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ザナドゥの方から来ました シナリオ2

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ザナドゥの方から来ました シナリオ2
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リアクション

                              ☆


「これはまた……ひどい」
 また別の入口から、榊 朝斗はその様子を見て呟いた。朝斗は幽那とローザマリアの両方に一応の面識があるため、おおまかに何が起こっているか判断することができたのだ。
 だがひどいと言えば、朝斗が抱える現状もなかなかのものだ。道中トラップ解除で朝斗とルシェン・グライシスを安全にここまで連れてきてくれた頼れるパートナー、アイビス・エメラルドはネコ化したままである。
「うにゃあ〜ん……ごろごろ」
 やたらと朝斗によく懐くアイビスは、今も背中から朝斗に絡み付いて頬ずりしている。トラップを解除してくれたご褒美に、頭を撫でてやると喉を鳴らして喜んだ。
 そして、その様子を見てまた眉の角度が上がるのがルシェンである。もちろん、彼女もザナドゥ時空に引きずり込まれたままだ。
「あー!! 何ですかあさにゃんったら、そんな泥棒ネコにばっかり優しくして!!
 ……いいえ、きっとあさにゃんは騙されてるのよ、そんなびっくりどっきりにゃんこメカよりも、私に仕えて平穏な生活をしたほうがいいって分かってくれるハズ……」
 そろそろ目玉がぐるぐるしてきたルシェンである。朝斗はこの二人を抱えて、目の前の惨状を何とかしつつ、ザナドゥドライブを破壊しなくてはならない。
「……何と言うか、僕のキャパシティを超えてる気がするんだけど……!!」
 ともあれ、こうしていても始まらない。
 朝斗は、また別の入口からコントラクターが入ってくるのを見つけ、それと同時に部屋へと飛び込んだ。
 そのコントラクターというのは、言うまでもなく秋月 葵とイングリット・ローゼンベルグ。そしてブレイズ・ブラスである。
 まずブレイズとイングリットが飛び出し、敵の攻撃などを弾いて、葵がザナドゥドライブへと攻撃する隙を作る作戦だった。

 しかし、そろそろラウネの方もこの状態から抜け出すべく、行動を開始していた。

「うわっ!?」
「な、なんにゃ!?」

 幽那とローザマリアが争っている間に、ラウネは周到に用意していた、自らの蔦を部屋中に張り巡らせていたのだ。
 ブレイズとイングリット、そして飛び出した朝斗がその蔦の罠に捕らえられてしまった。
「しまった!!」
 両手両脚を蔦に絡め取られ、身動きが取れなくなった朝斗。
「あ、あさにゃん!!」
 その様子を見て、ルシェンは急いでフォローに入った。素早く懐から取り出されるデジタルビデオカメラ。

「……え?」

 朝斗は目を疑った。だがそれはどう見てもデジタルビデオカメラである。
「あ、あさにゃんと触手……禁断の……なんてマニアックな……拘束プレ……はぁはぁ」


「ちょっとルシェン、撮ってる場合じゃないって!! 何を変なことを言ってるのさ!?
 というか撮らないで!! つか鼻血ふいて倒れんなあああぁぁぁ!!!」



 朝斗の必死の叫びも虚しく、脳内ゲージをマッハで振り切ってしまったルシェンは、血の海に倒れてしまった。


「にゃにゃーっ!! このーっ!!」
 イングリットも絡みつく蔦をどうにか引きちぎろうとするが、身体の自由が利かない状態では、なかなかうまくいかない。
「イングリットちゃん!! 今助けるよっ!!」
 葵は手に持った似顔絵ペーパーを空中に投げた。それらは一枚一枚が人間の形をとり、地面に着地する。
「あれは!!」
 ブレイズは叫んだ。似顔絵ペーパーは4人の葵に変化したのである。

「いくよっ!! 魔法少女――リリカルV(ファイブ)!!」

 本物と合わせて、赤、緑、白、黒の魔法少女コスチュームに身を包んだ葵たちの行動は素早かった。歴戦の立ち回り――様々な経験の積み重ねで会得したスピードであった。

「そーれっ!! 豪華二本立て、睡眠大作戦!!」
 5人の葵は、一斉に『子守唄』と『ヒプノシス』を発動させた。
 確かに、争っている幽那とローザマリアをどうにかしなくてはラウネに攻撃もできないし、仮に一瞬の隙を突いてもラウネは一撃で倒せるような相手ではない。
 ならば、この部屋の相手をすべて『子守唄』や『ヒプノシス』で行動不能にしてしまえば、対処もしやすいというものだ。

「う……なに……?」
 幽那やアッシュ、ネロやローザマリアは、葵の攻撃の影響で朦朧としてきた。ちなみに効果範囲内にいた朝斗は辛うじて睡眠大作戦から逃れることができたが、蔦は絡まったままだ。
「って、これじゃ僕も動けない!!」
 だが、鼻血の海に倒れたルシェンはまだ動かず、完全にネコ化したアイビスは子守唄ですやすやと安らかな寝息を立てるのだった。
「ふにゃ……すや……」
「寝てんなーーーっっっ!!!」


