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古代兵器の作り方

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古代兵器の作り方

リアクション

 0.――『始まりとして』





     ◆


 『非常ベル』と言うものは、即ち『非常事態を知らせる』ものであり、この時も例外なく、その場にいる人々に非常事態を告げていた。
ある一点へと周囲の人々が移動しているその中で、レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)はただただ佇んでいる。
彼女はなんとも不思議そうに首を傾げながら、人混みでも、彼らが向かっている方向でもなく、自らのパートナーであるカムイ・マギ(かむい・まぎ)でもない、何処か定まりのない空間を見詰めながらに呟いた。
「なんだろ………この騒ぎ」
「レキ、僕たちもそろそろ逃げた方が良いんじゃないですか」
「ん………そうだね。よし、確か非常口はこっち、だったかな」
 そう言うと、レキは逃げ惑う人々の列へと並び、走り出そうと足を前に踏み出す。と――

「そこに立ってると危ないぞ!」

「うん?」
 二人に向かい声をかけたのは、避難誘導をしていた高円寺 海(こうえんじ・かい)。腕には先程転んでいた少女を抱え、懸命に走っていた。
「あれ、でも非常口ってあっちの――」
「今はダメだ、あっちは危ないらしい」
「らしい………ですか」
「話は後だ。ほら、行くぞ!」
 突然の登場と発言に驚き、故に何がなんだかよく状況を呑み込めていない二人は、取り敢えず海の後に続き走り出す。
その後ろからは大勢の人々が三人に続いて走ってきていて、レキとカムイは前を走る海と後ろの人々を交互に見て更に首を傾げる。
「………逃げてるのは、わかるけど」
「いったい何があったんでしょうね。誰かに聞いてみてわかる問題ならば良いんですど…………」
「俺も――」
 二人の会話を聞いていたのか、前を走る海が徐に口を開いた。
「詳しい事は知らないんだが………どうやら誰かがこの中で暴れてるらしんだ」
「暴れてる………って、また、いきなりだね……」
「事件、ですか? テロリストとか、爆弾魔とかでしょうか」
「さぁな……ただ、人が撃たれてた。あの人が早く逃げろって言うからさ。俺が皆を出口まで誘導してるんだけど…………」
「けど?」
 海の言葉を聞いたレキは、そこで彼の表情が曇るのを察し尋ねる。
「撃たれて怪我してんのに、連れて来れなかったんだ。早くこの人たちを脱出させて、あの人も連れて来ないと」
 静かに、しかし内心焦っているような彼の言葉に、今度はカムイが反応する。
「その人は、生きているんですか?」
「あぁ、『肺が片方潰れてる』みたいな事は本人が言ってたけどな。実際、呼吸の音が変だったから恐らくそれは間違いないんだろう。早くしないと」
「だったらボクたちが代わりに行けば良いんだよ! だよね、カムイ」
「そうですね。火事とかではない様ですし、ならば僕たちもその人を連れてなんとか逃げ延びる事が出来るでしょう」
「ホントかっ!?」
 真剣な表情のまま、海が二人を交互に見た。
「うん! ボクたちもその人を見つけたらすぐに脱出するし、もし脱出出来なくても簡単な手当てくらいなら出来るだろうから平気だと思うよ」
「兎に角、貴方はこの人たちを早く安全な所へ」
「おう、ありがとな!」
 一瞬ではあるが明るい表情を浮かべた海に、二人は笑顔を向けた。と、そこでカムイが彼に尋ねる。おそらくはかなり重要であり、二人が知らなくてはならない情報を。
「その方の特徴とか、倒れていた場所とかを教えていただけますか?」
「おっと、そうだったか。特徴な、えぇと…………あぁ、ヘンテコな眼鏡をかけてたぜ。なんでか、怪我してんのに笑ってる様な表情で喋る人だった様な――」
「ヘンテコな眼鏡?」
「笑ってる様な表情………カムイ、それって」
 思わず、レキとカムイの表情が固まった。
「あぁ、ヘンテコな眼鏡。左っかわにしかないんだ、レンズが。それにその人、パートナーがいて……確か名前を聞いたな。ら、ラ………ラナなんとかって」
「それって…………『ラナロック』という名では?」
「あぁ、そうだ。ラナロックだ。そんな事を――」
「何処っ!? その人は何処に居るの!?」
 レキとカムイの表情が一変し、海の腕を引いて立ち止まると彼を強引に引き止めて声を荒げた。後ろについてきていた人々も、流石にその様子には驚いたのか、足を止めている。
「えっ、いや………今きた道を戻って行って、一階の噴水のある広場の付近だったが………」
「カムイっ!」
「えぇ、急ぎましょう!」
 二人は踵を返し、今きた道へと走り去っていく。海と避難中の彼らを残し。
「あのお姉ちゃんたち、何であんなに怒ってたの?」
「わ、わかんねぇ………んなことより、俺たちは早くこっから逃げ出さねぇと!」
 一度首を傾げるも、しかし今はそんな事をやっていられる状況ではないのだ。海は再び避難の誘導の為、出口に向かいを足を進めた。

