波羅蜜多実業高等学校へ

葦原明倫館

校長室

空京大学へ

魂の器・第3章~3Girls end roll~

リアクション公開中!

魂の器・第3章~3Girls end roll~
魂の器・第3章~3Girls end roll~ 魂の器・第3章~3Girls end roll~

リアクション

 
 それぞれが用を済ませて落ち着いた所で、ヒラニプラに向かう面々はライナスの研究所を辞することにした。
 リネン・エルフト(りねん・えるふと)も外に出て、安心したように言う。
「今度こそ、終わったのね、チェリー……」
 だが、チェリーは浮かない表情で首を振った。
「……私、ファーシーについて山田太郎の弔いに行こうと思ってるんだ……。だから、まだ……」
 それを聞いて、リネンはファーシーの方を見た。そして、チェリーに向き直る。
「……そう、チェリーは山田のところにいくのね。なら、私も付き合うわ……。言ったでしょ? 全力であなたを守る、って……」
「……リネン……」
 その頃、皆は軒先に出てきたライナスとポーリアに挨拶をしていた。スバルは中で赤子をみていてお留守番である。
「ポーリアさん、これ、良かったらどうぞ。出産中からその後のお祝いの光景まで収めてあります」
「これは、さっき撮った写真ですわ」
 ステラがビデオに撮った記録媒体を、フィリッパが写真をポーリアに渡す。大切そうにそれを受け取ると、彼女は微笑んだ。
「ありがとうございます。このビデオ、あの子が大きくなった時に家族で観ますね」
「はい、ぜひ」
「ポーリアさん、またね。わたしも、おかげで色々考えられたわ」
 ファーシーが言い、ステラは彼女と、そしてアクアに聞いてみる。
「ファーシーさんは、今日の出産に対してどんなことを考えたんですか? アクアさんも。同じ機晶姫として少し聞いてみたいな、と思ったのですが」
「「え?」」
 2人は同時に声を上げた。先に反応したのはアクアだ。
「そ、そんなことを突然言われても……。初めてでしたし、私自身出産出来るなんて知りませんでしたが……。そうですね、知識としては参考になりました」
「わたしは……」
 ファーシーは1度言葉を切り、それから恥ずかしそうに続けた。
「すごく為になったわ。出産がどういうものか分かったし……。わたし自身、どうしようかと思ってたから」
「ということは、どうするか決めたんですか?」
 ステラは少し期待を込めて言った。『思ってた』ということは、悩みは過去のもので今は結論が出ている。そう考えたのだが――
「ううん、まだよ。そう簡単に決められることじゃないからね」
 彼女は、明るい笑顔を浮かべてそう答える。その頃、朝野3姉妹もライナス達に挨拶していた。
「ライナスさん、ありがとうございました。また今度近くに寄ったらお邪魔しますね」
「ああ、まあ茶ぐらいは出そう」
 ライナスに礼を言った未沙は、ポーリアにも快活な笑顔を向ける。
「おめでとう。元気な子に育ててね!」
「はい、絶対に。ありがとうございます」
 母乳を吸われたポーリアは、苦笑いぎみに彼女に応える。
「ライナスさん、ポーリアさん、またねなのー」
「ライナス様、お世話になりましたぁ。ポーリア様スバル様とお幸せにぃ」
 未羅と未那も2人に挨拶し、他の皆も個々に軽く挨拶して研究所を出発する。これまた、中々の大所帯だ。
 そして、少し荒野を進んだところで――
「誰か、来るな……」
 チェリーが立ち止まり、耳をぴくぴくとさせた。イルミンスールのある方角から、1台の小型飛空艇オイレが飛んでくる。
「青みの濃い髪の機晶姫と赤茶色の髪の犬の獣人……、ファーシーとチェリーで間違いないよね」
 運転席に座る緋王 輝夜(ひおう・かぐや)は、上空から2人の姿を確認すると下に降りた。一向の前にまわって空中で停まり、ファーシー達に名前を確認してから同行を申し出る。
「ごめん、あたしも一緒に行って良いかな?」
「え、え? うん、良いわよ」
 驚きつつもあっさりと返事をするファーシーだったが、チェリーを守ろうとする生徒達は若干の警戒を彼女に向けた。突然やってきた素性の判らない者を同行者として迎えて何かあったらコトである。
 だが、その問題はアクアと一緒にいた衿栖と茅野瀬 朱里(ちのせ・あかり)によって解消された。
「輝夜は私達の友人です。何も心配ありませんよ」
「大丈夫だよ!」
「……特に面識は無いし、あの事件の日にも見かけていない。大丈夫だと、思う……」
「ありがとう!」
 チェリーも安全だと言い、輝夜は無事に一行に加わることになった。
「でも……どうして私達と?」
 自分達と一緒に行く理由が全く思いつかない。第一、どこから自分達のことを知ったのか……。そんな疑問を持ってチェリーが訊くと、輝夜は、ほんの少し、表情に翳りを見せた。
「……ちょっと、野暮用があるんだ」

