校長室
【ロリオとジュエリン】アンノルドル・ルージュ
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第2章 J’obe‘is certainement ’a un ordre de la Reine.-女王様の命令に絶対服従- 「アスカ〜?出ておいで〜。かわい〜くしてあげるだけよ〜?絶対悪いようにしないから〜・・・。んもう、化粧を覚える年頃なのに、どうしてイヤがるのかしら?」 師王 アスカ(しおう・あすか)に化粧の仕方を教えてあげようと、オルベール・ルシフェリア(おるべーる・るしふぇりあ)は化粧道具を抱えて、逃げ回る彼女を探す。 「しっつこいわねぇ〜。だいたい化粧なんて、顔にべたべたと絵の具を塗るようなものじゃない?絵はカンバスに描くものよ〜。カンバスみたいに自分の顔に描かれるなんて、絶対イヤ〜ッ!」 全力疾走したアスカは息を切らせ、草の陰に隠れてオルベールが諦めるのをじっと待つ。 「屋敷の中にちょっとだけ隠れさせてもらおうかしら?私のことまったく知らないわけじゃないから、きっと大丈夫よねぇ♪―・・・あら、あれって・・・」 門によじ登ろうとすると、見知った顔の者たちが庭を走り回っている。 「コスプレちゃんったら、また追いかけてるのねぇ〜。ねぇー、ちょっと屋敷の中にかくまってくれないかしら〜?」 オルベールから逃げきるために保護してもらおうと、大きな声でジュエリンに呼びかける。 「いらっしゃい、アスカさん。ご自由にどうぞ!」 「ありがとうー♪」 許可をもらった彼女は門をよじ登り、とんっと石畳の上に降りる。 「ん?コスプレちゃんが持ってる口紅、なんか変わった色ね。どうしたの、今度はお化粧させられそうなのぉ〜?」 必死に逃げるロリオに、女の子みたいに化粧されそうなのかと聞く。 「いいえ!あれは相手をお化粧させるための口紅じゃありません。それを塗った相手の命令を何でも聞いてしまう、とても恐ろしい口紅なんです!」 「唇に塗ればいいの〜?」 「―・・・えぇ、それ以外は効力がありませんね」 「もしかしなくても、コスプレちゃんが作ったのねぇ・・・。(何でも命令出来る魔法の口紅なんて面白そうじゃないの〜♪)」 クスッと黒い笑みを浮かべたアスカはジュエリンから頂いて遊ぼうと、少女が手にしているルージュに視線をロックオンさせる。 「コスプレちゃん、お久しぶりねぇ。さっきロリオ君に聞いたんだけど、そのルージュで相手に言うことを聞かせられるの〜?」 「でも効き目があるのは近くにいる相手だけですわ」 「ん〜。コスプレちゃんに協力してあげるから、少しだけ私に貸してくれないかしら」 「今、ロリオに私がコーディネートしたお洋服を着てもらうところなんですの。その後ではいけませんか?」 「逃げられちゃうと困るってわけねぇ〜。じゃあ、コスプレちゃんまだ追いかけているふりをちょうだい。そしたら私が向こうから追い詰めて、ロリオ君が逃げちゃわないように命令するわ」 「うーん・・・分かりました・・・。ちゃんとお約束を守っていただけるならお貸しいたしますわ」 「フフッ、ありがとうねぇ〜」 ジュエリンから受け取り、さっそくルージュを唇にキュッと塗る。 アスカは袖で唇を隠して花のアーチの方へ回り込み、ロリオを待ち構える。 「まったく、いつまで追いかけてくる気ですか。―・・・アスカさん?え、どうしてあなたが道を阻むんですか」 「それはね〜、こういうことなのぉ。ごめんなさいねぇ〜♪」 「は・・・?な、なんだってぇえぇええ!?」 眼前のグリーンカラーの唇に、思わず大声を上げてしまう。 