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リアクション
第一章 着せ替え狂想曲 2
ともあれ、こんなケースはまだいい方である。
いろいろと問題が起きるのは、やはり異性の服を……特に、男性が女性ものの服を渡されてしまった時である。
「俺も工場の中に入るためには服を着なければならないのか?」
「もちろんです。これをどうぞ」
健闘 勇刃(けんとう・ゆうじん)に差し出されたのは、まごうことなく女性用のドレスであった。
「し、死んでも着ねえぞ! 他の服はないのか!?」
拒否する時は強気に、即座に。これが秘訣である。
それが功を奏したのか、ジョージアはすぐに次の服を提示してきた。
「これは……西ロイヤルガードの服じゃないか!」
別の意味で思いもかけない服を渡され、再び目を丸くする。
「いえ、本物ではなくコスプレ用のレプリカですが」
「なんだ……まあ、それもそうだな。本物だったら大騒ぎになりかねない」
九分の安堵と、一分の残念な思い。
しかしいずれにしても、ロイヤルガードを志願する彼にとって、レプリカでもこの服に袖を通せるのは悪い話ではない。
「よし、それじゃこれにしよう」
かくして、うまく異性装の危機を脱した勇刃であったが……皆が皆、こううまく断りきれるわけではない。
「あれ? そこの姉さん、結構美人じゃないか!」
予期せぬ形で声をかけられて、ジョージアは不思議そうに振り向いた。
声の主――コルフィス・アースフィールド(こるふぃす・あーすふぃーるど)は、それを見て嬉しそうにカメラを構える。
「せっかくだし写真一枚撮らせて……あいた!」
「おい、コルフィス、調子に乗るな!」
コルフィスがシャッターを切るより早く、勇刃の鉄拳ツッコミが炸裂する。
ジョージアは少しきょとんとした様子で見ていたが、すぐに我に返り、コルフィスにも「着替え」を手渡した。
「では、あなたはこれを着てください」
「ん?」
受け取った服をしげしげと眺めるコルフィス。
「こ、これは……伝説のメイド服じゃないか! 結構マニアックなのが来てるな……」
伝説のメイド服もマニアックかもしれないが、渡されたメイド服の正体をいきなり看破するのも十二分にマニアックであると言えよう。
ともあれ、しばしそれを観察した後、コルフィスは当然のごとくある結論に達した。
「よし、着るぞ! 帰ったら誰に贈ろうかな……」
「……お前があっさりメイド服を受け入れたことに呆れたぜ」
隣で大きなため息をつく勇刃だが、コルフィスはその原因が自分であることには全く思い当たらない。
「って、勇刃? こ、今度はどうし……うぎゃ!」
「男としてのプライドはないのか!?」
結局、勇刃の二度目の鉄拳が炸裂することになるのであった。
「募集時は普通のバイトだったはずですが……」
ジョージアに渡された服を見て、白木 恭也(しらき・きょうや)は大きくため息をついた。
彼の手元にあるのは、よりにもよって百合園女学院の新制服である。
「ジョージアさん、義務付けるのはいいですが性別は選んでください……」
その力ない抗議が、ジョージアに届くはずなどもちろんない。
「何か?」
「……いえ、いいです」
人生、諦めも肝心である。
そう考えて、恭也はおとなしくこの服に着替えることにしたのだった。
「まあ、別に裸で仕事しろと言われたわけじゃなし、それが制服だと思えば問題ないよな」
そんなのんきなことを言っていたのは、エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)。
しかし、彼とそのパートナー、エオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)に手渡された服を見て、さすがに少し動揺する。
「これ、パラ実の女子制服ですよね。どこからどうみても?」
「ま、まあ……イギリス海軍の制服だと思えば!」
エオリアのツッコミに、自分でも無茶な反論をしてみるエース。
確かに起源を考えれば間違っていないのだが、まあ、それで目の前の現実が変わるわけでもない。
「じゃなきゃ、スコットランドのキルトだと思え!」
無茶な反論第二弾。当然自分で無茶を自覚してるものが役に立つはずがない。
「というか、以前着たアレよりはマシだろう!」
「確かに……以前着た旧百合制服よりはマシなのかもしれませんが……」
無茶な反論第三弾、かと思いきや、今度は基準の方が大幅にズレる。
さすがにそれはもっとも……かと思いきや、エオリアからとんでもないカウンターが飛んできた。
「でも、このセーラー服って短めのスカートですよ?」
言われてみれば、百合園女学院の旧制服は一応膝下までのスカートである。
それに対して、こちらはもうミニスカートと呼んでも差し支えないレベルの短さであった。
ことここに至っては、完全に開き直る以外に道はなかった。
「というか中途半端に女装するからイマイチなのであって、ちゃんと下着から整えて着ればそれなりにイケる!」
何というかもういろいろと間違っている気はするが、この状態でそれ以上の解決策を模索しろという方が無理難題である。
「わかりました、エース1人にさせる訳にもいきませんし、仕方がないので付き合います」
エオリアもついに折れ、エースは変に力強い歩みで、そしてエオリアは少し弱々しい足取りで、ロッカールームへと向かったのだった。
「ま、仕事だし仕方ないかぁ……で、俺は何を着ればいいんだ?」
そう尋ねるニーア・ストライク(にーあ・すとらいく)にも、ジョージアは当然のごとくメイド服を手渡す。
「メイド服……だと……?」
まあ、ナチュラルにこんなものを着ろと渡されて、思わず固まるのは当然と言えば当然である。
だが、結果としてそれで拒否するタイミングを逸してしまい……。
「あー、うん、仕事だもんなぁ……」
すでにジョージアは次の相手のもとへ向かい、後にはメイド服をもったニーアだけが取り残された。
ニーアはしばし考えて、やがてこういう結論に達した。
「まあ、考えようによっちゃ面白いかな……そうだな、面白いな!」
なんというプラス思考……というか、もちろん半ばヤケクソなのは言うまでもないのだが。
「……ってか、そう思わないとやってられねぇぜ!」
「このところ何かと物入りだし、一番手っ取り早い仕事っちゃそうかもしれねぇけどさ……」
ジョージアに手渡された服を見つめながら、ライオルド・ディオン(らいおるど・でぃおん)はぽつりと呟いた。
「……帰りてぇ」
彼の手の中にあるのは、天御柱学院の「女子」制服。
もともと自分が女性のような外見であることは自覚しており、それどころか、使えるところではそれを武器としても扱っている彼であるが、そうであっても、いや、むしろそうであるからこそ「女性用の服」は絶対に着たくはなかった。
ところが、これまた動揺しているうちに断るタイミングを逸し、性格的に仕事を放り出すような無責任な真似もできない以上、もはやとるべき道は一つしかない。
ライオルドはもう一度深くため息をつくと、仕方なく着替えに向かったのだった。
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