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いけないご主人様・お嬢様をねじ伏せろ!

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第四章 千客万来・メイド喫茶 10

 そうして、メイド喫茶に再び平和が戻った後。
 軽食を食べ終え、奥の席で静かに紅茶を飲んでいたあの紳士が、空になったカップを置いて美羽を呼んだ。
「はーい! なんでしょうかご主人様?」
「実は、君に謝らねばならないことがある」
 首を傾げる美羽に、紳士はそう大きくない声で、しかしはっきりとこう言った。
「私はね。実は、POAの人間なのだ」
 その言葉に、辺りに緊張が走る。
 しかし、美羽は――不思議そうな表情のまま、こう答えた。
「どうして謝るんですか? 他の方はどうあれ、ご主人様は何も悪いことはなさっていませんよね?」
 確かに、彼自身は何一つ店の迷惑になることはしていない。
 奥のテーブルで静かに食事をし、また紅茶を飲んでいただけである。
「ああ。君らを見ていたら、本当に我々のやろうとしていることが正しいのか、と思ってしまってね」
「そして、あなたは何もしない方を選んだ」
 野々の言葉に、紳士は一度ため息をつく。
「ああ。理解できぬと言い、理解しようともせずに拒もうとした我らと、それでも理解しようとし、受け入れようとした君らと。どちらが正しいかは改めて考えるまでもない」
 と、はす向かいのテーブルで話を聞いていた理沙が割って入った。
「あなた、まだ一つ勘違いしているわね」
「勘違いとは?」
「理解しようとせずに拒もうとしたのは『彼ら』。『あなた』は……どこまで理解できているかはわからないけれど、受け入れてはいるでしょう?」
 理沙の指摘に、紳士は少し吹っ切れたように笑った。
「なるほど、確かにそうだ。してみると私はもう『彼ら』の仲間ではないのだな」
 席を立ち、一度そっと目を閉じてから、美羽たちの方に向き直る。
「最後に一つ……また、来ても構わないかね?」
 彼のその言葉に、美羽はこの日一番の笑顔で答えた。
「はい! またのお帰りをお待ちしております!!」

 ちなみに。
 POAを脱退したこの紳士がその後ネオ秋葉原に居着き、やがて観光案内所の名物案内人となるのであるが、それはもうしばらく後のお話である。