「ロリオ君、考える人のポーズを取ってちょうだい♪」 「マジ、ありえねぇえっ」 まさかの相手に命令されたロリオは、石の上で考える人のポーズを取らされてしまった。 ジュエリンの影響でまともな人間が、J(ジュエリン)ウィルスに感染したかのように見えた。 「効き目は本物みたいねぇ。これでベルにお返しよぉ!」 コスプレさせられまくった仕返しをしようと、アスカは復讐のオーラを発してルージュを握り締める。 「後、何分待てばいいんだ・・・。ジュエリンに命令される前に、あのルージュを破壊しなければいけないのに」 「相手に命令出来るルージュですかぁ?欲しいですぅ〜!」 学校の授業に使う草花を採取にやってきたエリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)はロリオの呟きを耳にし、目新しい玩具を見つけた子供のように目をキラキラを輝かせる。 「ふむ、なんとも素晴らしいのぅ。ぜひとも手に入れて調べたいものじゃ」 アーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)の方は、いい研究対象になりそうだとニンマリと笑う。 「欲しいですぅ〜!これから先ずーっと、大ババ様のオヤツはぜ〜んぶ私のものにするんですぅ♪」」 「ならぬ、あれは玩具にしてよいものではない。仕方がないのぅ、この私が管理してやろう」 ルージュを自分の物にしようとする彼女に対して、子供を叱りつけるように言う。 「先に頂いて私に大ババ様が逆らわないように命令しちゃえば、問題なのですよぉ♪」 「な!?たわけ!エリザベートに渡すとろくなことにならんっ。それに他の者の手に渡ってしまったら、私利私欲のために使われてしまうかもしれぬのじゃ。こうなったらルージュも本も、私が破壊してくれる!」 「そうはさせないですぅー!!私には明日香がいるんですよぉ〜。大ババ様1人で何が出来るというのですかぁ〜?」 「エリザベートちゃんのためなら、ぱぱっと回収してきます♪」 神代 明日香(かみしろ・あすか)はニッコリと微笑むとエリザベートと手をつなぎ、空飛ぶ魔法で門の上を軽々と飛んでいく。 「この・・・っ、けしからん者どもめ!待つのじゃーっ!!」 欲を満たすためにルージュを狙う者に向かって怒鳴り、空飛ぶ魔法で追いかける。 「大変です、ミハエル。人に命令して操るルージュを校長が狙っています!」 このままではどんでもない思いつきや欲のために使われてしまうと、朱宮 満夜(あけみや・まよ)が声を上げる。 「誰の手に渡ってもろくなことにならんだろう。そんなものさっさと破壊しないとな」 ミハエル・ローゼンブルグ(みはえる・ろーぜんぶるぐ)は不愉快そうに渋面を浮かべる。 2人は空飛ぶ箒に乗り門を飛び越え、所持者のアスカの元へ迫る。 「騒ぎを大きくすればベルが気づきやすいかもねぇ。校長と大ババ様、招き猫のポーズを取ってちょうだい〜」 ルージュを奪おうとする彼女たちにアスカが命令する。 「えぇ〜、すぐそこにルージュがあるのに酷いですぅ〜」 「こら!やめるのじゃ、アスカ!」 「招き猫なエリザベートちゃん、可愛すぎますーっ!!」 少女の愛らしい姿に明日香はルージュのことを忘却の彼方へすっ飛ばしてぎゅむっと抱きつく。 「アスカさん、それを離さないと危ないですよ!」 元凶の元を破壊しようと満夜は雷術でアスカの手元を狙う。 「イヤよ。悪いけど、まだ必要なのよ〜」 イナンナの加護で身の危機を察知し、フォースフィールドのバリアで雷をガードする。 「まったく効かないというわけではないだろう?」 ミハエルはそれがどうしたという態度で冷酷に言い放ち、サンダーブラストの雷の雨を降らす。 「今のはちょ〜っと痺れたわねぇ。