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魂の器・第3章~3Girls end roll~

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魂の器・第3章~3Girls end roll~
魂の器・第3章~3Girls end roll~ 魂の器・第3章~3Girls end roll~

リアクション

 
「ま、まだでしょうか……」
 もう何杯目だろうか。ティーカップを持ったスバルは、今か今かと通路への扉に頻繁に視線を送っていた。そこでドアが開き、彼は思わず姿勢を正した。子供が生まれたかと思ったのだ。
 だが、姿を見せたのは手伝いを買って出ていた朔だった。その腕の中に子供の姿は無い。朔は足早にスバルに近付き、彼に言った。
「もう、生まれるまでそう時間は掛からない。今は、陣痛……が絶え間なく続いている状態だ。彼女の傍にいれば、それだけで励ましになる」
 ――ちなみに、朔が陣痛の後に「……」をつけたのは機晶姫の場合その表現で良いのか確証が持てなかったからである。
「え……、ぼ、僕が入ってもいいんですか?」
 頼りなく、戸惑った様子で見上げてくるスバルに、何を言っているんだというように朔は答えた。
「今更だな。居合わせた生徒達が立ち会っているのに、当の夫が一緒に居なくてどうする」
「…………」
 スバルは呆けたように朔を見つめていたが、やがて、表情を引き締める。
「分かりました。僕も行きます」
 残っていたお茶を一気に飲み干すと、彼はソファから立ち上がった。

「手を握っていてやれ。後少しだ」
「ポーリア……」
 朔に案内されたスバルは、引き付けられるようにポーリアの手を握った。辛そうな彼女の顔から目を離さずに、声を掛ける。
「僕はここにいるよ、がんばって」
 さっきよりも、少しだけ頼りがいのある声で。
「……うん……」
 ポーリアは、スバルの手を握り返して僅かに微笑む。そこには、確かな信頼と愛情、絆があった。
 2人の傍では、ライナス達や産婦人科医の指示の下でダリルや未沙、林田 コタロー(はやしだ・こたろう)達専門クラスの者達が尽力していた。少しでも早く、安全に赤ちゃんが出てくるように。ルカルカや夜魅達も回復スキルで補助を行っている。先程、室内に入ってきたルイ達も、隼人やアクアと共に出来る範囲で手伝っている。
 ……少しばかり騒がしいが、まあぎすぎすもしていない。
 そして、周囲では、立会いを希望した生徒達がそれを真剣に応援していた。
「…………」
 子の誕生が間近になりいよいよ緊張間が高まる中で、ジーナ・フロイライン(じいな・ふろいらいん)はただぼうっと彼女達を見つめていた。時間が停止したような視界。忙しく動く皆の間から、寝台上のポーリアとスバルが際立って見える。
「…………っ!」
 はっと目の焦点を戻すと、ジーナは一瞬悲しそうな顔になってはじかれたように処置室を出て行った。
(……じなぽん?)
 ポーリアを担架で運んで以来おろおろし通しで特に何もしていなかった新谷 衛(しんたに・まもる)が、それに気がついてジーナを追いかける。
(……ん?)
 コタローの後ろからポーリアにヒールをかけていた林田 樹(はやしだ・いつき)も、室内に新たな空気が流れ込んできたのを感じ、出入り口に目を遣った。扉をすり抜けるように出て行くのは、自らのパートナー達。
 だが、樹は2人を追うことはせず、補助に戻った。

