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取り憑かれしモノを救え―調査の章―

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取り憑かれしモノを救え―調査の章―
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リアクション



●広場

 レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)カムイ・マギ(かむい・まぎ)と一緒に、避難しているお年寄りの中でも一際頑固そうなお爺さんに話しかけていた。
「ねえ、お爺さん、今回の剣のことについて何か知ってる?」
 見た目からも分かるような職人気質の頑固爺というお爺さんは、眉間に皺を寄せながら答える。
「あれはワシが鍛えた」
「本当!? それじゃあ、色々と教えてもらってもいいかな?」
「あまり語りたくは無いが……事情が事情だからな……」
 お爺さんは立ち上がり、しっかりとした足取りで歩み始めた。
 その背中は無言のうちに、ついてこいと言っているのだが、
「ど、どこにいくんですか?」
 カムイはそう問いかけた。
「ワシの家だよ。そこで腰を落ち着けて話をしよう」
「でも、危険なんじゃ……」
「いいからついてきなさい」
 食い下がるカムイだが、お爺さんはやんわりとした口調で諭した。
「いこう、きっと色んなことを知っているんだと思う」
 レキもカムイを諭し、二人は先を行くお爺さんの後を追った。


「ねえ、キミ達」
 勤めて優しい口調で、新風燕馬(にいかぜ・えんま)は広場に避難している子供たちに話しかけた。
「なあに?」
 いまいちなぜ自分たちが広場に集まっているのか分かっていない子供たちは、遊んでくれるお姉さんと燕馬のことを認識したのだろうかにっこりと笑いかけてきた。
 話を切り出す前に、燕馬は広場に集まっている避難民の状況を確認した。
 10代後半から50代くらいまでの男女は不安そうにひそひそと囁きあっている。
 60歳以上と取れるお年寄りたちは不安げな様子は無い。だが、何か疲れきっている様子ではあった。
 何かがおかしい。
「あ、うん。おじいちゃんやおばあちゃんから聞いた御伽噺とかあったら、聞かせてくれるかな?」
「おとぎばなし?」
「そうそう」
 燕馬は猫なで声と笑顔で頷く。
「ももたろうとかー?」
「うーん、できればこの地方特有のお話のほうがいいかなー。お話聞かせてくれたら、このお菓子をあげるよ!」
 燕馬は修練の休憩中に食べるおやつように持ってきていたお菓子を見せびらかせた。
 おおっと目をキラキラ輝かせて、燕馬の持つお菓子を見つめる子供たち。
 有力な情報が得られなくても、この表情見るだけでお菓子をあげたくなる気持ちをぐっと抑える。
「ばあちゃんが、おそくまでおきてるときにするおはなしでもいーの?」
 気の弱そうな5歳くらいの少年がおっかなびっくりと言った様子で燕馬にたずねる。
(これはもしかしたら……)
 お年寄りというのは現実で起こったことを物語り調にして子供たちに聞かせることがままある。
 まだ断定はできないけれども、これは早々に当たりを引いたのかもしれない。
「いいよー! どんなお話なのかな?」
「えーっとねー」
 少年の話しぶりはまだ拙く、途切れ途切れだったが、周りの少年少女からの話の補足もあり、情報としての一定の価値はあった。
 
 夜遅くまで起きている、または何か悪いことをすれば、真っ黒い悪魔が森へ連れて行って自分たちを食べてしまう。
 森に連れて行かれたら最後、どんなに逃げようとも堂々巡りで森から抜け出すことは出来ない。
 でも、そんな森の中で青い宝石が埋まっている墓石を見つけたら生き延びることが出来る機会がある。
 それまでいいこと――家の手伝いや早寝早起き、勉強などをしていれば、幽霊が助けてくれる。
 しかし、普段から夜更かし、悪戯など人に迷惑をかけることばかりしていたら、幽霊は怒って真っ黒い悪魔に自分たちを捧げる。


 というような内容だ。
 燕馬はそこから類推する。
 きっと、青い宝石というのは、蒼玉石のことだろうと察しはつく。
 真っ黒い悪魔はミルファを乗っ取ったヤツだろうか。
 堂々巡りの森は、結界からは抜け出せないという暗示か。
「あとはねー、やまのなかのどうくつには、はいっちゃいけないんだって」
 一人考え込む燕馬に、子供たちは次の話をし始めていた。
 そっちのほうは特に情報としての価値は無かった。
 燕馬は考えをまとめると子供たちに、
「お話聞かせてくれてありがとう。はい、みんなで食べてね」
 にっこりと笑いかけてお菓子を差し出した。
 わーいといって差し出したお菓子を取り合いする子供たちを見ながら、燕馬はこれからどうするか考える。
 元いた場所に戻り、情報を共有するほうがいいだろう、と結論付け燕馬は子供たちに言う。
「それじゃあ、俺は行くところがあるからまたね」
「おねえちゃん、おんなのひとなのに、おれってへんー!」
 ははっと燕馬はその指摘を流して子供たちの輪から抜け出した。


「すみません、今この事態について……玉石について何か知っている方はいらっしゃいませんか!」
 トマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)は声を張り上げ、広場に避難している人に声を掛け続けていた。
 村長に話を聞いても、古老の方々にも話を聞いたが、全て『知らない』の一点張りだった。権力のありそうな老人ほど、強い口調でそう言う。
 確実に何かを隠していることはあるのだろうが、誰一人として口を割らないことにトマスは作戦を変えて、広場でこの情報を出し少しでも怪しい挙動をした人に話を聞いてみようと思い立ったのだ。
 その作戦は成功した。
 片眼鏡をかけた、神経質なそうな老婆がトマスをじっと睨み付けている。
 その眉間によった皺が印象的な老婆はつかつかとトマスの下へと早足でやってくると、
「あんたは、あれの何を知りたいんだい?」
 しゃがれた声で凄んだ。
「あの剣がなぜ封印されたのか、封印と剣の関係を知りたいんです。なぜ剣をあのような結界で封印しないといけなかったのか――」
 そこまで言って、トマスの問いは一笑に付された。
「はっ、小僧。あんたは何か勘違いしているよ。何もあの結界はあの剣を封印するために作られたわけじゃあない」
 目を細め、さらに凄みを増した顔で、老婆はトマスに言う。
「村長の話を聞いていなかったか? 取り憑かれた小娘を封印の要の玉石に近付けてはならない。あれは何も剣のことを言っているわけじゃないんだよ」
「どういうことですか……?」
「あたしゃ、玉石の加工をした彫金師だがね、結界の本来の用途は剣の持ち手を護るために作られているんだよ」
「それじゃあ――!」
 あの結界はミルファを護るために起動したのではないかと、叫びそうになるのを老婆に抑えられる。
「ついてきなさい」
 老婆はトマスにそういうと避難民の間を縫うように進んでいく。
 そして、トマスもそれに従ってついていく。