ミハエルに罰として、猿の反省のポーズを取らせるわ〜。満夜にはそうねぇ、グラビアアイドル風のポーズを取らせるわ♪」 「んなっ!?どうして我がこんなポーズを取らされるんだ!!?満夜!そんなけしからんポーズ、我が許さんぞっ」 「そんなこと言われても、命令のせいで身体の自由が利かないんですよ!」 アスカにカメラ目線なポーズを取らされ、満夜まで身動きが取れない。 「何だ、あの奇妙な集団は」 イルミンスールの森に迷い込んでしまったエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)が、ポーズを取ってきゃーきゃーと騒ぐ集団を目にする。 「あの口紅のせいか?」 花のアーチの傍でアスカが握っているルージュを軽く睨む。 「妙な騒動が起きてるようだ。迷惑な者たちを片付けてやろう、邪魔するぞ」 セキュリティカメラに向かって言い、屋敷のメイドに門を開けてもらう。 「本当に行くんですか、お兄ちゃん。何だか怖そうですよっ」 ミュリエル・クロンティリス(みゅりえる・くろんてぃりす)はあわあわと慌てながらも彼についていく。 「あの2人の命令が解けると事態が余計混乱しそうだな。ともあれ、何もしないまま時が過ぎていくのを待つわけにもいかないか」 ルージュの所持者のアスカへ視線を移し、エヴァルトは造園の陰に隠れる。 「慎重になりすぎるとかえって相手に気づかれてしまうな。ここは行動あるのみだ」 命令中のアスカの背後を狙いフッとブロウガンの矢を吹き彼女の手からルージュを弾く。 「フッ、もう遅い・・・」 空中でクルクルと回転するルージュを鉤爪で絡め取り、ワイヤーを引き手元へ寄せて花畑の中へ放り込む。 「どこから狙ってきたのぉ〜!?」 無駄な迷いのない鮮やかな襲撃を察知しきれず、手の中からあっさり失ってしまった。 「まだ所有者は私のはずよ〜。効果がなくなっちゃう前に探さなきゃ!」 命令した者たちが動き出し、反撃してきてしまうと大慌てで探す。 「これが好きに命令出来るっていうルージュですか?」 血眼になって探しているアスカをちらりと見て、ミュリエルがササッと拾ってしまう。 「元はお化粧道具なんですよね?何でこんな色なんでしょうか」 不気味なグリーンのルージュをじっと見つめる。 「これがあれば、お兄ちゃんとあんなことや、こんなことが・・・」 -ミュリエルの想像- 「お兄ちゃん、抱っこしてください!」 「ほら・・・、抱っこしてやるからおいで」 エヴァルトはルージュを唇に塗った少女の命令を聞いてしまい、お姫様抱っこしてあげようと両腕を広げる。 「わぁ〜い♪」 嬉しそうに彼へポフッと飛びつき、抱っこしてもらう。 「眠たくなってきちゃいました・・・。今夜からお兄ちゃんと一緒に眠りたいです♪」 「あぁ、いいぞ。一緒に眠ろう」 「やった〜、嬉しいです!」 お姫様抱っこしてもらったまま、一緒に眠る約束までしてもらう。 「(後は、後はー・・・)」 無邪気な子供の笑顔で、彼へのお願いごとが叶ったムービーを脳内で流し、もあもあと想像する。 -ミュリエルの現実- 「いいですねー・・・使ってみたいですね・・・。―・・・あぁ!?」 「まだ化粧するには早いだろう」 想像するだけで使おうか迷っているミュリエルの手からエヴァルトがサッと回収する。 「やっぱり、魔法の道具に頼るなんていけませんよね!」 「それに、こんな物騒な代物は・・・こうだ!」 アーデルハイトの額へ目掛け、ルージュを指で弾き飛ばす。 ドラゴンアーツのパワーでビュァアッとかっ飛んでいく。 バシィイッ。 「フフッ、そう簡単に壊させないわよぉ〜?」 オルベールへ仕返しが済んでいないアスカが両手でキャッチする。 