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【カナン再生記】擾乱のトリーズン(第2回/全3回)

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【カナン再生記】擾乱のトリーズン(第2回/全3回)

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第25章 攻略! アジ・ダハーカ(3)

 幾度かの失敗を経て、戦場をバイクで駆け回っていた瓜生 コウの放った奈落の鉄鎖がダハーカの左端の頭を捕らえた。
「よし!」
 あきらかに動きが鈍った頭めがけ、バイクを寄せると鉤付きロープを引っかけて飛び移る。
 左目がつぶれているため、こっちは全くの死角だ。コウはロッククライミングの要領で、竜鱗に指を引っかけ上って行った。
「さあ、こいつを喰らえ!」
 鼻っ柱にまたがって、機晶姫の腕を口内に放り込む。内側に詰め込まれたC4爆薬が爆発する前に、コウはさっと飛び降りた。
 直後、激しい爆発が起きる。
「やった!!」
 爆風に押され、地面を転がったコウは、黒煙をあげる頭を見て快哉を叫んだ。
 頭の半分を吹き飛ばされ、のたうち暴れる首。ぶつかられた炎頭がよろけ、さらに氷頭にぶつかる。
 それを好機ととったカイがすかさず放った弾丸が、氷頭の右目をつぶした。
「もう1つ」
 苦痛によじれた頭が、おろかにもカイに左目をさらす。
 シャープシューターを使うまでもない。漆黒の魔弾は巨大な黄色の眼球に吸い込まれるように着弾した。
      ガアァアアアァアァァ…
 両目をつぶされた氷頭は、その痛みと見えない敵への恐怖に、四方に向けブリザードを放った。
 いったん距離をとって見守る彼らの前、氷頭のブリザードがかすめたことに腹を立てた炎頭ががぶりと首に噛みつく。
 本気ではない、落ち着かせようとした攻撃だったのだが、痛みに狂った氷頭には通じなかった。
 攻撃を受けたと思い込んだ氷頭は、本気でブリザードを炎頭に叩きつける。
「いまです」
 炎頭のうなじの一角が白く凍りついたのを見て、サー・ベディヴィア(さー・べでぃびあ)が聖剣エクスカリバーを構えた。
「我が王よ、大切な皆を守るため今こそあなたの剣エクスカリバーを使わせていただく」
 ランスバレストを発動させ、小型飛空艇から飛び降りる。その身を包み流動するは、ヒロイックアサルトとエンデュアの混合した虹のごとき輝き。
 落下の加速がランスバレストの光を強め、彼は夜空においてまぶしく光り輝く存在となった。
 だがそんな彼がダハーカの注意をひかないはずはない。
 自らに向かって落下してくる彼を待ち構え、ファイアストームを放とうとする炎頭。チカッと白い光が喉奥で発したのとほぼ同時に、加夜の放ったヘルファイアの暗い炎がその口元を横殴りにした。
「うおおおおっ!!」
 ベディヴィアの渾身の一撃が、炎頭のうなじの竜鱗を破壊し、貫いた。
      グギャアアーーーーッ!
 首の半分を切り裂かれ、炎頭は闇色の血を吹き出した。
 ぶら下がった頭はもう炎を吐くこともできず、だらりと舌を垂らして末期の痙攣に震えるのみ。
「そのタマ(魂)もらったあああぁぁぁーーーっ!!」
 レッサーワイバーンを蹴って飛び降りた玲奈が、間髪入れず残りの部分目掛けてランスバレストをかける。
 切り落とされ、地面を転がった炎頭に駆け寄り、大急ぎカインを呼びつけた。
「早く早く早く! 魂抜いちゃってっ」
 玲奈にせかされるまま、炎頭に手をあてるカイン。しかし彼は首を振った。
「こりゃできそうにねぇな。あきらめろ、玲奈」
「えーーーーっ」
 玲奈は心底ガックリと両肩を落とした。

 残る頭は盲目の氷頭ただ1つ。
 それまでランスバレスト、鬼神力、ドラゴンアーツ、怪力の籠手を用いてヒットアンドアウェイで攻撃していたウィングが仕掛けた。
 ワイバーンを急上昇させ、高度から一気に飛び降りる。
「これでとどめです」
 心頭滅却、チャージブレイク、ヒロイックアサルト――さらに次々とスキルを発動させていくウィング。
 ヒロイックアサルトの白光の中、虹色に流動するスキルの輝きは光跡となって夜空を走り、その光景はまるで1本の大剣――竜殺しの剣ドラゴンキラーを思わせた。
「白雷を纏い、大地を穿て!【グングニル】!!」
 ルータリア、ウィング、2人のスキルが合わさった、全力の龍飛翔突が氷頭の首のつけ根を分断する。

