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リアクション

「ウェンディさん! ウェンディさん!」
 船に降り立つと、アゾートはウェンディを探して走り出しました。しかし、あちこちで戦闘が繰り広げられており、ウェンディの姿はどこにも見えません。
「何の用だい? 嬢ちゃん」
 大鉈を持った海賊がアゾートの前に立ちふさがります。
「!!」
 驚きのあまり、声を失うアゾート。
「何をおびえてるんだい? お嬢ちゃん」
 そう言うと、男はアゾートに向かって大鉈を振り上げました。
 その時
「アゾート! 危ない!」
 声とともに、刹那・アシュノッド(せつな・あしゅのっど)が舞い降りてきて、大剣クレイモアで大鉈を受け止めます。
 すると、すぐ脇から全身入れ墨の大男が、こん棒を手に刹那に躍りかかってきました。
「この生意気な小娘どもがああああ!」

 ガン!
 
 こん棒が、床を砕きます。狙いを外した大男は再び刹那に向かってこん棒を振り上げました。

「迅雷斬!」
 刹那はスキル迅雷斬を発動しました。剣に青い稲妻が走り、大男に雷属性のダメージ!
「ビギギグぁあ……」
 大男がしびれながら倒れます。

「大丈夫? アゾートさん」
 刹那が尋ねます。
「あ……ありがとう。ボク、ウェンディさんを捜してるんだけど……」
 アゾートが答えました。
「この乱戦の中をうろつくのは危険よ。どこか、安全なところにでも隠れてて」
「……大丈夫だよ。今のは、ちょっと驚いただけ……」
 そういうと、アゾートは再びウェンディを探して走り出しました。

「あ、アゾートさん!」
 アゾートを追いかけようとした刹那の目に、1人の男の姿が目に入りました。

 男は、長い巻き毛を振り乱し、目を血走らせて叫んでいます。
「なにしてる! 早くこいつらを捕まえねえか! この腰抜けどもめがああ!」
 上品なようでいて凄みのある顔つき。口には葉巻をくわえ、その左手には鉄のカギ……。
 その姿を見て刹那の頭に閃くものがありました。

「フック! 間違いない! フック船長だわ!」
 刹那は、狙いを定めると、大剣をふるって、フックに飛びかかっていきました。
「うわ! なんだ? てめぇ」
 フックは最初の一太刀を寸でのところでかわし、二太刀目は左手の鉄の鍵で受け止め、

「女のくせにこのキャプテン・フック様に襲いかかるとは、いい度胸じゃねえか」
 と、右手の剣で、刹那に斬り掛かりました。
「危ない刹那!」
 セファー・ラジエール(せふぁー・らじえーる)がスキル『バニッシュ』を発動! フック船長に光輝属性の魔法が襲いかかります。
「危ない! 船長!」
 甲板長のスミーが、フックをかばい、かわりに自らが魔法のダメージをモロに受けます。
「でかした! スミー!」
 フック船長は小猾い笑みを漏らすと、戦いを放棄して逃げていきました。
「何、逃げてんだよ! 卑怯者!」
 セファーが怒って叫びます。しかし、フックの姿はあっという間に消えてしまいました。
「まちなさい!」
 追いかけようとする刹那の前に、敵が塞がります。
 アレット・レオミュール(あれっと・れおみゅーる)が刹那にパワーブレスをかけました。刹那に祝福が与えられ、攻撃力を高まります。刹那はクレイモアをふるい、目の前の敵を次々になぎ倒していきました。
 
「まったく、物騒な連中ですね……」
 海賊の1人スターキーは、船室の陰から船上で繰り広げられている乱闘を見つめてつぶやきました。この男、海賊ですが暴力を好みません。
「まったくあのような戦いは愚かの極みです。野蛮もいいところ。その点、紳士の私は、手っ取り早くこれで勝負しましょう」
 そういうと、スターキーは懐から拳銃を取り、刹那に狙いを定めます。
「すぐに、あの世に送ってあげますよ」
 そして、引き金に指をあてた時……

