校長室
太古の昔に埋没した魔列車…御神楽環菜&アゾート 後編
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如月 正悟(きさらぎ・しょうご)が鉄道員の制服の提案をしようということで、フォルテッシモ・グランド(ふぉるてっしも・ぐらんど)と額をつき合わせて話し合いをしていた。現在の課題は女性用の制服である。 「で、コンパニオン衣裳風のワンピース…と」 正悟の脳内でデザインの元になっているのは、空京万博の『現在』のパビリオンの衣装だそうである。 フォルテッシモはその要望を書きとめて、サンプル衣装作成の素材の検分を始める。 「それと、男性用は一種類でいいとしても、女性用は駅構内用と、電車内用での二種類は必要だと思う」 「マスター、デザインはありますの?」 差し出されたデザイン案を眺め、フォルテッシモは俄然やる気を出す。 「私のファッションセンスにかけて、この衣装に視線を集めてみせますわ!」 「それで、これがサンプルというわけね」 「制服があれば駅員が判別しやすいし、統一感や連帯意識がでてくるだろうという思惑です」 環菜は正悟から提案された案のコピーをめくって、デザインを閲覧した。その中でしっかりと造りこまれ、トルソーに着せられた女性用の一着を上から下までじっくりと眺めて、素直な感想を一言。 「これ、誰が着るの?」 ノースリーブでボディラインがはっきりと出る強気なライン、スカートの長さは考慮されて、中が覗かれそうな危険さはないけれど…。 フォルテッシモが覗き対策用のスパッツをトルソーの下にあてるように掲げ、ボレロ丈のジャケットを着せ掛ける。ジャケットがそれまでの生意気なイメージをやわらげてくれはしたが、違う意味で人目を引くだろうことは間違いない。 「これ、元はもしかして空京万博のパビリオンの?」 「はい、添乗員の存在ってのは華やかさを象徴してる顔みたいなものですから、インパクトを狙いたいと!」 「まあ、頑張ってくれたみたいだから、ひどいこと言いたくはないんだけれど、あっちの意見も聞いてみるわ」 さくっとネット電話で環菜はラズィーヤとエリザベートを呼び出した。たまたますぐに応答したエリザベートが顔を出す。 『はぁ〜い、どうしましたぁ?』 「ちょっと制服案が挙がってきたの、率直な意見をお願い」 『えーと…、…誰が着るんですかぁ…?』 ラズィーヤが静香を連れて遅まきながら顔を出し、あらまあと呟いた。静香も、わあ…とささやいた。 『個人的には、静香さんに着せたいデザインではありますけれど、駅の制服としてはいささか逸脱していますわね』 『ら、ラズィーヤさん…』 「確かに、空京パビリオンのコンパニオンが着るなら問題はないかもしれないわ、でも駅のイメージには合わないわね」 『駅のデザインはぁ、ヴァイシャリーにふさわしい中世を思わせるものですしねぇ〜』 『列車のあるべきイメージは、信頼と安定ですしね。ところで男性の制服のほうはどのような?』 静香がそちらを促し、デザイン案のデータが即座に向こうに送られた。 「…くそう…」 立て続けのダメだしに正悟がちょっと落ち込んだ。ものすごい意気込みだったのだろう。ただし『女性の制服に関しては』という注釈がつく。 「男性服については、まともね」 資料を改めて見返した環菜がつぶやく。スーツとジャケット、それに帽子を合わせるのはごくスタンダードなセットだ。 「スーツの袖か、襟に切り返しのカラーもしくは柄を入れればどうでしょうか?ヴァイシャリーに根差した柄であればよいのでは」 フォルテッシモも己のセンスにかけて黙ってはおれない、正悟も顔をあげてデザインを書き直す。 『柄ならタータンチェックとかだと、いいかもしれませんね。でもそれだけで派手になっちゃうかも』 『そうですわね、あと制帽も女性はハンチングかベレーにするなど、よろしいかもしれません』 「機動性を考えたら、女性ものもベースは同じでタイトスカートとパンツスーツがいいと思うわ。駅用と車内用を分けるんでしょう?」 男性はネクタイ、女性はスカーフ、ベストを着るか否か、イメージカラーとその差し色などを話しあう。 「ベースの色は落ち着いたグレーかな。ヴァイシャリーのイメージだとやわらかいパープルとグリーンの二色を挟むのはどうだろう」 「ベストを差し色にするか、ジャケットのほうに差し色を入れるかも悩みますね」 「ジャケットとパンツをグレーで、ベストをパープルで、中のシャツをごく薄いグリーンにしよう、スカーフの色は同じグリーンで、サイドに流す感じでふんわりと結んでさ」 「ジャケットのベースは同じでも、男女で差別化を図りましょう、男性はフロントカットが丸いのが大体普通ですけど、女性はそこをすっきりと角を立てれば、前を開けてもしめてもラインが綺麗に見えるでしょう、機動性にもつながります」 ポケットの切り替えしと袖口にパープルのタータンチェックを入れてみる、面積を少なめにして、どうしても浮かぶ派手さをおさえた。 環菜はぐいぐい出来上がってくるデザインを覗き込んで微笑んだ。先ほどのような派手さはなくなったが、ヴァイシャリーにふさわしいデザインなのではと思う。 駅員とは、スタッフという認識のしやすさと、親しみやすさを持ち合わせるべきであるだろう。 「じゃあ、出来上がり楽しみにしてるわよ」 「任せてください!」 環菜の背中を見送り、二人は試作にとりかかった。