「―・・・自ら傷ついても欲を満たそうというのか!?」 衝撃で両手からポタポタと血を流す彼女の姿に、人間の欲の深さというものを思い知らされた。 「く・・・っ。だが、その手で守りきれるか?」 「そんなの簡単よぉ」 「強がりもほどほどにしておいたほうがいいぞ」 「だって、あなたに命令すればいいだけだもの。それ以上にいいアイデアがあるかしらぁ?」 「なんだと・・・?」 「エヴァルト、その石畳の上に正座してちょうだい♪」 ニヤッと唇にルージュを塗り、彼に命令して正座させる。 「―・・・抵抗出来ないとは。なんて屈辱的な・・・っ」 「ん〜そうね、あなたは招き猫のポーズでもしてちょうだい」 「えぇえん、お兄ちゃん〜っ」 彼の傍で招き猫のポーズをさせられたミュリエルが、めそっと涙目になる。 「絶えろ・・・10分間の我慢だ・・・」 「そんなぁ、10分も辛いですよ!」 「面白くなってきたわ!他にターゲットはいないかしら!?」 「アスカさん、女王様な気分もここで終わりだよ」 神野 永太(じんの・えいた)はシュトラールの柄を握り、命令することに楽しみを覚え初めたアスカを見据える。 「皆にはまだいろーんなポーズを取ってもらいたいのよぉ〜」 「何を言っても無駄なようだね。手加減なんかしないっ」 「フッ、そんなもの無用だわ〜。私にはルージュがあるんだもの」 「だったら男女平等に成敗するまでだけど?」 シュパァッ。 水晶の刃を抜き、ルージュを持つ手その手を狙う。 「それだけかしら〜。ほらほら、早くしないと命令するわよぉ」 「逃がさないっ」 刃に光の尾を引かせターゲットに切っ先を向け、木の上に待機しているミニス・ウインドリィ(みにす・ういんどりぃ)の方へ視線をちらりと送る。 「あぁ〜、早く手放しちゃえばよったのにねっ」 ミニスは雷術の雷を容赦なく落とし、アスカを追い詰めようとする。 「甘いわねぇ!」 少女の術はアスカに届かず、フォースフィールドで容易くガードされてしまう。 「残念ね?それじゃあ私は倒せないわよぉ」 永太の刃を名も無き画家のパレットナイフで止める。 「さぁ、どうかな・・・」 「この状況で勝ち目があるというのかしらぁ」 「だったら魔獣たちを呼んじゃうんだから!皆ー、おいでーーっ!!」 ミニスの声にどこからともなく魔獣たちが現れ、ドドドドッと轟音を立てて庭を駆ける。 「そんなの、私の敵じゃないわねぇ」 アスカは銀色の瞳をギラつかせ、鬼神力を込めた拳で魔獣どもを殴り倒す。 「やっと隙が出来たね?」 勝ち誇ったようにニヤッと笑った永太は、彼女に向かってシーリングランスを放つ。 「く、ぁあっ!!」 まともにくらってしまったアスカがガクンッと地面に膝をつく。 「しばらくはスキルが使えそうにないみたいだね。さっさと危険物を破壊させてもらおうか」 もう反撃なんて出来ないだろうと思い、土の上に転がっているルージュの傍に彼がゆっくりと歩み寄る。 「永太、アスカが何か持っているよ!」 「スキルが使えないんじゃ、何をしようと無駄さ」 「壊させないわよぉ。その花壇の傍で、考える人のポーズをしてもらおうかしらぁ?」 「何言ってるんだよ。もうルージュは手元に・・・、なっ何だ!?身体が勝手にっ」 「フッ、フフフッ。みーんな詰が甘すぎだわぁ」 「仕込みルージュか!?」 「これくらい念のため、持っていて当たり前よぉ?」 「アスカさん・・・あなたという人は・・・・・・っ!!」 袖に隠されたルージュの破片を睨み、悔しそうに叫ぶ。 「パートナーの子にはぶりっ子のポーズをしてもらっちゃうわねぇ♪」 「ひやぁあ、いやぁああ」 「あはははっ、楽しいわぁ♪」 ルージュを拾い上げたアスカは、まるで女王様のように高笑いをする。 