波羅蜜多実業高等学校へ

葦原明倫館

校長室

空京大学へ

空京薬禍灼身図(【DD】番外編)

リアクション公開中!

空京薬禍灼身図(【DD】番外編)

リアクション


●2.聞き込み・2/ 捜査開始・初日の深夜

 神崎優とそのパートナー達が動いている頃、同じ“環七”北で源 鉄心(みなもと・てっしん)も歩いていた。
(俺もよく知っているわけじゃない。縄張りが違うからな)
 鉄心は、手元のメモを見ながら日没前に話を聞いた大男の台詞を思い出していた。

 大男は、“環七”東部最大の“暴走族(チーム)”“怒羅厳縁兵羅亜(ドラゴンエンペラー)”の座島 蒼乃介(ざしま・そうのすけ)だ。
 溜まり場になっているという喫茶店に赴き、話ができたのは幸運だったと思っている。こっちの立場は警察で、向こうは暴走族ともなれば、睨み合いから即戦闘、というケースも想定していたのだ。
(知ってる範囲で構わない。が、確度も高いとありがたいな)
(おゥ、“警察(ポリ)”のおっさん)
 取り巻きの少年が凄んで来た。
(座島さんが甘いからってつけあがるんじゃねぇぞ?)
(口を挟むな。その“警察(ポリ)のおっさん”と話しているのは俺だ)
(……! す、すいません……)
(うちのメンバーが無礼な口をきいたな。後できっちり“躾(シメ)”ておくから勘弁して欲しい)
(別に気にしてないから、むしろ“躾(シメ)”るのを勘弁してやってくれ。悪気がないのは分かっている)
(お客さんが優しい人で良かったな。ちゃんとお礼を言え)
(は、はい……ありがとうございます)
(いや、気にしなくていい……で、“路王奴無頼蛇亜(ロードブライダー)”に吸収されて最近姿を見ない、というチームの事だが)
 “暴走族(チーム)”の名前が書かれたメモが差し出された。
(確か、そいつらの溜まり場は……)
(その前に、確認させてくれ)
(……何だ?)
(どう読むんだ?)
 メモには「毘四怒 速暴風 邪師団」という記述。
“毘四怒(ビヨンド)”“速暴風(スピードストーム)”“邪師団(デビルレギオン)”だな)
(ビヨンド、スピードストーム、デビルレギオンだな?)
 鉄心は文字の横に読み仮名を書き込んだ。
 凄いセンスをしてる、という感想は思うだけにとどめておいた。何せ話している相手の“暴走族(チーム)”の名前も“怒羅厳縁兵羅亜(ドラゴンエンペラー)”だ。
 それなら、一番の問題の“路王奴無頼蛇亜(ロードブライダー)”というのも大概ではあるのだが。
(……話を続けるぞ。そいつらの溜まり場と、あと仲のいい“暴走族(チーム)”だが……)
 鉄心は、話される内容を片っ端からメモしていった。同時に一緒にいたティー・ティー(てぃー・てぃー)もスキル「嘘感知」も使い、間違いがないことを確認する。
(ここまで詳しい情報を聞けるとは思わなかった。とても助かる)
(俺としても──俺たちとしても助かる話だ。
 この“ザラメ”やら“アズキ”やらの騒ぎはさっさと終わって欲しい。
 だが、縄張りの外で“コト”を起こすのは“やり方”じゃないんでな。“お巡りさん”には是非とも頑張ってもらいたい)
(意外だな。君たちのような子は、自分の思うままに行動するものだと、思っていたが)
“自制(ブレーキ)”がきかなくなったらどれだけ“暴走”するか自分でも怖い。自分で決めた“基準(ルール)”ぐらいは守っておきたい)
 ここで言われた“暴走”とは、「バイクを好き勝手に走らせる」、という意味ではないのだろう。
(君たちが自分の決めたルールには従う、ただの無法者でないのは良く分かった)
(恐れ入るな)
(だが、もう少し社会のルールも受け入れてはどうだろう? 束縛ばかりで鬱陶しいかも知れないが、決められたルールにはそれなりの理由や必然性というのもあるんだ)
(説教を聞く気はない。あんたもその為に来たんじゃない。
 そうだろう、おっさん?)
(……すまんね。歳を取ると、どうも、ね。
 悪気はないんだ、“躾(シメ)”るのだけは勘弁して欲しい)
(今のは“笑う所”か?)
(好きに反応してくれ)