「暴走してるラナさん………止められるかな……」
 真剣な表情を浮かべながらに走るレキは、ふとそんな事を呟いた。
「二人では、流石に危ないですよね。僕も実物を見た訳じゃないので、想像つかないですけど」
「でもさ、前に暴れたときって、ウォウルさんの事を撃った、っては聞いたけど、確か足だったよね」
「命が危ぶまれる場所ではなかったですね。と、言うことは――」
「今回は前よりもっと酷いって、事かぁ…」
「恐らくは――。兎に角、ウォウルさんのところに行ってみましょう。ラナさんを止めるにしても、ウォウルさんを助けるにしても、まずはあの人と合流することが先決でしょうし」
 二人は足早にウォウルを探し始める。






     ◆


 一般人を外まで避難させた海は、心配そうな瞳で今きた道を振り返った。
「大丈夫だよな、あいつら…………」
 彼は呟き、しかし逃げる際に怪我をした男の言葉を思い出す。焦る気持ちを懸命に抑えながら、海は今逃げてきた人々を掻き分け、その場を後にするのだ。
無論、逃避行動ではなく、力を貸してくれる存在を一人でも多く探し出す為に、である。人混みに苦戦しながら、まずは携帯を取りだし急いでボタンを叩くと、それを耳へとあてた。
「もしもし、俺だ。今どの辺りに――本当かっ!?」
 誰に連絡を取ったのか、何やら驚いた様子で遠くを見やる。やっとの事で人混みから抜け出た海の前には、携帯を耳にあてがったままの氷室 カイ(ひむろ・かい)が、何やら不思議そうに海を見詰めて立っていた。
「何事だ? この状態も、お前も」
 海は人混みから抜け出た勢いで、今到着したカイと、隣を歩いていた彼のパートナー、雨宮 渚(あまみや・なぎさ)の前に転げ出た形になっている。いきなり電話口の相手が自分の前に転がり出てきたのだから、カイでなくとも首を傾げる状況なのは言うまでもない。
「……………」
「それより………大丈夫? 高円寺君、何だか顔色が悪いみたいだけど………」
「どうしたんだ。電話口でも要領を得なかったし、来てみればこの騒ぎ……」
 暫くの間言葉を失っていた海だったが、二人の言葉を聞くや、立ち上がりながらに二人に事情を説明しようと口を開く。と――。
「あっ、やっぱりそうだ。おーい!」
「お待たせしましたっ!」
 カイ、渚と同様に海から連絡を受けてやって来た杜守 柚(ともり・ゆず)杜守 三月(ともり・みつき)が三人の姿を見つけて走ってきた。
「ありがとな、柚、三月。よし…………取り敢えず急いで説明だけするけど、良いか?」
「お願いね」
「はい、お願いします!」
 一度、力強く頷いた四人を見てから、海は口を開いた。
「今、このショッピングモールの中で誰かが暴れてるんだ。細かい話は俺もわからない。でも、ある人の言葉だと、兎に角に人を集めて欲しいそうだ。だから皆を呼んだ。今の段階で、一般の人を外には誘導できた。ただ、まだ中に人が残ってるかもしれないし、俺に助言してくれた人は傷を負ってて、中に残されたままなんだ」
「まずは人命救助………ですね」