 だってネコだもん。


「にゃ、助かったにゃ!!」
 どうやら葵の目論見は成功し、ラウネの意識をも混濁させることに成功したようだ。わずかな間ではあるが、これで時間が稼げるだろう。青いコスチューム姿の葵本体は、イングリットの拘束を解く。

 その時。

「――うぉっ!?」
 通路から何者かが放った攻撃が、ブレイズを絡め取っていた蔦を断ち切った。自由になったブレイズは、通路の方向を見る。
 そこにいたのは、武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)。彼の放った『龍の波動』がブレイズの拘束を解いたのだ。
「先輩!!」
 牙竜をヒーローの先輩として慕うブレイズは声を上げた。そのブレイズに、牙竜は笑顔を見せる。

「苦戦しているようだな……だが、ここからは俺達のターンだ!!」
 拘束を解かれたブレイズの傍により、牙竜はザナドゥドライブと魔族ラウネを睨みつける。
「いいかブレイズ……確かに、Dトゥルー本体に対峙する前にザナドゥドライブを破壊しなければいけない、という考えは正しい。
 だが、時間がないのも確かだ。ザナドゥドライブを破壊した後、何が起こるか判らない。
 ……あれを破壊した後、Dトゥルーと戦い、勝利しなくてはまた同じ事の繰り返しになるかもしれない」
 牙竜の言葉に、ブレイズは頷く。
「確かに……アレを壊しても、大将に逃げられたら意味がねぇ……」
「そこで、俺に考えがある」
 牙竜は、ザナドゥドライブの上部から天井――無数の管が繋がっている穴の一つを指差した。その一本は中でも最も太く、強い力の流れを感じる。
「いいか……おそらくアレが王の間……Dトゥルーに魔力を供給しているのだろう。アレを辿ってDトゥルーのところへ急げ」
「しかし先輩!! この場を先輩一人に任せていくわけには!!」

 しかし、そのブレイズの言葉は、牙竜の後ろの龍ヶ崎 灯(りゅうがさき・あかり)に遮られる。
「あら、お言葉ですね。私たちでは頼りになりませんか?」
 そう言った灯の手には、牙竜がヒーローとして変身するためのカードがある。
「い、いや……そういうわけじゃ」
 さらにもう一人のパートナー、重攻機 リュウライザー(じゅうこうき・りゅうらいざー)もまた硬い胸を張った。
「心配ご無用……マスターと私達に任せておくが良い」
 灯が畳み掛けるようにブレイズの背中を押す。
「そうそう、ごちゃごちゃ言ってる場合じゃないですよ、さあさあhurry、hurry!!」

 すると、通路の奥から更に声が響いた。そこにいたのはノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)だ。
 そしてその横には冬の精霊ウィンター・ウィンターの姿も。
「大丈夫っ、ここは私たちに任せて!!」
「その通りでスノー!! うだうだ言ってないでさっさと行くでスノー!!」
 ノーンのパートナー、御神楽 陽太(みかぐら・ようた)も姿を現し、言った。
「皆の言うとおりです。……ここはノーンや、皆に任せて下さい。
 これだけの戦力が集まればどうにかなるでしょうし、俺もどうにかしてザナドゥドライブを制御できないかやってみますから」

 気付くと、大勢のコントラクターが心臓部の攻略に集まっていた。
 それを見て表情を引き締めたブレイズに、牙竜は声をかける。
「そうだ、仲間を信じることもまた、ヒーローの務め!! 行け、ブレイズ――いや、正義マスク!!」

「判った、ここは任せるぜ、先輩達!!!」
 ブレイズは、正義マスクを利用した跳躍力で一気に跳ね上がった。
「援護するにゃー!!!」
 目的のザナドゥドライブ上部までの蔦を、イングリットが迅雷斬で切り裂いて、道を作る。
「サンキュー、イングリット!!」
 何とかザナドゥドライブに取り付き、天井に伸びた管を伝って姿を消すブレイズ。
「ふっふーん、我が刃に斬れぬものはないのにゃー!!」

「みんな、来るよっ!!」
 そこに、5人の葵が注意を促した。
 どうやら、ヒプノシスと子守唄の効果が切れ掛かったラウネが、意識を取り戻そうとしている。
「おのれ……おのれぇぇぇ!!!」

 ノーンは、カメリアの『バキュー夢』で取り出した、氷の結晶のような形をした水晶を握り締めた。
「さあ、いくよウィンターちゃん。……私に、力を貸してっ!!」
 その結晶はかつてウィンターと春の精霊スプリング・スプリングが作り出した『情熱クリスタル』だった。右手でそのクリスタルを握り、ウィンターと手を繋いだ。