                            ◇◇

「ふう……後は、産まれてくるのを待つだけなのね……」
 軽い手伝いをしただけだったが、慣れないことばかりで少し緊張してしまった。ぎこちないながらに動いていたファーシーは、自分の出来ることが終わったと知って皆と一緒にポーリア達を見守っていた。そこで、同じく必要物資を運ぶのに協力していたザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)が話しかけてくる。
「足の調子はどうですか、パーフェクトファーシーさん」
「? パーフェクト?」
 ファーシーはきょとんとしてザカコを見上げた。どうやら冗談は通じなかったらしい。
「うん、何だか今日は調子が良いみたい……。あ、そういえばごめんね! また土偶の人呼ばわりしちゃったみたいで……」
 それなりに通じていたらしい。
「…………それは別のファーシーさんなので……いえ、今はファーシーさん自身ですが……」
 その発言を聞いたのは最近のことだが、言葉を発したのは一年前の状態で記憶が途切れていたファーシーであって身体を得ていたファーシーではない。そして今、別々になっていたファーシーは合体している。……ややこしい事この上ないが。
「こうして出産に携わってみて、どうです? 何か考えていたようですが」
「そうね……」
 ファーシーはポーリア達に視線を据えて暫く黙っていたが、やがて考え考え話し始める。
「ポーリアさん、すごく痛そうにしてる……。ここ数日は一緒にいたし、おなかをさわらせてもらったりもしたけど、こんなに大変なんだって思わなかった。初めて知ったわ……。そういえば、さっき帝王切開って言葉が出てたけど、それって何なの? 今回はやらないって言ってたけど……」
「ああ、それは……、腹部を直接切って子供を取り出す手術のことです。トラブルや、子供の体勢によって自然に出てこれないと判断した時に行うんですよ」
「手術? おなかを切るの?」
 ファーシーは驚いた。自分達機晶姫はメンテナンスや修理でよく一部を分解したりもするし、内部に関しても機械として普通にいじれる。その際、少しくすぐったかったりはするが『痛み』という類のものは感じない。少なくとも、彼女自身は。
 だが、ポーリアは確かな苦痛を感じているようで、それはきっと、機体に凄く負担がかかることで――あの状態でもし、おなかを切ったらどうなるんだろう?
 ……ちょっと、怖い気もする。
「……子供は授かり物と言いますが、出産が無事に行くとは限りません。生まれても、支えてくれる人がいないと育児は大変です」
「支えてくれる人? ……スバルさんみたいな?」
「……そうですね。今は、1人で子育てをされる方も多いですが……、2人分を1人でまかない、自立するまで育て上げるのは並大抵のことではありません」
「…………」
 出産は素晴らしいことだ。しかし、この辺りの苦しい面もザカコは伝えておきたかった。その上でファーシーが出した結論を、応援したいと思う。
「うん……、そうよね、子供、か……」
 ファーシーは目を伏せ、それから再びポーリアを見た。子供を作るには、相応の覚悟もいるということだろうか。
 ――わたしには、まだ分からないことがいっぱいある……。

                            ◇◇

「おい、じなぽん。一体どうしたんだ? お前さんと同じ機晶姫が頑張っているってーのに、何逃げてんだよ!」
 衛は、大部屋とは逆方向に走っていくジーナを追いかけ呼び止める。ジーナは振り返ると、数秒の間を置いてから衛と目を合わせないままにぽそりと言った。
「……ワタシも、子を成すことが、出来るのでしょうか?」
「はぁ? そりゃ出来るんだろうよ。そういう仕組みがあるって、もーなの姉さんも言ってたし」
 そんな事を悩んでたのか、と気が抜けた風に言う衛に、ジーナは噛み付くように大声を上げた。
「バカヤロエロガッパ!!」
「!?」
「……ワタシが言っているのは、『子を成す』ということです」
 涙目になって下を向くジーナと、衛は意味も分からず怪訝そうに向き合っていた。
「子を、成す?」
 だが、その言葉の示す真意に気付いた時、衛は驚きに目を見開いた。改めてジーナの身体を見遣り、言う。ぱっと見、女性にしか見えない。しかし――
「……お前まさか、性別が……」
「そーです! アンタと一緒です! 自分の心と、自分の体とっ……悩んでいるのはアンタだけじゃないんですよっ!」
 ジーナの反応は早かった。衛は、『かつて』男性であった。だが、魔鎧にされる際に身体的特徴を作り変えられてしまったのだ。女性の体と男性の心。それが、新谷 衛。
 衛と一緒ということは――
 ジーナは『男性型機晶姫』なのだ。そして、女性の心を有している。
「ワタシのままで生きても良いと、樹様は仰って下さいました。でも、ワタシは、ワタシはっ……うわああっ!!」
 衛に八つ当たりのように殴りかかりながら、声を上げて泣き叫ぶ。
「…………」
 そんなジーナにされるがままになりつつ、衛は小さく呟いた。
「……ガキの面倒見るのは、嫌いなんだよ、オレは」