「と同時に、まだ中に取り残されてる人たちの救助もする。と、まぁそんな感じか」
 海の説明に区切りがついたのを確認し、柚とカイが口を開き、海の言葉を補った。
「そうだ。俺はこれから、残された人たちを探しながら、怪我をしてるあの人を助けにいこうと思ってる。中で誘導してる最中に数人そっちに行ってくれてるが、正直、中が安全じゃない以上は………あいつらも危ないと思う」
 彼に言葉を聞いた四人は再び頷き、ショッピングモールへと向き直る。すると、カイが徐に口を開いた。
「高円寺。俺と渚はこれからショッピングモールに向かうが……お前はどうする」
「高円寺君も行くんじゃないの?」
 首を傾げた渚。当然隣にいた柚と三月もカイの方へと顔を向けている。言葉を向けられた海は――と言うと。
「そうだな、一応少しこの辺りを回ってみる。もしかしたら、他にも協力してくれる誰かがいるかもしんねぇからさ」
「そうか。なら、五分後で良いか?」
「五分……な。随分無茶言うぜ、『センパイ』」
 何処か自嘲気味に笑う海は、四人に「後で、モールの前でな」と言い残し、走り去っていく。
「海君、何処に行ったんですか…………?」
 海が協力者を探しにいったのは今の二人の会話でわかったとして、しかしまだ納得のいっていない三人。その代表とでも言うように柚がカイへと尋ねた。
「誰かは知らんが、高円寺は中で『人を集めろ』と言われたんだろ。まさか四人や五人程度で解決出来るなら、おそらくは此処まで大事にはなってない」
 黙って聞いていた三月が、今のカイの言葉を聞き『成る程』、と相槌を打つ。
「だから海は人集めの続き、って訳か」
「じゃ、私たちは先にショッピングモールの前で待ってれば良いのね?」
「あぁ、五分あればこの辺りは回れる。一通り回ってきた高円寺と合流し、一斉に中に入れば良いだろう」
「そう、ですか………だったら、早く行って海くんを待ってなきゃ、ですね」
 渚が簡単に要約し、カイがそれに返事を返す。柚はぐっと握り拳を固めて意気込み、それを見た三月は特に何を言うでもなく、ただただ何か思うところありげにしている。そうこうしながら歩みを進める彼等は、今まで海が格闘していた人混みの中へと消えていくのだ。

 人混みの中、不意に三月が浮かない顔の柚に声をかける。
「僕たちで出来ることをすれば良いよ」
「三月ちゃん………そうですよね! 皆さんの為にも、海くんの為にも――そして、私の為にも」
「うん!」
 先行するカイにも、渚にも、周囲の人々にも聞かれないような声で、二人はそう言葉を交わす。
「そう、ですよね。私が頑張らなきゃ………!」






     ◆

 レン・オズワルド(れん・おずわるど)は、この事態をやや離れた所で見詰めていた。
「…………………………」
 言葉はなく、しかし何かしら気になることがあるのか、ひたすらに沈黙を守り続け、ショッピングモールの前に出来ている人混みを見詰めている。と、彼の前に、恐らくはショッピングモールからやって来たであろう二人組が通り掛かる。

