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破滅へと至る病!?

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破滅へと至る病!?

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第1章 (社会的)破滅へと至る病!?


「既にここまで蔓延したというの……!?」
 村上 琴理(むらかみ・ことり)は息を呑んだ。
 久々に地球へと降り立った彼女を待っていたのはパラミタランド──川崎市新百合ヶ丘にほど近い、屋内型テーマパークだ。
 最初に地球に姿を現し、日本の学生も多く旅立ったパラミタはシャンバラ地方をモデルにしたテーマパークで、様々なアトラクションとショーが開催され、パラミタに憧れる学生から単に遊びたいお子様まで若い人たちに人気がある。
 琴理はかつて地球の百合園女学院の学生であったため、学校にほど近いここにも、二、三度遊びに来たことはあった。
 だが、空京の商店街を模したエントランスに満ち満ちた空気は、かつて訪れた時とは全く違っていた。
 でももし、訪れたことがなかったとしても、そう思ったに違いない。琴理と共に地上に降りた「本物の」契約者たちにも同様だ。
 ──そこにいたのは、黒い仮面で素顔を隠し、黒いマントをひらめかせる一人の男と、彼を取り囲む生徒達、それに街の住人が数十人。
 彼らはゲストどころかショーの出演者とも思えない、異様な雰囲気を漂わせていた。
「熱に浮かされたような表情、あの病に間違いありません。これだけ患者がいるんですから、きっと黒い本もこの周辺にいるはずです」
 彼らの眼帯や包帯や血糊や指先の開いた皮手袋やチェーンや十字架や髑髏や、マントや天使の翼や悪魔の羽にはあえて触れずに、琴理が契約者たちに頷くと、
「あれなになにー?」
「何のショーかな」
 彼女たちの視界に、たまたま遊びに来たらしい二人連れが入ってきた。こちらは制服で、一目で百合園女学院の生徒だと判る。
(ここにいたら危ないわ。避難してもらわないと……)
 琴理は人ごみを足早に歩いて二人連れの方へと向かった。
 しかし辿りつく直前、そのうちの一人が道端に落ちている本をひょいっと拾い上げる。さっきまで落ちていなかった本を。
「これなんだろ?」
 止める間もなかった。黒い革表紙の本が開かれると同時に、中から黒いもやのようなものが吹き上がり、一瞬にして彼女の顔を包み込んだ。
「……黒い本はお願いします。私は観客の方を担当します」
 琴理の背中から、パートナーフェルナン・シャントルイユ(ふぇるなん・しゃんとるいゆ)の声がかけられる。琴理は手を振って了解を伝えると、今度こそ急いで女子高生の前に飛び出した。
 しかし時既に遅し。
 もやが吹き付けられた墨のように消えてしまうと同時に、本もまた女子高生の手の中から消えていたのである。
 そして、彼女もまた、一瞬にして病気にかかってしまったのだった。
やめろ、俺に……俺に構うなぁあっ!」
 病は、その名も黒史病。幻想を共有し、契約者になったつもりになる病。正気に戻った時、(社会的)破滅へと至る病──。
 いや、因果関係がはっきりした以上、ただの病気じゃない。
「皆さん、黒い本を探してください! ──フェルナン、彼女をお願い」
 琴理は同行者に呼びかけつつ、あっけにとられているもう一人の女子高生を背中に庇った。一般人の避難にあたる契約者が、戸惑う彼女の手をすかさず引いて、事情説明を始める。
「想像以上に厄介な相手のようですね」
 フェルナンは今後の方針を決めるべく、土産物屋の店先からパンフレットを抜き取って早速広げる。
 カラフルな二次元パラミタランドマップによれば、パラミタの都市ごとに、ゾーンやアトラクションが用意されているようだ。
 といっても、都内のこと。某ネズミ遊園地に比べるべくもない広さなのだが。
  ・エントランス・空京商店街
  ・ツァンダ・バザール&レストラン
  ・アトラスマウンテンコースター
  ・イルミンスールの迷いの森
  ・ヴァイシャリー湖より、園内一周水上ゴンドラ
  ・タシガンの魔法の絨毯
 ……などなど。
 フェルナンは女子高生に危ないから近づかないように告げると、「自称契約者」たちの中に突入した。
 ──その時、すぐ横を一人の黒ずくめの少女が過ぎ去って、ふらふらと奥へと歩いて行ったのだが……、それに彼は気付かなかった。