                            ◇◇

「全く、紫音の女好きには困ったもんどす」
 大荒野を行きながら、綾小路 風花(あやのこうじ・ふうか)はファーシーに御剣 紫音(みつるぎ・しおん)の素行について愚痴を洩らしていた。天御柱学院に帰るついでに空京までファーシー達を護衛しよう、との紫音の考えからこうして同行している。以前に警戒していたアクアから狙われることはもう無いが、空京に帰るまでにそれ以外に襲われる事もあるかもしれない。
 アルス・ノトリア(あるす・のとりあ)もディテクトエビルを使いつつ、それを悟られないように風花の話に乗っていた。
「研究所でも助手の女性や模擬戦に来た女生徒を気にしたりナンパしてたからのう」
「あー……、そういえば何回か見かけたかも」
 ファーシーは研究所での光景を思い出した。
「見る度に違う女の人と話してて、何だか楽しそうだったわね」
 そう言うと、アストレイア・ロストチャイルド(あすとれいあ・ろすとちゃいるど)が1つ溜息をつく。
「あれは直らないものなんじゃろうか。今まで何人に声を掛けているのか、もう分からないくらいじゃからなあ……」
「ふーん……」
 ちらり、と斜め後ろを歩く紫音を振り返る。
(やばい……)
 殺気看破で周囲を警戒していた彼は、ファーシー達の視線を受けて少し距離を取った。いや、決して殺気を感じたわけではないが。
「機晶姫の赤ちゃん、可愛かったどすなあ……。私も紫音の子供が欲しいどす」
 ぽつりと風花が呟き、ファーシーはそれを聞いて嬉しそうに目を細める。
「風花さんは紫音さんが大好きなんだね」
「紫音はとても大事な人どすから」
(……殺気だ。こっちに向かってくる)
 その時、風花達の頭に紫音の声が響いた。テレパシーだ。敵の姿を急ぎ目視しようと、アルスとアストレイアも遠くまで目を凝らして神経を張り巡らせる。
「右じゃ!」
 害意を感じ取ったアルスが叫ぶ。
 その瞬間、猛スピードで何かが突進してきた気配があった。気配は60人近い集団に飛び込んできて縦横無尽に動く。皆の目に入るのは、一瞬。人影はそれぞれの間を縫うように移動し、生徒達が身構えて距離を取る頃には姿を消すという事を繰り返した。生徒達の連携を分断し、尚且つ射撃や範囲攻撃を受けない為の動きである。
 とにかく、速い。
 生身の状態でのこの速さは、千里走りの術によるものだ。小型飛空艇3倍の速さに流星のアンクレットの効果が付加され、時速100は優に超えている。尤も、アンクレットの効果自体は微々たるものであったが――。
「隠れ身を使ってるのか……!」
 紫音は、自分の目前に現れた人影が即座に皆の中に紛れるのを確認した。棒手裏剣を持っている。