「にゃーん……」

 どこからともなく声がして、愛らしい白ネコが歩いてきました。

「うん?」

 スターキー不思議そうには白ネコを眺めめました。
「お前、どこから、入って来たんです?」
「ンなーん……」
 ネコは目を細めてスターキーにすり寄ってきます。
「フッフッフ。かわいいですね」
 スターキーはガラにもなく白ネコを抱き上げ頭を撫でようとしました。ところが、その時……
 バン!
 鉄砲の弾がスターキーの後ろの柱に命中!
 撃ったのはスターキー本人です。
 そして、今、銃口はまっすぐにスターキーの右肩に向けられていました。向けているのもスターキー本人です。
 
「な……なんだ? 手が勝手に……」

 どうやら、スターキーは何かに操られているようです。

 バン! バン!

 再び銃口が火を噴きました。スターキーの肩から血が流れ、その痛みで拳銃を床に落としてしまいます。

「にゃーん」

 白ネコは落ちた銃をくわえてスターキーにウィンクしました。

「! 分かったぞ……てめえ……」

 スターキーは右肩から血を流しながらネコを睨みつけました。

「変身の実で化けて来た、奴らの仲間だな?」
 
 そして白目を剥いて倒れてしまいました。
「大当たりなんだよねえ」
 白ネコが言います。何と、白ネコの正体は遊馬 澪(あすま・みお)だったのです。
「折角だから変身しないと勿体ないもんねえ。でも、うまくかかったなあサイコキネシス」
 そういうと、澪は鉄砲をくわえて走り去っていきました。


「ウェンディさん! ウェンディさん!」
 最初のピンチをなんとか脱したアゾートは、ウェンディを探して船内を走り回りました。

「あたしなら、ここよ!」
 どこからかウェンディの声が聞こえてきます。ウェンディは、短剣をふるい海賊と戦っている真っ最中です。戦いは、8対2の率でウェンディの方が勝っているように思えます。
「……強いんだ」
 アゾートは、安心してその場にへたり込みそうになりました。その時……

「たすけて……」

 どこからか声が聞こえてきます。その声を聞いてアゾートは驚きました。

「……子供だ! しかも、たくさんいる!」

 声は、すぐ真後ろの船室の方から聞こえてくるようです。アゾートは声のする方へと駆けていきました。すると、果たして、船室の中に大勢の子供達が縛られているのが見えます。

「まさか……ピーター・パンにさらわれた子供達?」
 だとすれば、この中にドロシーもいるはずです。アゾートは、船室に飛び込もうとしました。ところが、数歩といかぬうちに、何者かにその腕を捕まれてしまいます。
「おっと! ここから先は行かさねえぜ」
 アゾートの腕を掴んで笑っているのはフック船長です。フック船長はアゾートの体を抱き上げ、その首に鉄のカギをあてて叫びました。
「やいやい! 侵入者ども! これを見ろ! てめえらの仲間を人質に取ったぜ。こいつを殺したくなきゃ、俺様達から盗んだ変身の実を持って、全員おとなしく投降しろ!」
 どうやら、スターキーがこちらに変身の実が渡っている事をフックに話したようです。
 アゾートは言いました。
「ボクたち、変身の実を盗んだりしてないよ。雲の上に落ちていたのを拾っただけだよ」
「うるせえ! あれは落ちてたんじゃねえ! 置いておいたんだ。置いておいたものを勝手に持っていったんだから盗んだも同然だろう?」
「どうせ、あんたたちだって誰かから盗んだんでしょ? 一緒じゃないの」
 ウェンディが叫びます。すると、
「うるせえ、うるせえ、うるせえ!」
 フックは怒り狂って鉄のカギでアゾートの首を絞めました。
「さあ、早く投降しやがれ。盗人ども!」

 と、その時……

 ヒュッ………!

