校長室
【2021ハロウィン】大荒野のハロウィンパレード!
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―第五章― ハロウィンパレードもいよいよ終盤に差し掛かろうとしていた。 どんな大会やイベントでもそうだが、目玉や優勝候補と言われている者達がいる。 今大会も、開催前から二強と呼ばれていた山車があった。 それぞれはチーム名でこう呼ばれている。【かぼちゃの馬車と宦官ダム】と【いとお菓子】 ハロウィンパレードの山車が通り過ぎた道に、静寂が訪れていた。 先を行く山車の賑やかな歌声や音楽が遠くへと向かっていく。それが聞こえなくなった時、 「いらっしゃいませ、旦那様奥様方」 道の中央でスポットライトを浴び、百合園女学院制服で登場したのは、七瀬 歩(ななせ・あゆむ)である。 歩の登場に、道の傍の観客が一斉に蛍光スティック(所謂、サイリウム)を振る様子を見ているのは、ライトを点灯させた四条 輪廻(しじょう・りんね)である。 「(大したことないものかもしれないけど、どうせならパレードに参加した気分になって貰いましょうか)」 手に持つ灯りに小さな虫が寄ってくるのを手で払いながら歩を見ている輪廻はそう考えて事前に配布していたのだ。最も、輪廻の姿は、上半身の素肌の上にラフに包帯を巻いた、メガネを掛けたミイラ男姿であるため、配る時に小さな子供に泣かれた事もあったが……。 観衆の振るサイリウムを見渡して歩が微笑んだ後、 「今宵は魔法にかかったかのような一時をお楽しみください」 歩が深くお辞儀をすると同時に、『変身』で魔法少女コスチュームになる。 「(よし、今だ!)」 輪廻が手元にあった煙玉の導線に着火すると、道に薄い煙が立ち込め出す。 ライトに照らされた白や紫、赤、青等の煙が地上を波のように流れていき、やがて魔法少女に変身した歩の姿が煙の中に消えていく。 それと同時に、輪廻が予め選んでおいたBGMが静かに流れだす。ハロウィンをイメージしたちょっと妖しく、悪戯っぽい曲である。 ―――バチバチバチィッ!! 小さな火花が煙の中に弾け出し、虹を架ける箒に乗った歩が周囲に虹を架けながら飛ぶ中を、大きな二つのシルエットがゆっくりと行進してくる。 「「「うおおぉぉぉ!!」」」 観客のどよめきの中、姿を現したのは、桐生 円(きりゅう・まどか)のティラノサウルスであるちーちゃんと、マリカ・メリュジーヌ(まりか・めりゅじーぬ)のティラノサウルスであるナトリである。 ちーちゃんの衣装は、チョッキとシルクハットにモノクルと紳士的な恰好であり、前に出した手にはお菓子の入ったカゴを持っている。 また、ナトリは、ちーちゃんと対照的に、メイド服。それに同じくお菓子の入ったカゴを持つ手には、上品なミトンが嵌めてある。 二頭のティラノサウルスを操る御者の円とマリカの衣装もこれに合わせて、円はシルクハットと執事服、マリカはメイド服である。 「それゆけー、ちーちゃんー!」 呼吸を合わせてナトリを操縦していたマリカが、男装してイケメンになった円をチラリと横目で見る。 マリカもハロウィンパレードという事で、当日どんな仮装をするんでしょう? と密かに楽しみにしていたのだが、彼女に与えられた服は無かった。つまり、いつものメイド服のままである。 「(まぁ、確かに……私はメイドですし悪魔ですし、そのままでも一向にハロウィンの空気からは外れないんでしょうけど……隣の円様が執事服なら仕方ないですね)」 ちーちゃんが円の指示で、カゴの中のお菓子を観客へと投げ入れていく。 そんな二人に向かい、観客から一斉にフラッシュがたかれる。 「それにしてもなんかフラッシュがきついよ。そう思わない?」 「パレードとはこういうものですよ?」 円の問いかけにマリカが微笑む。 ちーちゃんとナトリの胴体に付けられたロープが後方へと延びている。 一呼吸置いて、煙の中から巨大なシルエットが見えてくる。 「「「おおおおぉぉぉーーーッ!?」」」 先ほどよりも大きな歓声が響き、『シンデレラ』をイメージした巨大なかぼちゃの馬車型の山車が煙の中からその姿をゆっくりと見せ始める。 薄暗い闇の中、観衆の歓声を聞きながら目を閉じているのは、ロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)である。 「(いよいよですね……)」 目を閉じたロザリンドの脳裏をよぎるのは、少し遠くも、少し前にしか感じられない様な、慌ただしい日々の記憶。 「マリカさんが淹れてくれたお茶で、のんびりお茶会を楽しみつつ、お互いアイデアを出しあったのですよね……円さんや亜璃珠さん達がティラノサウルスを使って山車を引っ張ろうとか、歩さんが箒に乗って空を飛ぶとか、色々やる事を話し合ったり……」 目を薄っすらと開けていくロザリンド。 「その間、私もイコンを使って、山車であるこのカボチャの馬車を作成したんです……私のイコンがしゃがんで隠れるぐらいの大きさで、ちょこっとギミックを付けたり、それに合わせてイコンの外装も布や金属を加工して作ったり……そうそう、演出を担当して貰った輪廻さんは、私達と話す時はどうしてか、真っ赤な顔でしどろもどろで、でも一生懸命話をして下さいました」 「はーっはっはっは、精一杯演出してやるから覚悟しておけっ」と、誰も居ない時に輪廻がそう山車に向かって一人で宣言していたのをロザリンドは目撃したことがある。 