 ひとところに留まることなく、人影は隠形の術を使って移動していく。素早く鋭いその動きは、紫音の視力を以ってしてもなかなか捉える事が難しい。
 だが、彼は行動予測で影を観察し、人影の次の出現場所を予測しようと努めた。
 ――次は――
 人影――毒島 大佐(ぶすじま・たいさ)は、生徒達1人1人を認識し、戦闘が不得手そうな者と戦闘に長けている者を目で捉えて後者に対して主に牽制を行っていた。
 その特徴に気付いた紫音は、影が消えた位置から全体を見渡し次の出現場所を予測する。影は、強い者の前に現れる。
「……なんじゃ!?」
「……そこだ!」
 シルヴェスター・ウィッカー(しるう゛ぇすたー・うぃっかー)の前で、黒く長い髪が流れる。紫音は大佐の姿を目視し、歴戦の必殺術で見破った弱点に向け、スナイプを使って両の手にあるカーマインから弾丸を発射する。弾丸は確実に大佐の後頭部に襲いかかり――
 弾けた。
「……!?」
 乾いた音と共に幾つかの試験管が割れ、硝子が飛び散る。
 先制攻撃で咄嗟に銃弾を避けた大佐が空蝉の術を使った為だ。そこには既に、実体を持った人の姿は無い。
「……うっ!」
 何人かの生徒達が咳き込んだ。割れた試験管には、毒の液体が入っていた。大佐が薬学の知識を活かして作ったそれは、酸素や水分と反応し、急激に気化すると言う特製を持っていた。空気に触れた液体は霧と化し、生徒達の呼吸器官から体内へ侵入していく。
 余談ではあるが、この霧は刺激臭だけでなく味も相当のものらしい。
 雲隠れに成功した大佐は、そこから更に、霧の届かなかった生徒達の手足を手裏剣で狙って動く。
 そして、何度目かの銃弾を身代わりの煙玉が受けた時――
 約60人の生徒達は、ほぼ2つに分断されていた。戦闘慣れした者と、それ以外の者に。
 砕けた煙玉の煙が未だ漂う中、大佐は強い者達に改めて煙玉と毒入り試験管を投げつけた。だが、身代わりに使って数が減っていた上に人数も多く、完全には行き届かない。
 しかし、それで充分だった。煙と毒の霧によって多くの者が咳き込み、気分の悪さを感じて動きが鈍くなっている。
 元々、狙っているのは勿論彼等ではなく――
 大佐は、アクアに向かって地を蹴った。
(……こいつは……!)
 リネンに後ろから抱かれ、口と鼻を塞がれた状態でチェリーは大佐を凝視していた。山田太郎を殺し、自分を殺そうとし、また先日、キマクの倉庫で爆発事件があった時にすれ違った相手。あれで報復は終わったかと思っていたが。
(まだ、殺意があったのか……!)
 チェリーには目もくれず、大佐はアクアへと向かっていく。あの時に刃を向けてこなかった事から、自分を殺す気はもう無いのだろうと考えていた。チェリー自身も、殊更に敵対しようとは思っていない。顔を見たくない相手である事は確かだが――
 