「カード・フル・インストール!! コードアクセス、ケンリュウガー・パートナーワード!!!」
 灯が叫ぶと、牙竜の魔鎧へと変形した。
 牙竜はそれに加えて牙竜のパワード系アイテムが融合し、力と技の最強フォーム、ケンリュウガー・パートナーワードへと変身する!!
「剛臨、ケンリュウガー!!!」
 そして、リュウライザーもまたバキュー夢で取り出した『情熱クリスタル』を構え、遠距離用大口径火力モードへと変形した。
「チェンジ、Oモード!!」

 ラウネが意識を取り戻し、部屋中の蔦が再び蠢き始める。
 ノーンとウィンターが繋いだ手から、情熱の光があふれ出す。その光を力に変え、ノーンは叫んだ。
「スーパー・冷凍ビーム!!!」


                    ☆


 その頃、地上では。


 数十体の有翼魔族が、ブラックタワーの近くを目立たないように飛んでいた。
『……あれだ』
 ブラックタワーの近くには、カメリアの神社がある。
 この山はカメリアが地祇としての力を多少なりとも発揮していて、非力ではあるが神聖な場所として浄化してきた。
 その神社の傍には、カメリアの本体である椿の古木がある。もしここが正式な神社であれば、『ご神木』という扱いになるのであろう。
 ブラックタワーの前で幾多のコントラクターと力を合わせて戦ったカメリアを見たDトゥルーは、ここでカメリアを放置するのは得策ではないと感じていた。

 また、Dトゥルーの目的は、個人的な闘争と魔族のためのユートピア『トゥ・ザナドゥ』の建設。そのためにはこの山を占拠する必要があり、カメリアの存在は二重の意味で邪魔でしかなかった。

『地上のコントラクターがDトゥルー様の空中宮殿に乗り込んでいる間に、あの邪魔な地祇の本体を始末するのだ』
 Dトゥルーの命を受けた手下のモンスターは、ほとんどのコントラクターが宮殿に乗り込んでいる間に、カメリアの本体を攻撃するために来たのだ。
 確かに、ほとんどのコントラクターはブラックタワーから空中宮殿へと乗り込んでいるし、残った者はブラックタワーの扉の確保、街との連絡などで忙しい。今この瞬間、カメリアの本体は限りなく無防備なのだ。

『あの邪魔な地祇を失えば、戦力を喪失するコントラクターも出るだろう……いけ!!』
 有翼魔族のリーダーの掛け声で、数体の魔族が空中から椿の古木へ向かって飛んでいく。

『グギャアアアッッッッ!!!』

 だが次の瞬間、カメリアの本体に襲いかかろうとしたその魔族は叫び声を上げ、墜落する。
 見ると、誰かが放った矢が、正確に二本、頭部に刺さっていた。
『何っ!?』
 魔族たちがよく目を凝らすと、カメリアの本体のすぐ近く、小さな社の前にごく少人数の一団がいた。

「いいかおめーら。最悪神社は捨てても構わねぇ……けど、カメリアには。
 あの椿の木にだけは、ハナクソひとつつけさせんじゃねぇぞ」

 それはアキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)アリス・ドロワーズ(ありす・どろわーず)だった。
「……やっぱり、来たネー」
 アリスは呟いた。アキラとアリス以外にそこにいるのは、樹木人やゴーレム、スナジゴクやそれらを運ぶディアトリマ。それにケンタロスやガーゴイルなどの従者やペットたちだった。
 魔族たちがここを襲うかどうかは、アキラにも自信はなかった。
 何もなければ、役立たずのそしりを受けることもあるだろう。魔族退治に参加しなかった腰抜けと、言われることもあるだろう。

「……ちょっと……多いかもしれないネー」
 ざっと魔族の影を数えたアリスは呟いて、アキラを見上げる。

 それでも、アキラはここにいた。アキラ自身がカメリアを驚かせたくて作った神社。文句を言いながらも、ずっとここに住み続けていたカメリア。

「目標、カメリアの死守。以上」
 アキラが短く言い切った。アリスもまたやれやれと笑顔を作り、魔族たちを睨みつけた。
 烏合の衆と言えば、ただそれまで。

『おのれ、構わん!! たかが人間一人と雑魚の集まりだ!! やってしまえ!!』
 翼を利用して、アキラたちへと襲い掛かろうとする魔族たち。
 だが。

「孤独な戦場がよく似合う!!
 『やりたい放題』『まさにやりたい放題』と人は言う!!」

 アキラとアリス、そして従者達は魔族たちをびしっと指差して、声高に叫んだ。

「葦原明倫館校、アキラ・セイルーン!!」
「同じクゥ、アリス・ドロワァァズ!!」
 迫る魔族たちに対して、彼らは一歩も引くつもりはない。

「――例えこの日この時この地にて、我が命の火が燃え尽きるとも!」
「――我が友のためにこの命、燃やし尽くせるものならバ!!」


「ここで果てるは本望なり!!!」


 誰も知らないところで、孤独な戦いが始まろうとしていた。