏う鎧 フォリス(つみとのろいまとうよろい・ふぉりす)が応える。
「さぁなぁ。でもおまえのせいで決まり! あとで何かうまいモンおごれっ」
 ランスバレスト発動。七枝刀を手に、絃弥はワームに突っ込んでいった。
(つーか、一番悪いのはイナンナだろ? モンスターってイナンナの飼い犬じゃん。封じられたとたん、主人をアッサリ変えるなんて……飼い犬の躾も満足にできねぇのか、あの女はっ)
 ちらりと視界に入ったイナンナの礼拝堂に、ひとしきり悪態をつく。
「復活したら覚えてろ〜っ。そのデカ乳、両手でもふもふもみしだいてやるっ」
 ていっ!
 ワームの毒液攻撃を避け、サイドへ回り込んだ絃弥は刀を立てると鬼神力でもって厚い皮膚を強引に切り裂いた。
 半円状に開いた傷口が、朱の飛沫で焼け焦げていく。
「……そういうことを口にしないで胸にしまっておければ、もう少し見直してやれるんだが」
「カタいこと言いっこなーしっ」
 ぐらり、ワームが傾いた。
 ワームは、いまや首の皮1枚――といってもそれはかなりの厚さがあったが――でつながっている状態だ。
「わっわっ……マスター、あの大きなの、こっちに倒れてきますよっ」
 七乃があせる中、大助は曙光銃エルドリッジを隣のグリムに押しつけて渡した。
「力を貸せ! ブラックブランド!」
 大助の意思に呼応するように、魔拳ブラックブランドの甲の家紋が光り輝き唸りを上げる。
「うおおおおおーーーーーっ!」
 渾身の一撃が叩き込まれ、ワームは完全に分断された。
 地響きをたてて、ワームの頭が広場に落下する。
 1体撃破。
 飛び出してきた町の者や兵士たちの喊声が、広場を埋め尽くした。