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【空京万博】海の家ライフ

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【空京万博】海の家ライフ
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 厨房の爆発後の海の家は、何事も無かったかのように、再び営業を開始していた。
 奇しくも、輪廻とブルーズが起こした爆発により、客の注目度が飛躍的に上がったためである。
 奇跡的に怪我人こそ出なかったものの、爆発の余波は意外にも、というか案の定大きく、ノーンとなななが開発していたスープ、および明子が作っていたスープは吹き飛んでしまい、再び『元祖海水ラーメン』の出番となっていたのだ。
「ラーメン、やめよっか……?」
 セルシウスに漏らしたルカルカの呟きに沙幸が反論する。
「でもね、ルカルカ? 海の家といえば、あんまり美味しくないんだけど、なぜか美味しく感じちゃう、そんな食堂のご飯が売りでもあるんじゃない?」
「……沙幸、じゃあ食べてみる?」
「ご、ご遠慮します!!」
「やはり、改良計画を続行させるべきだろうな」
 そうは言いつつも、「このままでは只のラーメンが美味い海の家になるぞ? 君はそれでいいのか?」と、アルツールにされた忠告がセルシウスを悩ませていた。
「ちょっと、待った!!」
 会話に割って入ったのは、店員のハインリヒ・ヴェーゼル(はいんりひ・う゛ぇーぜる)である。
「海の家で出すラーメンを不味く作るのは、古式に則った地球の伝統文化であり、ここを訪れる客もそれは承知の上で、不味いラーメンを敢えて注文しているのだ」
 余談であるが、ハインリヒは、他の店員が「捨てよう」と言い続けていたスープ、つまり元祖海水ラーメンのスープをずっと一人で守っていた。
「守る程のもんじゃないでしょう?」とは、明子の言葉である。
「不味いラーメンを敢えて?」
 困惑気味の顔をするセルシウスに、「まったくこれだからエリュシオン人は……」と、ブツブツこぼしながらも、ハインリヒが説明を始める。
「いいか? エリュシオン人であるお前には俄かには信じがたい話だろうな。だが、考えてみてくれ。見ての通り、海の家はロクな調理器具も無く、食材も限られている。当然、出来上がるラーメンはまずい。それは何故だと思う?」
「えっと……今、全部理由を話してたような……」
 沙幸の呟きをスルーしたハインリヒが続ける。
「コンビニや居酒屋チェーンを発明した地球人がそんな簡単な事に気付かないと思うか?
 そうではない! 気付きながらも、敢えて、歴史ある伝統として、あるいは、様式美として残しているのだよ、明智君!」
「……アケチとは誰だ?」
「あんた、そこはスルーしなさいよ! 空気読めないのかしら、エリュシオンの人は」
 ハインリヒのパートナーである天津 亜衣(あまつ・あい)がセルシウスに釘を刺す。
 天を仰いだハインリヒの言葉に力がこもる。
「そう、いかなる手段を用いてラーメンを不味くするか? は、海の家の調理人の腕の見せ所であり、また一方で、出された不味いラーメンを、これほど美味い物は無い、という顔で胃に流し込む事は、海の家を訪れる客のステイタスなのだ!」
「そう! そしてそんなラーメンが今まさにここに誕生したのよ!!」
 亜衣がハインリヒとセルシウスの前に、サッとラーメンの器を差し出す。
「こ、これは!?」
「これはあたしとハインリヒが他の店員が調達してきた食材を使用し、鋭意研究を少しだけ重ねて作った、何をどう料理したらこんなに不味く出来るのか判らない、海の家特製ラーメンよ!!」
 セルシウスが見ると、器には、透き通ったスープに麺、チャーシュー、メンマが数個、心なしかちょっぴり多い気がするネギが添えられた、ごく普通のラーメンが入っている。
 ただ、器を興味深そうに覗き込む店員達の中で、氷像を掘るダリルだけが「ありえんモノを作ったな」と呟く。