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またゴリラが出たぞ!

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またゴリラが出たぞ!

リアクション


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「初めまして、ドクター」
 次の患者さんは、浅葱 翡翠(あさぎ・ひすい)だ。
「前回、大学病院のほうに行った時はお留守だった様で、代理の田中さん(?)って方に診察して頂きまして大変助かりました。もしまだいらっしゃるのなら浅葱が感謝していた、とお伝え下さい」
「私が席を外していた時の患者さんか。しかし感謝など無用。彼はまだ研修の身だし、目を離すとすぐサボる」
 座敷の端でうーん……と唸るドクター田中を一瞥して言った。
「それでどのような相談でしょうか?」
「はい。某所で若年寄キャラでもいいのではないか、と言う事を言って頂き暫くそれを続けていたのですが、『冥界急行ナラカエクスプレス第2回 24P』にてアクションに入れても居ないのにさらっと地の文に(←此処重要)若年寄と書かれていたのに抱腹絶倒……もとい、大変ショックを受けたのですよ……
「そう言えばそんなこと書いた……いや、書かれていますね」
「その為、今回新たなキャラを発掘しようと相談に参りました」
「ほう、もうレベル60超えてるのにキャラ発掘とはなかなかチャレンジ精神がある」
「前回田中さんが仰られた様に若さを表してみようとした所、丁度来年度私は中二、つまりリアル厨二になってみようと思っています。……が、何分そんなキャラは初めてでして、具体的にどうすればいいのでしょう?」
「今回は治療ではなくカウンセリングか……」
 そう言うと、自らの左腕に包帯をグルグル巻き始めた。
「まず左腕に包帯、これが厨二のベーシックスタイルとなる」
「包帯……ふむふむ」
「厨二は設定が重要だ。この包帯も封印の包帯と言うことにして、こうして封じておかないと、左腕に封じ込めた邪神の力が暴走してしまう……と言う設定にしたまえ。この設定をさりげなくわざとらしく周囲にアピールするのも大切、授業中に『う……、左腕が疼くぜ』とか『この反応……ついに奴が目覚めたか』とか意味ありげに『クックック……』とか呟くとより厨二らしくなり、友達との溝も深まっていい感じだ。より厨二の孤独感を味わうことが出来るぞ」
「ありがとうございます、参考になりました」
「それは良かった。では、腕に巻く用の包帯を処方しておきますね」
 礼儀正しく翡翠が去ると、入れ替わりに好青年音井 博季(おとい・ひろき)がやってきた。
「見たところ悩みとは無縁そうだが……なにか悩みごとでも?」
「ええ、最近、友人や周りの方々から『爆発しろ』とか『前歯折れろ』とよく言われるんです……」
「それは酷いですね」
「家族(パートナー達)からは、妙に生暖かい目で見られるし……。ていうかいくら友人だとは言え、顔合わせるたびに爆発しろって酷くありませんか? 前歯折れろーとか。いくら僕だって傷つきますよ」
 ……まさかこれは社会問題ともなってるイジメ問題!?
 スーパードクターに緊張が走る。
「そう言われる原因というのが、リアクション『【2020修学旅行】東西シャンバラ修学旅行』の最終ページの件の、リンネさんとの事なんですけど……。ええと、思い返してみれば凄く恥ずかしい台詞だったんですが、つい、こう、すらすらっと口を出てしまって。い、いやぁ、だって恥ずかしいからって黙ったりしたら伝わらないじゃないですかぁ」
 カルテを読むスーパードクターの目に次第に光が失われていく。
 イジメなどとはほどとおい充実した青春の日々が、そこにはまばゆく光って広がっていたのだ。
「ほ、ほら! 修学旅行なんですし、思い出とか作りたかったし!」
「あ、そう」
 完全なるリア充トークに、不思議とスーパードクターの態度もドクター田中そっくりになった。
「と、とにかく! 僕は正常ですよねっ!? 至って普通のイチ魔術士ですよね!」
 そう言って、
「ただその……彼女のことがただひたすら好きなだけで……」
 えへへと垣間見せるはにかんだ表情がまたムカツク。
 耐えると言うことを知らないスーパードクターは、口に含んだドンペリを毒霧にように博季に浴びせた。
「うわああ! 汚い! 何するんですか!」
帰れ! そして死ね!
 一見、スーパードクターは気分で博季を追い払ったかに見えるがそれは違う。
 博季は病気ではなかった、健康な人間が物見遊山で精神科医を訪ねるのは、決して好ましいことではない。
 だから彼はあえて厳しい態度をとったのだ。イライラしたからとか言う低俗な理由じゃないのである。
 それは皆さんにも知っておいてほしい。
「リア充か……、俺の対極にいる陽のあたる世界の住人だな……」
「む?」
 どこからか声が聞こえた。だがどこから聞こえたのだろう。
「ここだ」
 はっと見上げると、天井にロイ・グラード(ろい・ぐらーど)が張り付いていた。
 岩巨人の腕を四本装備しているので両手足合わせると合計八本、これをこれをサイコキネシスで本物の腕のように動かし、なにかしきりにアピールしている。宴会芸にしてはいささかクオリティが低い。あと気味悪いので滑ってる。
 天井に固定させた20メートルのロープを伝ってするすると降りてきた。
「ドクター、聞いてくれ。俺は病気なのかもしれない」
そうでしょうとも
 即答で肯定するスーパードクター。
 ところが、この蜘蛛男はそう言われるとむしろ喜んだ。変態だ。
「なにかヤバイのはパッと見でわかりましたが……まあ、一応詳しい症状もうかがっておきましょう」
「ああ。ことの発端はナラカから帰還したその翌日のことだ。目が醒めると俺は何故か蜘蛛になっていた」
「ははぁ、蜘蛛……?」
 お世辞にもあまり蜘蛛っぽくない。何か悪ふざけをしてる人と言うのが、隠すことのない初見の印象である。
「もし俺が蜘蛛であることを認めようとしなくても問題は無い」
「はい?」
「俺は小学校に通っていた時、友人や先生、保護者の方々から『この蜘蛛野郎』と呼ばれていた。給食の時間には川原で見つけた虫を拾って食べていたし、初恋の相手も蜘蛛だった。今唐突に思い出したが、俺の両親は蜘蛛だったな
「どんな両親だよ!」
「これだけ証拠があれば蜘蛛と認めざるを得まい。認めないならナラカの蜘蛛糸でぐるぐる巻きにして食ってやるぞ」
 ニヤリと笑う。
「おっと、これではまるで蜘蛛のようだな!」
 どこにだしても恥ずかしくない狂気の沙汰である。
 そして、どうも病気を治療したいと言う意思が感じられない、自分が蜘蛛であることを世に広めたいだけのようだ。
「……わかりました、そんなに蜘蛛であることを広めたいなら、メディアの力を借りたらどうです?」
「なに?」
「ネット放送ですが、番組を作ってる知人がいます。彼の番組に出て思う存分アピールするといいでしょう」
「ほう、ネットか……、その単語が気に入った。出よう」
 さらさらと紹介状を書いてあげると、またすぅーっと律儀にロープを伝って天井に戻った。
 ちなみに知人の番組は『爆笑・おもしろ人間コンテスト』と言うものである。内容はタイトルから察してほしい。