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リアクション
全速力で森を駆ける影。恐らく自己ベストを軽く叩きだせそうな勢いで風を切るのは、後方にただならぬ殺気を感じるためであろうか。
「匂う……ワイのカメラがこの先にある何かを映せと叫んでいるぅぅ!!」
走る頭の中に人知を超えた第六感を感じた影は、更にギアを上げる。
「速い……!! 小型飛空艇で追いつかないのか!?」
ロアがアクセルを目一杯回すも影の背中を時折捉える程度である。
「あ! ロアだ」
「ん?」
小型飛空艇が追い抜かしたのは、朔、みすみ、アテフェフ、真言であった。
「あれは俺と同じ食料調達員達……そうか、大物を追っていたんだな!!」
ロアの小型飛空艇が、遂に影の背を捉える。しかし黒点程であるが、ロアの弓矢の射程には届いていた。
「貰った!!」
ロアが弓を引き絞り、矢を放つ。
「避けた!? そんな、この位置から射ったのに!?」
驚愕するロアが、直ぐ様第二、第三の矢を、文字通り矢継ぎ早に放つ。ほとんど連射と言って良い。
「面白い……面白くなってきたぜッ!!」
ロアに追われる影が、クンと鼻をひくつかせる。
「この匂い……近い!!」
影が手に持った電子機械が赤いライトを点滅させている。
「バッテリーが!!……頼む、持ってくれ……あと、少しなんだぁぁ!」
小枝を体当たりでへし折り、足音がクッキリ残るほどの跳躍を繰り返す影。
その視界に、先ほどまでの鬱蒼と茂った木々の終わりが見える。
「ワイは、映すんだぁぁぁーーーッ!!」
全身の筋肉が凝縮し、一気に跳躍力へと変わる。
光が刺す中で飛び込む影。その正体は、切であった。
「へ?」
「ん?」
川辺で服を脱ぐ事を拒んでいた歩夢と、それを脱がそうとしていたアゾートが同時に顔をあげる。
上空で難易度SSSばりの高速宙返りをした切が、ビデオカメラを持ち、宇宙船の大気圏突入の如く落下してくる。
「ワイの勝ちやああぁぁぁ!!」
「五月蝿い」
静寂を邪魔されたレヴィシュタールが雷術を放つ。
バチィィィッ!!!
「まだ……まだ、終わらないぃぃ」
空中で黒焦げになりつつも体勢を立て直した切が四肢を踏ん張る様に着地し、更なる一歩を踏み出そうとしてザイルに足を引っ掛け、
「あ……」
―――ズボッ!!!
見事、落とし穴に消える切。
「……」
レヴィシュタールは確認作業すら面倒なのか、また瞳を閉じようとすると、
「おい! レヴィシュタール!! どうだ!? エモノは罠にかかったか?」
爆速で飛ばしていた小型飛空艇を見事なドリフトで着地させるロアが、興奮気味に叫ぶ。
「……お前は、あんなものを追い掛け回していたのか?」
「あんなもの? 冗談じゃないって! 滅茶苦茶速かった獣だぞ?」
「……」
「うぅ……」
落とし穴から切の声が聞こえる。結構弱々しい。
「レヴィシュタール!! 雷術でトドメをさしてくれ!」
「いいのか?」
「ああ! また逃げられたら、今度は追いつけるかわからないからな!」
狩りでアドレナリン大流出なロアに、レヴィシュタールが頷き、手をかざす。
レヴィシュタールの手元で雷が光り、穴へと走る。
「ぎゃああああぁぁぁ!!」
「……ん? まるで人間みたいな声だな」
ロアが首を傾げる中、レヴィシュタールが「やれやれ」と立ち上がる。
「あとは、この場でさばいて氷術で冷凍するんだったな。まったく……ロアに付き合っている内に、いらん知識と技能が身に付いたものだな」
肉切り包丁を手にレヴィシュタールが落とし穴へと足を向ける。包丁をキンキンと打合せながら、その表情に妖しい笑みが浮かべて……。
……結局。間一髪でロアが気付き、解体を免れた切であった。
尚、歩夢とアゾートの洗いっこは、後から別の食料調達員達が駆けつけてしまったため、中止になった模様である。