 一筋の矢が飛んで来て、フックの足元にドスっとささりました。

「誰だ?」

 見上げるフックの瞳にこちらめがけて飛空してくるロア・ドゥーエ(ろあ・どぅーえ)レヴィシュタール・グランマイア(れびしゅたーる・ぐらんまいあ)の姿が映ります。
 ロア・ドゥーエは、飛びながら再び矢をつがえました。そして、フックを狙ってきます。

「何してる! さっさとあいつを撃ち落としやがれ!」

 フックが怒鳴ります。慌ててスミーは大砲を撃ちまくりました。しかし、ロアは巧みに弾をかわし、次々に矢をつがえてこちらに向けて射ってきます。
「こちらも矢だ! 矢をつがえろ!」
 フックの声を合図に、弓矢隊が空に向かって弓を構えました。そして、ロアを狙って一斉に矢を放ちます。

「サンダーブラスト!」
 レヴィシュタールが降り注ぐ雷を呼び出し、弓矢隊に電雷属性の魔法ダメージ!
「飛空艇に乗っている時より魔法の使用が楽だな」
 レヴィシュタールが興味深げにつぶやきます。
「くそ! 先にあの魔法使いを撃ち落としてやる!」
 フックは、右手でレヴィシュタールに銃を向けました。しかし、ロクに狙いも定まりきらぬうちに、今度はロアの矢が降ってきます。たまらなくなったフックは、ついにアゾートを抱えて船室の中に逃げ込んでしまいました。

「ふう。危ねえところだった……」
 フックは船室の入ると、中から鍵をしめました。船室の中では子供たちが縄にしばられていて、周りを見張りの男たちが取り囲んでいました。よほど、恐ろしいのでしょう……子供たちは、皆一様にうつむいています。その中にアゾートも縄でしばられて放り込まれました。
 フックは、船室から顔を出して怒鳴りました。

「おい! 盗人ども! それ以上暴れてみろ! 中にいるガキども1人ずつ殺すからな」
「中に子供がいるですって?」
 ウェンディが青ざめます。
「まさか、ドロシーも?」
「へっへっへ。ドロシーちゃんか。そういえばそんな子もいたかもな」
 フックが笑いながら答えます。
「ドロシーが殺されたくなきゃ、武器を捨てろ!」

 こうなっては、言われた通りにする以外ありません。皆、足元に武器を捨てました。

「へっへっへ。うまくいったぜ!」
 ほくそ笑むフック船長の横をカモメがすり抜けていきました。
「なんだ?」
 フックは驚きました。人を恐れるカモメが船室に入ってくるなんて、滅多にない事です。
「おい! そいつを捕まえろ! 変身の実で化けた奴らの仲間かもしれない」
「へえ!」
 子分たちは言われた通りカモメを捕まえようとしました。しかし、カモメは高いところにいて、なかなか捕まえる事ができません。
「何をグズグズしている! さっさと捕まえろ!」
 怒鳴り散らすフックの脇をすりぬけ、ネズミが入ってきます。しかし、みなカモメに気をとられていて気がつきません。
「ちくしょう! 捕まえろ!」
 海賊たちが船室で走り回っている間に、ネズミはアゾートの縄を噛み切りました。縄がほどけたアゾートは、そっと扉に近づきドアを開けます。
「あ、船長! ドアが!」
 海賊の1人が叫びました。バレてしまったようです。
「このガキ! どうやって縄から抜けた?」
 フックが怒ってアゾートを捕まえようとしました。
 そこへ……

 ヒュッ!

 白刃が、フックの顔すれすれのところをすり抜け、彼の目の前の壁に突き刺さりました。

「だ……誰だ? ふざけやがって!」

 フックが振り返ると、そこには、魔鎧アウレウス・アルゲンテウス(あうれうす・あるげんてうす)を装備した、グラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)が立っています。

「て……てめえ! どっから入って来た?」

「ちょっとネズミのふりをしてね」

 グラキエスは笑って答えます。

「アウレウス。夢っていうのは、面白いもんだな。空を飛んだり、ネズミに化けたり……」
 実は、グラキエスは狂った魔力を宿すせいで今まで夢を見たことがありませんでした。それだけに、夢の世界に興味津々です。

 すると、アウレウスが答えました。
「主は海賊船を所望なのだろう。お任せあれ。存分に海賊船を楽しめるよう、邪魔な海賊共を打ち払おう」
 そして、魔鎧はグラキエスから離れて 壮麗な白銀の鎧を纏う金の瞳と髪の凛々しくも華やかな騎士の姿になりました。

