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十人十色に百花繚乱、恋の形は千差万別

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十人十色に百花繚乱、恋の形は千差万別
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第三十三篇:師王 アスカ×蒼灯 鴉×ジェイダス・観世院
「ふむ。おまえも少しはましになったではないか」
 現代日本。東京都内。とある公立高校近くの繁華街に建つデパートの店内で、フィッティングルーム近くの壁に寄りかかりながらジェイダス・観世院(じぇいだす・かんぜいん)師王 アスカ(しおう・あすか)にクールな声音で言った。
 アスカは冴えない新人女教師。
 化粧しない、服のセンス駄目駄目の色気なしメガネ女。そのせいで彼氏もできない上に生徒からのあだ名は『地味子』。
 そんなアスカも同じ教師である蒼灯 鴉(そうひ・からす)に淡い想いを抱く。駄目な自分を変えたいアスカは生徒達の間で噂になっていた『恋愛マスター』と言われている一人の生徒――美少年ジェイダスに恋愛指導をして欲しいと頼み込んだのだ。
 最初は拒否するも、あまりのアスカの駄目さに美意識を刺激されたのかジェイダスは「必ず先生の恋愛を成就させてやろう」と宣言したのだった。
 そして、今日二人は休日を利用し、アスカを綺麗にする為、デパートへとやってきたのである。
「そ、そう? こ、こんな服は初めてだから……なんか緊張するよぉ〜」
 アスカはフィッティングルーム内に設置された姿見に映る自分の姿を見ながら恥ずかしげな顔をする。
「うむ。確か……化粧品売り場は一階だったな。よし、次は一階に行くぞ」
 そう言ってジェイダスはアスカの手を掴むと、半ば強引にレジへと引っ張っていく。即座に会計を済ませさせたジェイダスは、アスカを着替えさせることなく、一階へと向かうエスカレーターに乗った。
 そして、化粧品売り場にアスカを連れて行ったジェイダスは、その場で彼女に化粧をしてもらうよう、販売員へと頼む。ややあって手鏡を手渡されたアスカは驚きに息を呑んだ。
「え……? これが私……?」
 綺麗になった自分に驚くアスカを見て満足そうに微笑むと、ジェイダスは再びアスカの手を掴んで、デパートを後にする。そして、またも強引に駅へと引っ張っていく。
 迷うことなく切符を買うと、ジェイダスはそれをアスカに握らせた。
「蒼灯センセの家は知ってるな。今から一時間後、センセのマンションの近くにある公園に来てくれるよう、呼び出してある」
 その言葉に驚くアスカ。だが、ジェイダスはアスカの驚いた顔のアスカに近寄ると、メガネを取った。そして、アスカに囁く。
「もう教えることは何もない。行ってこい、地味子センセ――いや、綺麗になったアスカ先生」
 それきり返事も聞かずに駅を去っていくジェイダス。彼から受け取った切符を持って、アスカは電車へと乗り込んだ。
 そして、約束の時間。ジェイダスの言った通りに鴉は現れた。
「どうした? 師王先生じゃねぇか? 随分とめかしこんで、今日は何の用だ?」
 聞きながらも、こうして二人きりになれる時間と場所に呼び出したこと、アスカがめかしこんでいること、そして、アスカがただならぬ緊張の色を見せていることから、鴉は事情を察したようだ。決して急かすことなく、アスカの言葉を待つ。
「あの……蒼灯先生……私」
 だが、そこまで言いかけてアスカは口を噤んだ。
 最後の決定的な一言を言う時になって、なぜか思い浮かんでくるのはジェイダスの顔。
 ジェイダスの時折見せた優しさに胸がときめいた胸の高鳴りに、アスカはもう気付かないフリはできそうになかった。
「……蒼灯先生……ごめんなさい。私――」
 アスカが何か意を決して言おうとした瞬間、鴉は先んじて口を開いた。
「わかってる。ほら、とっとと行けよ。本当に好きな男のところに――よ」
 そう言うと、鴉は即座に踵を返し、背を向けたまま、ひらひらと手を振って去っていく。
 それから数時間後、とある住宅街の一角。
 適当に寄り道をして帰ってきたジェイダスは家の前に誰かが立っているのに気付く。そして、それが誰であるのかを目の当たりにし、微かな驚きとともに、その誰かへと声をかけた。
「センセ! どうしてここに?」
 驚くジェイダスに誰か――アスカは真摯な顔と声で告げる。
「私が本当に好きな男の人に会いに来たの。時折、優しさを見せてくれて、私と一緒に頑張ってくれたあなたに――」
 アスカがそう告げると、ジェイダスはゆっくりとアスカに歩み寄る。
「教師のおまえが、生徒である私を相手に選んでは苦労する。悪いことは言わん、やめておけ。だが――」
 そこで一旦言葉を切ると、ジェイダスはアスカの瞳を真っ直ぐに見つめて言った。
「だが、もし、それでもおまえが私を選んでくれるなら――とても嬉しい」
 その言葉を言い終えると同時、ジェイダスはアスカを抱きしめキスをする。
 教師と生徒という間柄を超え、二人はいつまでも抱きしめあって唇を重ね合っていた。