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【カナン再生記】迷宮のキリングフィールド

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【カナン再生記】迷宮のキリングフィールド

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■第2章 5つのドア

「行くぞ」
 両扉に手がけたバァルが、確認するように振り返った。
 それぞれ思い思いの武装で固めた全員が頷く。
 この扉の向こうが今どうなっているか、だれも知らない。しかしそれが何であれ、だれであれ、全力で打ち破る気迫に満ち満ちた彼らの目に、バァルは頷き、一気に扉を押し開けた。
 中は暗闇だった。
 彼が押し開けた扉の形のみ、差し込んだ朝日で明るい。――不自然なほどに。
 普通の闇であるならば、外界からの光に追いやられるはずだ。少なくとも、内部の物の様子が伺えるほどには。
 しかし明るいのは床部分のみ。まるでそこだけ四角くくり抜かれているかのような錯覚すら覚える。
 警戒する彼らの前、バァルが闇に一歩踏み出す。遅れてイナンナやほかの者が入ったとき――闇は一変した。
 バン! と音をたてて扉が閉まり、光が完全に消失した。そして扉のあった位置で、何かがうようよとうごめく気配がする。ヘビのような……ツタのような。
 また、同時に周囲から無数のざわめきがした。しかしそれは人のたてるものではないように思えた。どちらかというと、小さな虫か小動物が動く、カサカサという音。
「やーっ! 虫ーッ!?」
「ミリィ、大丈夫だよ。俺が横にいるから」
「油断するな。どこから何が現れるか分からんぞ」
 見えないものへの警戒心から、自然と彼らは円陣隊形を組む。
 そこに
「坂上教会へようこそ〜、皆さんっ」
 突然、やけにあっけらかんと明るい声が降ってきた。
 この緊迫感が満ち満ちた空間には不釣合いな……それでいてどこかふさわしいようにも思える、謎の声。なぜならその余裕綽々の声は、過敏になっていた彼らの神経を確実に逆なでしてくれたからだ。
「アイツ、捕まえて殴ってやりたいね」
 ミリィ・アメアラ(みりぃ・あめあら)が、ぽそりとみんなの心の声を代弁した。
「モレクか」
「そうだよ、バァル。うれしいなぁ。僕の招待に応じてくれてありがとう。なのに、出迎えできなくてごめんね。やっぱりホラ、ラスボスって最後に顔を見せるからいいんだよねー。最初っから出張ってたらだいなしじゃん、って僕思うんだよ」
 けらけらと笑う気配がした。
 周囲に反響して、どこが出所かは皆目つかめない。
「だけどその分、ちゃーんともてなすから。ほら、準備は万端」
 ぽう……っと前方の闇に、5つの光が浮かんだ。
 それは徐々に強くなり、大きく上下に広がって、5つの扉になる。もしかしたら扉ははじめからそこにあって、見えるようになっただけかもしれないが。
 しかしその光の出現によって、周囲の闇もわずかだが、目に映るようになった。自分の手足、隣の人の輪郭――そして壁を這う鋼鉄製の茨のつる。壁に、窓に、穴を穿ち、互いに絡み合いながら天井まで続いている。
(……?)
 バァルはふと、イナンナが横からいなくなっていることに気づいた。
 まさか先の暗闇で不意をつかれ、さらわれたのかと思った直後、自分やほかの者たちの重なった影に隠れるように立っているのを見つける。
 先ほど円陣隊形を組んだのだから、イナンナが内側に入れられるのは当然……だが、バァルと視線が合ったとたん、イナンナはふいと顔を逸らせてしまった。
「……女神様?」
 訝しがるバァルの声に重なって、ギイイイィ……と重い音をたてて5つのドアがわずかに開いた。


「さあ、勇者たち。中に入ってカードを取っておいで。中にはもちろん、敵がいる。勝つか、負けるか。勝敗がつくまでそのドアは決して開かない。それだけがルールだよ。そのドアを再びくぐって仲間の元へ戻ってこれるのは、何人かな?」
 ゲームはいつだってこの瞬間がドキドキしちゃうよね。