「に、しても――驚いたよな」
「ああ、いきなり兄ちゃんが出てきて『逃げろ』だもんな。その後で非常ベルってんだからよ」

 レンの横を通りすぎようとする二人の青年を、レンは穏やかな声色で引き止めた。
「ちょっと良いか?」
「へっ?」
「なんすか……急に」
「ショッピングモールで何があったか、尋ねたいんだが」
「いやぁ……何があったかって言われても」
「俺たちもわかんないんですよ。急に銃声っぽい音が聞こえて、蒼空学園の制服来た兄ちゃんが現れたと思ったら逃げろ、ですもん」
「銃声?」
「かもわかんないすけどね」
 それ以上はこの二人に尋ねてもわからない、と判断したレンは、今一度ショッピングモールの方へと向くや、何かを決意したように歩みを進める。彼がいる場所からショッピングモールまでは大凡にして徒歩五分、といったところであり、さして時間のかかる距離ではない。故に彼は現地へと向かうことにした。災害の類いではない事は明確である。でなければ、逃げてきた客に状況が説明されない訳がない。故にそれはある意味において、放置するには物騒な出来事の可能性がある、と、レンは踏んだのだ。
 道ながらに、行き交う人々に事情を聞いていたレンは、五分の時を経てショッピングモール前に到着する。未だに人がごった返すその中、彼は警備員を探しだして声をかけた。
「何があったんだ。どうやら情報開示がされていないようだが………」
「それが……我々にもわからんのです。警報器の誤作動かと思ったんですがね、確かに誰かが警報ブザーのスイッチを押したらしく………」
「誰か――か。悪質な悪戯の線はないのか?」
「そうかと思いまして、先程数人で調べに行ったんですが………その」
「戻ってこない、と」
「えぇ……」
 それっきり、警備員は口を閉ざして語ろうとはしなかった。レンとしても、彼等が情報統制しているとは思えず、故にそれ以上その警備員が話を持たないことを感じ取っている。彼は自らの獲物を確認すると、再び警備員に声をかけた。
「俺が見てこよう。見た感じからすれば防火シャッターが閉められているが、他に入れる場所はないのか?」
「我々が使用する通用口が二ヶ所。物品搬入口が二ヶ所、ですな」
「なら――」
と、レンが言いかけた時、二人に向けて声がした。
「通用口二ヶ所、ってなぁ何処にあるんだ?」
「お前は――」
 レンの横にいつしか立っていた閃崎 静麻(せんざき・しずま)は、別段何と言うこともなく、軽くレンに挨拶を交わすと再び警備員の方へと向き直り、返答を待った。
「片方は此処、正面口の反対ですな。もう一方は西口――ですが」
「ですが、何だよ」
 静麻はそこで首を傾げる。
「西口の通用口は最近使っていないんでねぇ。おそらく開けることのそれ自体、随分と骨が折れるでしょうよ」
「反対か………ざっと見積もって十五分から二十分ってところだな」
「そんな悠長にしてらんねぇんだろ? 事情は知らねぇがよ」
 冷静に分析するレンと、もどかしそうに呟く静麻。
「物品搬入口ならすぐそこ――」
「まぁ待て」
 言いかけた警備員の言葉を止め、静麻がふと、ある方向へと足を進めた。どうやら目的地は明確らしく、彼の足取りに迷いやらは含まれていない。
「高円寺、こいつぁ一体どうなってんだ?」
「いっ!? いや、どうなってんだ、って聞かれてもよ………」
 協力者を探している海の姿を見つけた静麻は、海へと尋ねたのだ。呆然としている周囲の人間の中、まるで何やら目的を持っているかのように忙しなく歩く彼ならば、事情を知っているのではないか、と考えたらしい。
「何となくでも良いんだ。何があったか教えてくれよ」
「そうだな………簡単な概要でも良いなら話せるぜ? まぁ………流石に細かい話は俺もわかねぇけど……」
「それで充分だ。今はひとつでも情報が欲しい」
 黙って様子を見ていたレンも二人に近づき口を開く。時間がないが……と呟きながらも、海は二人に、自分の持つすべての情報を提示した。