 そして、日没から深夜12時過ぎにかけて、“毘四怒(ビヨンド)”“速暴風(スピードストーム)”“邪師団(デビルレギオン)”の、そしてそれらとよくツルんでいたという“暴走族(チーム)”の溜まり場を回り、色々話を聞いてきたのだ。
「みんなは、嘘をついていますね」
 ティーは言った。
 集める事のできた話をまとめると、以下の通りにまとめられる。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 A.“路王奴無頼蛇亜(ロードブライダー)”について
 “路王奴無頼蛇亜(ロードブライダー)”は、“ザラメ”“アズキ”の密売を取り仕切っている。
  チームの規模の急激な拡大も、その“市場”“密売ルート”を広げたいからだ。
 B.“速暴風(スピードストーム)”について
  b−1/ “速暴風(スピードストーム)”は構成員8人程度のチームだった。
       現在はつるんでバイクを走らせる事さえしていない。
  b−2/8人とも中毒・依存者になったそうだ。
      “クスリ”に手を出したのか、出させられたのかは不明。
  b−3/8人中4人は現在は売人になっているそうだ。
  b−4/残りの4人は死んだかも知れない。
      誰かが急性中毒を起こして死んだ彼らの死体を“処分”したそうだ。
      誰がやったのかは俺は知らない。
 C.“邪師団(デビルレギオン)”について
  c−1/“邪団(デビルレギオン)”は構成員10人程度のチームだった。
      走りはしていない。
  c−2/現在は全員が売人になっているらしい。
  c−3/“速暴風(スピードストーム)”の4つの死体の処理は、“邪団(デビルレギオン)”がやったという噂。
      “路王奴無頼蛇亜(ロードブライダー)”に強要されたそうだ。
 D.“毘四怒(ビヨンド)”について
  d−1/“毘四怒(ビヨンド)”は構成員6人程度の小チーム。
  d−2/かつての“北”の最大の“暴走族(チーム)”崩壊後、「どこにつくか」を悩んでいた。
  d−3/悩んだ結果、“路王奴無頼蛇亜(ロードブライダー)”の傘下に自ら加わる。
  d−4/しかし、ツルんで“暴走(ハシ)る”ならともかく、ドラッグ密売拒否した為消されたらしい。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 聞き込みに答えてくれた人間は全員が決まって、
(自分は噂でしか聞いた事がないが)
と前置きをしていた。
「今日話を聞いただけでも、“路王奴無頼蛇亜(ロードブライダー)”“真っ黒”ですね。いきなり逮捕とか検挙とか出来ないものなのでしょうか?」
「どうやらそれはできないようだな」
 聞いた話が限りなく「証言」に近いものだったとしても――「噂でしか聞いた事」という話であれば(その枠が「嘘」だと分かっていても)、いきなり手入れをかけて“路王奴無頼蛇亜(ロードブライダー)”を逮捕、というわけにもいかない。
 「嘘発見」や「サイコメトリ」等の探知系スキルで得られた情報は「手がかり」にはなっても「証拠」にはならないと聞いている。
 つまり「手がかり」を元として調査を進め、明確な「証拠」をつかまなければならないのだ。
 ふたりは一度警察署に戻る事にした。情報の整理や引き継ぎなどの作業を落ち着いてしたいのもあるが、身の危険も感じていた。
 “路王奴無頼蛇亜(ロードブライダー)”の恐怖と暴力の支配は、予想以上の所まで及んでいるらしい。
 今日出会い、「らしい」「噂」「人から聞いた」という形で色々話してくれた若者達も、相当勇気を振り絞ってくれたのだろう。
「……危険だと分かっているなら、ここから早く逃げ出せばいいのに」
 鉄心は呟いた。
 聞き込みをしている最中、相手に向かって何度も何度も言った言葉だった。
 が、その提案に対して彼らは全員が首を横に振り、
(行く場所なんてどこにもない。
 俺達みたいな半端物の“ワル”を受け入れてくれるところなんてあるわけない)
と答えたのだ。
(君達はまだ若い。まだいくらでもやり直せる)
 鉄心はそう思っていた。思いたかった。
(そのためには、まずはこの騒ぎを何とかしないとな――)