 ――何で生きてるんだ。
 その想いを胸に、大佐はアクアに急接近する。
 あの日から、沢山の剣の花嫁に異変が起きたあの日から、大佐は時折フラッシュバックに襲われるようになった。甦るのは、プリムローズ・アレックス(ぷりむろーず・あれっくす)がバズーカで撃たれたシーン。
 キマクでアクアを殺したと判断した時に自らの中に残っていたイライラ。それは、恋人を護れなかったということに対しての無意識の自分への怒り。
 チェリーへの殺意も、アクアという存在も無くなり怒りや憎悪を向ける対象が居なくなったと気付いた時、大佐はそれを自覚した。
 ――確実に葬ったと思ったのに。
 ――お前が居ると、我の悪夢が、恐怖が、終らないんだ。
 ――だから消えろ、我の悪夢。

 勢いを衰えさせること無くスケイルアイビーを抜く。鋭い刃は何本もに分割され、五体満足のアクアを狙い――
「そうはいかないよ!」
 朱里がブラッディイーターで剣身を殴りつけてその矛先を逸らした。しかし全ては防げない。彼女は向かってくる大佐に蹴りを繰り出した。先日は、身を呈してもアクアを護りきれなかった。だから、今回こそはと攻撃には気合が入りまくっている。
 蹴りが入り、大佐の体勢が崩れる。アクアに襲い掛からんとしていた複数の刃は狙いを逸れ、立ち尽くしていたアクアは驚き覚めやらぬ中で急いで後ずさりしていく。
 そこで、大佐はスケイルアイビーの刃を1本に集中させた。加速して朱里を抜き、最大7メートルまで伸びる剣先でアクアの急所を狙う。
「……っ!」
 ――その時。
「何してるんですかーーーーーっっ!!!!」
 突如乱入した叫声と同時、プロミネンストリックをつけたプリムローズが大佐を宙から蹴り飛ばした。その直線上にいた皆様に、スカートの中からピンクのレース付きのパンツがばっちりと見える。他の角度からもちらりと見えたかもしれない。フレアスカートだし。
「…………!!!!!!」
 瞬間、その場にいた全員がぽかんとした(たぶん)。行動的にもパンツ的にも。
 プリムローズは、蹴られつつもパンツに目が行っていた大佐に等活地獄のコンボをしかける。
 ――私を置いて行かないで。
 彼女は、何も言わないで行方を晦ました恋人に結構な如く怒っていた。手加減などはできるわけもないし、する気も無い。
 2メートル程の両手斧型である光条兵器を引き出してぼこぼこになった大佐を華麗にぶっとばし、電光石火で走り寄り朱の飛沫を纏った拳でアッパーを食らわす。
「そぉい!」
 紙のように空高く舞い上がった大佐は、炎に包まれてちゅどーんと爆発した。
 更にふっとんで地面に墜落した大佐に近付くと、プリムローズは完全に意識がログアウトした恋人を見下ろした。チェリー達についてはもう許している。なので気にしない。
「……色々言いたい事がありましたけど、全力で殴ったらスッキリしたのでもういいです」
 ……聞こえていない。死んでなければいいが。
「帰りますよ。私達の家に」
 大佐を抱き上げて宙に浮くと、来た時とは別の方向へと飛んでいく。
『……………………』
 ぽかんとしたまま、皆は揃って2人を見送る。だが、そういくらもしないうちにプリムローズはUターンしてきた。
『…………?』
「ヴァイシャリーってどっちでしたっけ?」
 あっち、と皆が一斉に指差した方向へ、彼女は改めて飛んでいった。

 アクアは機体に大きな損傷を受けることなく、負傷した者もそれぞれに回復してもらった。毒で体調が悪くなった者はアルスやユーベル、エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)が清浄化をかけていく。
 そして、皆が回復してヒラニプラを目指すことしばし――

                            ◇◇

 列車の中は広かった。貨物車両も併設され、小型飛空艇や車椅子等の乗り物も運ぶことが出来る。
「真さん達も空京に行くんだ」
 座席に落ち着いた真達の向かいに、遠野 歌菜(とおの・かな)月崎 羽純(つきざき・はすみ)が座る。
「うん……さっき、陣さんから聞いたんだ。俺が京子ちゃんを探している間に起こったことを。そして、あの事件を起こした犯人の最後を……」
「……そっか……」
 それを聞くと、歌菜は少し俯いた。
「聞いたら、山田さんに会いたくなったんだ」
 面識はないに等しいし、被害にあっておいて……というのもある。それでも、遺骨になっていたとしてもその姿を見ておきたい。
 真は今、そう思っていた。

「それじゃあね。今度会うのは……定期メンテナンスの時かな? まあ、そうじゃなくても何かあったらいつでも連絡して。子供の事は、ゆっくり考えればいいよ」
「……うん、どっちにしても、決めたら電話するわ」
 乗車口前では、車椅子に座ったファーシーとモーナが話をしていた。彼女の工房へ行く未沙達と樹月 刀真(きづき・とうま)漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)、陣と真奈も一緒だ。
「手伝いもしてもらったし途中でイレギュラーな事もあったし、鉄道の中でゆっくり休むんだよ」
「そうだね、本当にいろいろあったから……」
 モーナにファーシーが答えた時、ホームにぷるるるるる……という発車の合図が鳴り響いた。
「あっ! もう乗らなきゃ!」
 慌てて車椅子を反転させる。ホームと列車の間の隙間が危険なので、未羅と未那が乗車の手助けをする。
「……ありがとう!」
「ファーシーさん、またねなの」
「またですぅ」
「うん! またね!」
 首を振り向けてそう答えた時――列車のドアが音を立てて閉まった。