「アスカったらどこにいったのよ。私が化粧をさせたら、すっごく可愛くなるはずなのよ!今も可愛いけどね♪―・・・なんだか屋敷の方が何か騒がしいわね」 化粧をした彼女の姿を想像しながらオルベールはニッコリ顔になる。 「―・・・なんだか屋敷の方が何か騒がしいわね。悲鳴まで聞こえるし、何かしら?・・・何か嫌な予感がするわ。この声って・・・!?」 騒ぎ声に何事かと門の傍に行くと、聞き慣れた声音が聞こえてきた。 「私のパートナーが屋敷でなんかしでかしちゃってるみたいなの。お願い、中に入れてちょうだい!」 監視モニーターを見上げて必死に頼み込む。 「ごめんなさいね、ありがとうっ」 ガガガッと開かれた門の向こうへ飛び込み、アスカの傍へ走る。 「あ、アスカ!何て趣味の悪い色をした口紅を塗ってるの!?」 唇を毒々しいグリーンカラーに染めている彼女に驚き、化粧水を含ませたハンカチで拭き取ろうとする。 「今すぐふき取って別の口紅を・・・」 「ベル、バレエのアラベスクのポーズをしてくれないかしらぁ?」 「えっ?きゃあ!何よこれ〜!体が動かないじゃない!?」 「この前のお返しよぉ〜、しばらくそのままでいてちょうだいねぇ」 「こらー!待ちなさいアスカー!!結構しんどいんですけどっ!?」 どんどんブラックな女王様に染まっていくアスカを呼び止めようとするが、彼女の声音は虚しく響き空に飲まれた。 その頃、なかなか戻ってこないパートナーを探しに、蒼灯 鴉(そうひ・からす)がイルミンスールの森へやってきた。 「ふわあ・・・眠い。さすがに飲みすぎたか」 もう昼近くなのだが、眠たそうに目を擦る。 「―・・・・・・何だ?―・・・・・・残念という感じはしないが、現実みたいだな」 まだ夢の中なのかと思い、振り返ってもう一度オルベールを見る。 「とうとう頭のネジをどこかに落としてきたか、変なポーズしやがって」 「バカラス!何とかしなさいよ!」 時刻耳の如く彼の声を聞いた彼女が門の向こうから怒鳴り散らす。 「不審者が1匹侵入してしまったようだ。回収させてくれないか?」 メイドに門を開けてもらい、通報されたら厄介だと早々にその場から撤去しようと、オルベールのところへ嫌々ながらも行ってやる。 「早くなんとかしてよっ」 「ぁあ、うるさい・・・頭に響くだろ」 騒ぎ立てる彼女の声に、鬱陶しそうに鴉が嘆息する。 「両手足を普通に下ろせばいいだろ?おい・・・ふざけているのか?力を抜け・・・」 元の姿勢に戻してやろうとするものの、まるで石化したかのように戻らない。 「趣味の悪い色の口紅を塗ったアスカにいきなり命令されて、こんなことになっちゃったのよ」 「は?アスカが?またあいつは・・・。面倒だが止めるか・・・。原因はおそらく、その口紅だろうな・・・。どこで手に入れたか分かるか?」 「たぶんだけど、この屋敷に住んでるコスプレ大好きな女の子が作ったんだと思うわ」 「元凶はそのコスプレ女だな」 また厄介なものを作ったものだと、ふぅとため息をつく。 「おい・・・命令させる口紅を作ったのはお前か?」 ルージュが手元に戻ってくるのを待っているジュエリンを見つけ、静かな口調で話しかける。 「えぇ、そうですわよ」 「本人の意思関係なくこんなことやめろ・・・迷惑な押し付けをするな。コスプレして欲しかったら、ちゃんと話し合え」 「だって・・・だって、ロリオったら私がコーディネートしたお洋服を全然着てくださらないんですもの」 「本気で好きなら相手の気持ちを考えろ」 瞳を潤ませる少女にデコピンをしてお説教する。 「うりゅ・・・」 「で・・・、それの使用ルールを教えてもらおうか?」 「はい・・・。