「船長! 大丈夫ですか?」
 船の外から、この様子を見ていた海賊たちが、こちらに向かって走って来ます。
 グラキエスは目を輝かせました。
「海賊だ! 本物の海賊だ!」

「この侵入者がー!」
「ぶち殺せー!」
 狭い船室に海賊たちが乗り込んできます。

 アウレウスは幻槍モノケロスを構え、ディフェンスシフトを発動させて襲いくる敵たちを迎え撃ちます。

 海賊たちの相手をアウレウスにまかせ、グラキエスは、フックと対峙しました。
「てめえの武器はこっちにあるぞ」
 フックが壁のアサシンソードを抜いて言います。
「さあどうする? 獲物なしで」
「そうだな。こうするか」
 グラキエスは答えると、フックの手首を蹴り飛ばしました。
「!!」
 アサシンソードがフックの手を離れ、床に落ちます。グラキエスは素早くそれを拾うと、フックに躍りかかっていきました。
 フックは素早く剣を構え、応戦しました。激しい剣戟が繰り広げられます。
 やがて……
 
 シュッ!

 と、グラキエスのアサシンソードがフックの頬をかすめ、フックの頬から血が流れ出しました。
「ちくしょう! 生意気な小僧め」
 プライドを傷つけられたフックは、グラキエスに背を向けて走り出すと、縛られた子供の1人に剣を向けました。
「それ以上動くと、こいつをさすぞ!」
「また、その手かよ! 卑怯ものが!」
 グラキエスが怒ります。
「うるせえ! 卑怯もくそもあるか。俺は自分さえ生き残りゃいいんだよ。ガキの命が大事なら、武器を捨てろ」
 グラキエスは、仕方なくアサシンソードを捨てました。
「よーし、よーし。いい子だあ……」
 下卑た笑みを浮かべながらフックがグラキエスの喉に剣をあてます。

 その時、二人の間にカモメが飛んできました。そして、一声鳴くと、見る見るうちにドラゴニュートへと姿を変えます。それは、今までカモメに変身していたゴルガイス・アラバンディット(ごるがいす・あらばんでぃっと)でした。
「ハァッ!」
 ゴルガイスはドラゴンアーツを発動させてフックに襲いかかります。
「なんだあ?」
 フックは辛うじて、攻撃をかわしました。

 ガン!
 
 ガン!

 フックが避けるたびに、ゴルガイスの拳の入った壁や床が破壊されます。

「た……助けてくれ!」

 フックはまじめにおびえていました。ドラゴン系の苦手な彼は、ゴルガイスの攻撃力もさながら、ドラゴニュートであるその強面と巨大な体が恐ろしかったです。
 
「ハァッ!」

 ゴルガイスはフックの背中を蹴り飛ばし、船室の外へと放り出しました。

。そして、グラキエスに近づいて言いました。
「無事か?」
「ああ。しかし、夢と言うのは案外物騒なものだな」
「いや待て! 普通の人はこんな夢は見んぞ!? これはあくまで特殊な例だ!」
 ゴルガイスは慌ててフォローしました。

 船上では、再び乱闘が繰り広げられています。フックは泡を食って、あちこち逃げ惑いました。
 そこへ、ウェンディが宝箱を持って現れました。変身の実の入っていた宝箱です。
「そ……それは!」
 叫ぶフックにむかってウェンディは
「これを返して欲しかったら、私の後をついていらっしゃい!」
 と叫んで、空へと浮かび上がりました。
「待ちやがれ!」
 フックもウェンディの後を追って浮かび上がります。二人は、どんどん高く登っていきます。やがて、マストも帆も見下ろす程の高さまで来たところで、ウェンディは振り返って叫びました。

「今よ! 八重!」

 その声を合図に、魔法少女八重が愛刀・紅嵐を携えて現れました。

「だ……騙しやがったな!」

 フックは叫びましたが、もう遅い!

 八重は紅嵐に炎の魔力を集中させて叫びました。

「フェニックス・ブレイカー!」

 すると、刀からまるで不死鳥の翼の様に炎が溢れ出してフックに襲いかかっていきます。

「うわああああああ!」

 炎に焼き尽くされながら、フックは船上と落下していきました。