 頭全てを失ったダハーカは尾を打ち振りながらもよろよろと右に傾き…………腹をついて、地に沈んだのだった。



「セテカ・タイフォンじゃないですって?」
 まさかと目を瞠るメニエスは、その瞬間、完全に無防備になっていた。
 遠くで上がった歓声が、はっとメニエスに気を取り戻させる。
 直後、ディテクトエビルが反応した。
 振り仰いだ視線の先。そこには、忘却の槍を両手に構えたコハク・ソーロッドの姿が迫っていた。
 こんなに接近されるまで気づけなかったとは。
「……くっ」
 地獄の天使を展開し、宙に逃げる。
 しかしコハクの放ったランスバレストを完全に避けきることはかなわず、右の二の腕を裂かれた。
「メニエス! もう僕は昔の僕じゃない! 大切な人たちを、おまえなんかに絶対傷つけさせたりはしない!!」
 それは魂を賭けての誓い、宣言だった。
 1枚のタロットカードが飛び、メニエスのすぐ近くでファイアストームが燃え上がる。
「コハクの言う通りなのだ」
 リリだ。
 その背後では、ユリが幸せの歌、驚きの歌を熱唱している。
 無限とさえ思えたアンデッドは彼女たちの周りでバタバタと倒れ、崩れていっていた。
 静佳たちがエンディムの元までたどりつき、その首を落とすことに成功したのだ。
「おだまり!」
 メニエスがファイアストームを導き、放出した。
 リリが先ほど導いたものよりはるかに苛烈な炎だ。
 リリは雄々しく何事もないように見せてはいたが、アンデッドとの戦いで疲労した体では立っているのがやっとの状態だ。
 光条兵器・ニケの翼を盾とし、なんとか防いだが、よろけて膝をついた体はもう立ち上がることもできなかった。
「リリ!」
 ユリとララが駆け寄る。
「……問題ないのだ。奇襲が失敗した時点で、われわれの戦略的勝利なのだよ。だがたしかにこのままでは――」
 地面に散らばったタロットカードの中から死神のカードを選びとり、リリは自らの血をもって『クロウリーの六芒星』を描いた。
「あの額の印……おそらくあれには何かあるのだ。少しでも封じられれば…」
「リリさんッ! もう……もうそれ以上は…!」
「ヴァンドール!」
 ララは自らのペガサスを呼んだ。
 主の呼び声に応え、空を駆けてきたペガサスに飛び乗り、そのままメニエスに特攻するかに見えたララだったが。
 しかし彼女はペガサスの背を蹴り、加速ブースターを用いてその背をとった。
「これが最初のチェックさ。次はチェックメイト――」
「愚かな。そんな使い古された手があたしに通じると思うとは」
 死神のカードを突き出すララの手を反対に掴みとり、メニエスはエンドレス・ナイトメアを放った。
「ララッ!!」
 ララは高濃度の暗黒の気を浴びて一瞬で意識を失い、メニエスに吊り下げられる。メニエスは手を離し、重い荷物を地表へ落とした。
 地上で自分を見上げている者たちに視線を向ける。戦闘不能に陥っていた者たちも、椿の治療により、今ではほとんどの者が回復している。
 ロイ・グラードはいつの間にか姿を消しているし、ダハーカもエンディムもやられ、セテカ・タイフォンの居所は不明。
「……これ以上ここにいても時間の無駄ね」
 メニエスは肩をすくめて見せると、そのまま飛び去っていった。



「むん!」
 六黒の重い一撃がアコナイトの背に入り、地獄の天使を叩き折った。
 地に叩きつけられ、穴を穿つ。
 気を失い、ぴくりとも動かないアコナイトを足下に見て、六黒は先に受けた攻撃で切れた口内の血を吐き捨てた。吸精幻夜で回復を図ろうとした六黒だったが、近づく人の気配を感じて手を止める。
 しかしそれは悪路だった。
「終わりましたよ――って、あら? こっちはまだですか? またずいぶん時間がかかってますね」
 悪路はため息をつき、銃撃している冴王を見た。
 全然相手に当たっていないので、ただ闇に向かって無意味に撃ってるように見える。
 ナコトもまた魔道銃に切り替えて、両手撃ちで対抗している。冴王は何発かくらったらしく、服を裂かれて血が流れていた。
 たしかにそれだけを見ればナコトが有利に見える。しかし、形勢はあきらかに冴王の側に傾いていた。
「そんな、マイロード…!」
 操っていた意識は奈落人のアコナイトとはいえ、肉体はアルコリアであることに違いはない。アルコリアの敗北を見て動揺した隙をついて、沙酉が仕掛けた。
 ベルフラマントで接近し、真横からヒプノシスを放つ。
 瞬時に意識を失い、倒れるナコト。
 戦いは決着し、軍配は六黒一派に上がった。
「それで、向こうはどうした」
「え? ああ、はい。こちらの予想通りです。バァルは連れ去られ、アジ・ダハーカとエンディムは倒されました」
 そして悪路は前もっての打ち合わせ通りに2体のモンスターが斃れた時点でバァルがさらわれたことを将軍たちに知らせ、アナト大荒野の東端まで撤退するよう進言したのだった。
「最初は皆さん信じなかったんですがね、バァルの姿はどこにもないし、ハン将軍は身ぐるみはがされた状態で発見されるし、反乱軍はさっさと撤退を始めるしで、ようやく信じたようです」
「そうか」
 いよいよだと思った。
 バァルを欠いた正規軍を六黒が乗っ取り、東カナンの主軸に食い込むのだ。
 兵に被害を出させないようになどと、バァルのような甘い戦い方はしない。一気に反乱軍を殲滅してみせる。
「行くぞ」
「それなんですけどねぇ…」
 冴王と沙酉が戻るのを待ち、歩き出そうとした六黒の前に回り込み、悪路はにやついた。
 自分でも笑いが抑えられないようだ。
「実は、いい話が舞い込んできたんですよ。あちらの方から」
 あっち、と悪路が指差した先。そこには、ワイバーンを連れた1人の神官兵が立っていた。
 六黒たちに向け、軽く頭を下げている。
「あなたたちの戦いをご覧になっていたある御方が、ぜひお話ししたいって」
 悪路は得意満面、両手をぱんと打ちつけた。