ふと、思い出し笑いをしつつ、ロザリンドの手が操縦桿を握る。 「美奈子さんやコルネリアさんも、駆けつけてくれました……私、今、一人なのに一人じゃない。きっと成功させたい! だから……」 ギィィ……と馬車の車輪が軋み、止まる。同時に輪廻が流していたBGMも。 表では、行進を止めたちーちゃんとナトリへと、歩の箒の後ろに乗った地味な魔女の格好をした崩城 亜璃珠(くずしろ・ありす)が近づき、御者の円とマリカのそれぞれにアリスキッスをする。 歩の箒から亜璃珠がかぼちゃの馬車の超常に飛び降り、静かに観客を見渡す。 「フフ……」 そう微笑んだ亜璃珠が片手を高々と挙げ、 ―――パチンッ! 指を鳴らすと、亜璃珠を乗せたまま、かぼちゃの馬車の上部分がゆっくりと上昇し始める。 「行きます!!」 ロザリンドが操縦桿を倒す。 ピアノを主体とした綺麗なBGMを流れ、箒に乗った歩がシューティングスター☆彡で上空から小さな星と、輪廻から頼まれた金色の粉吹雪を散らせていく。それらはライトに照らされてキラキラと輝き、先程まで地を覆っていた煙がゆっくりと引いていく。 かぼちゃの馬車の中から、黒い布をローブのように纏い三角帽子を被った魔女を模した姿の宦官ダムイコン、センチネルがしゃがんだ状態で現れる。 「「「おおおおぉぉぉーーーッ!?」」」 色々魔改造の結果、百合園女学院の桜井校長の姿をしたセンチネルが、ゆっくりと立ち上がっていくと同時に、そのかぼちゃの下部分が、まるで花びらを開くように展開し、花の形のダンス場になる。 あまりにも幻想的な光景に息を呑む観客たち。 展開されたダンス場には、とんがり帽子に黒マントという典型的な魔女の仮装をしたコルネリア・バンデグリフト(こるねりあ・ばんでぐりふと)と、色違いの白を基調とした魔法使いの仮装をしたイングリット・ネルソン(いんぐりっと・ねるそん)、他にも百合園女学院の生徒と思われるダンサー達が、スカートの裾を少し掴んで観客に頭を下げている。 沸き起こる観客の拍手と大歓声。 それに応えるように、センチネルがローブを外し、バッと帽子を投げ捨て、シンデレラドレスの外装を施したイコンに変身する。 かぼちゃの馬車より出て、一歩踏み出すセンチネル。 「さあ、ダンスを始めましょうか!!」 ロザリンドの言葉に一同が頷く。 「いくよ、お嬢さん達!!」 輪廻が新たなBGMを流す。明るくそれでいて上品な音楽。 曲に合わせて、ロザリンドのセンチネル、コルネリア、イングリット、亜璃珠が一斉に舞いだす。 最初は魔女の格好をしていた亜璃珠は、かぼちゃの馬車の上で、黒檀の砂時計と簡易更衣室を使い、かぼちゃの馬車に不釣合いな和服へと着替えていた。亜璃珠は扇を使って華麗に舞う。 頭上で舞う亜璃珠の姿にファイトを燃やしたのはイングリットである。 「(わたくしだって、伊達に茶道から舞踏まで習っていたわけではないんですわ!)」 ステージ上をところ狭しと大胆に舞うイングリット。 ちなみに、彼女を誘ったのは円である。 「百合園で出し物出すのって久しぶりだしね……折角だから」 そう思った円は、ダンサーのメンバーが少ないと寂しいので、事前に百合園でダンサーを募集しておいた。その時、暇そうなイングリッドも誘われ、あっさりOKしていた。 そして、コルネリアも其のクチである。 「百合園の先輩方がハロウィンパレードに参加されるとのことで、私も及ばずながら何かさせて頂きたく思いました。私、ダンスは得意ですので山車の傍でダンスを披露させてもらえればと」 「いいよ!」 「勿論ですわ」 とある放課後の教室。コルネリアの申し出に、演出の打ち合わせ中だった円と亜璃珠は直ぐに首を縦に振った。 因みに円の前には、真っ赤な顔で演出プラン表を描いている輪廻がいる。 「美奈子くんも出るの?」 「……それが……」 コルネリアが困った表情を浮かべる。 「夏が終わってしまったと、最近元気がないのです。美奈子は……」 「夏バテじゃない?」 「それは夏の間に起きる現象ですわ。季節は秋ですわよ?」 亜璃珠が窓から赤く色づき始めた木々を見て言う。 「私のメイドとはいえ、美奈子に無理強いをさせるわけにはいきませんから、本日屋敷に戻った時、聞いてみますわ」 コルネリアが話す中、マリカと歩がお茶を持って教室にやって来る。 「もうすぐですね、歩様と様子を観に行きましたら、ロザリンド様も山車の制作を頑張っておられましたわ」 マリカがそう言うと、コルネリアが首を傾げる。 「そうそう、私ずっと不思議に思っていたのですが、山車だと、「やまぐるま」か「さんしゃ」としか読めないと思うのですが、どうして「だし」になるのでしょう?」 「……何でだろう?」 「謎だね……」 「わからないですわ」 考えこむ乙女たちの中で、ジャンルを問わず幅広い知識のある輪廻だけがその答えを言ったのだが、彼の必死の声は無情にも夕焼け空を飛ぶカラスの鳴き声にかき消された。尚、山車の制作手伝いや演出の打ち合わせに、ほぼ毎日百合園女学院へと足を運ぶ羽目になっていた輪廻。 女性経験が無く、赤面症な輪廻は、「山車の制作より何よりあの場所が苦しかった」と知人に語ったらしい。 そして、家で休んでいた森田 美奈子(もりた・みなこ)は帰宅したコルネリアからパレードの話を聞き終わると、0.001秒フラットで参加を宣言したのだった。