『…………』
 工房に入り、7人は何だか絶句した。預かりものと思しき機晶姫のパーツや何かの機械が所狭しと置かれ、他にも、細々とした工具やらが置きっぱなしだったり色々置きっぱなしだったりと、足の踏み場があってよかったね状態だ。
「ブラック企業並に溜まりまくってる……だと……」
 陣が愕然とした声を出す。
『何日か寝られないかもよ』――手伝いを約束した時に聞いた言葉はモーナ流のジョークかと思っていたが、ガチだったようだ。
 驚く彼らを余所にモーナはひょいひょいと室内を横断していき、そのうちの1つの前に座って工具を取る。
「ま、ゆっくりしていってよ」
 できないできない、ゆっくりはできない。にやりと笑っているところを見ると、こちらはジョークらしい。驚いて棒立ちになっていた陣ははっ、と我に返ると携帯電話を取り出した。
「……クソ英霊を呼ぼう。不寝番持ちだから全員24時間戦士できるし」
 そうして陣がクソ英霊こと仲瀬 磁楠(なかせ・じなん)に呼び出しをかけ始め、真奈が淡々と障害物を避けながらモーナに歩み寄る。
「早急に納品すべき物はどれでしょう……。まず、作業の優先順位をつけてからとりかかると効率がいいかと」
「……そうだね。直近の納品リストはそこのコルクボードに貼ってあるから、それを見て分けてもらえるとありがたいな」
 モーナの指す方に行き、真奈は何枚かまとめて留められている納品リストをボードから外してざっと確認する。
「………………………………」
 リストには、小さい字でびっしりと各部品の名称が書き連ねてあった。
「モーナ」
 そんな中、月夜も足元に気をつけつつ本格的に中に入ってくる。研究所にバズーカを運ぶから、と護衛の募集があった際、月夜は同行目的が若干違うことを断った。帰還後の手伝いをその時に約束した彼女は、刀真が環菜の見舞に行く前にと工房を訪れたのだ。
 魔法と科学を1つの技術に、とその2つの関連性を研究している彼女は、ライナスの研究所に於いて何かヒントが掴めないかと同行していた。書いて行った、魔法と魂に関してのレポートは研究の参考として預かってもらった。あの後、ライナスは言っていた。
『魂は、パラミタの全ての根源とも言える。
 ただ、それだけに研究があまり進んでいない。私も、研究課題の一つとしているものだ。いくら研究しても飽きないからな。だから、また何か思いついたら教えてくれ』
 と。
 ――いずれ、新しいレポートを作ってもう1度訪問しようと思う。
「何からやればいいかな。何でも言って」
「うん……じゃあ、まず彼女と仕事内容の整理をしてほしいな。それから、改めて作業をお願いするね」
「分かった……」
 月夜はリストを持つ真奈の方へ歩いていく。書かれた内容を2人でチェックしつつ、月夜はモーナにおもむろに聞いた。
「モーナ、ここにオルゴールの部品とかある?」
「オルゴール? うーん、ここは機晶姫専門の工房だから……。ごくたまにそういう依頼もあるから製作する為の道具は上の階に保管してあるけどね。完成したシリンダーは無いけど真鍮もあるし、イチから作れないこともないよ」
「……手が空いた時とか、少し協力してもらいたいんだけど……良い曲のものを作りたいから。お見舞いの品にしたいの」
「お見舞いか……、うん、まあ同じ事ばかりやってても肩が凝るしね。気分転換したくなった時にでも作ってみようか」
「ありがとう……」
「モーナさん、何か必要なものがあったら行って欲しいの、すぐに用意するの」
「なんでもやりますよぉ」
「あ、じゃあね、これと……」
 近付いてくる未羅と未那に、モーナは必要な部品の名前を列挙していく。それぞれ、1回聞いただけでは一般人には暗号にしか思えないような名称だが2人には判るらしい。頷いている。
「うーん、前来た時より酷くなってる……。気持ちよく作業するためにも、ちょっとお掃除した方がいいんじゃないかな」
 そして、室内を一通り見回した未沙はとりあえず作業環境を整えよう、と掃除道具を取りに行った。機械いじりは趣味で、彼女の本職はメイドなのだ。