ルージュの使用者は1人だけですの。それを唇に塗ると所有権を得られますわ。他の方が塗ってしまうと、その方に権利が移ってしまいますの。権利を持ったまま手放したり、削って使用することも出来ますわ。ただし、権利を失うと削ったルージュの効果はなくなってしまいますわね。何人も命令することができますけど、1人づつにしか出来ませんの。効力は10分しかもちませんわ」 「なるほどな・・・。かなり小賢しい手段を使うことも出来るというわけか・・・。さて、そろそろアスカを止めるか」 庭にいる者たちに命令しているアスカのところへ行く。 「私と止めようなんて、そうわいかないわよぉ〜」 背後から狙う鴉の存在に気づき、ぱっと振り返る。 「そうねぇ、鴉には・・・ひきゃぁあ!?」 突然耳をいじられ彼の手を振り払おうとしたとたん、ルージュを手放してしまった。 「(本体がなくったって、まだこの仕込み口紅が残っているんだからぁっ。きゃぁあっ、また耳を!!)」 袖に隠してある破片を取り出そうとしたがすでに遅く、後ろから鴉に捕まってしまう。 破片も鴉に回収されてしまい、アスカは気の抜けた炭酸のように、へなへなと力が抜けた。 「とりえず皆に謝っておけ・・・」 鴉は彼女の唇にべっとりついた口紅を拭いてやり、命令をして弄んだ者たちに謝るように言う。 「うぅ・・・分かったわよぉ。皆、ごめんねぇ」 「素直に謝ったなら許してやらなくもない。では例の物をこっちに渡してもらおうか?」 アスカの命令の効力が消え去った頃、けしからんルージュをよこすように、ミハエルが彼女に片手を差し出す。 「ちょっともったいないけど仕方ないわねぇ。鴉、渡してあげて」 「あぁ・・・確かここに・・・」 「ちょっと考えごとして、余所見しちゃってたわ」 「ごめんなさいっ」 鴉にぶつかってしまった魔法学校の女子の2人が、小さく頭を下げて謝り顔を俯かせたまま通り過ぎる。 「―・・・袖の中に入れたはずだが・・・?」 「それってこれのことかしら?壊しちゃうなら私にちょうだい♪」 わざと彼にぶつかったカティヤ・セラート(かてぃや・せらーと)たちが、スリのように掠め取ってしまったのだ。 「すみません、どうしても使ってみたくて!」 協力者の遠野 歌菜(とおの・かな)はピリついた空気にまた謝ってしまう。 「大人しくこっちへ渡してくれないか・・・」 「さっさと返すなら、仕置きはしないでやろう」 ルージュを奪還しようと、鴉とミハエルがカティヤに詰め寄る。 「んー、イヤって言ったら?」 「力づくで取り戻すだけだ」 「じゃあ・・・ミハエル、右向けー右!前へー進めっ」 断る!という態度で唇に塗り、ミハエルに命令する。 「ミハエル、どこへ行くんですか!?」 「わ、我にも分からん!身体が勝手にぃい。おのれぇええ、この礼は倍にして返してやるぞ!」 「鴉も右向け〜右♪、前へー進め!」 「くっ・・・、古典的なやり方に落ちるとは・・・」 「きゃははは、バッカラス。なぁにやってるの?めちゃくちゃ面白いことになってるわよ」 「うるさい・・・黙れ・・・っ」 からかうオルベールを鴉がギロリと睨みつける。 「どこいくの〜、鴉」 「分からん・・・。ただ1つ分かってることは・・・所有者が変わらない限り、このまま真っ直ぐ・・・10分間進まされることだけだ・・・」 カッティヤに命じられた鴉は遠くへ追いやられてしまった。 「このっ、けしからん娘たちめ。仕置きしてやるからそこで待っていろ!」 「追いつけるものなら追いついてみなさいよ。まぁ、逆走しているんじゃ無理でしょうけどね。じゃあねぇえ〜♪」 怒鳴るミハエルに対してカティヤはクスクスと笑い、歌菜と一緒にバーストダッシュで走り去ってしまった。