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【重層世界のフェアリーテイル】ムゲンの大地へと(後編)

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【重層世界のフェアリーテイル】ムゲンの大地へと(後編)

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第2章(2)


「リア、祥子、来てくれたのか」
 ロッドを支える篁 透矢(たかむら・とうや)の前に現れたのはリア・レオニス(りあ・れおにす)宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)達だった。彼らはそれぞれの理由で前回の調査には加わっていない者達だ。
「すまないな。最初の調査の後、俺は一度報告の為にシャンバラまで戻っていたんだ」
「いや、今からでも十分助かるよ。二人共、状況は誰かから聞いてるのか?」
「えぇ。助っ人のつもりで来てみたけど、敵の本陣目前で背水の陣とはね……インド人もびっくりならぬ韓信もびっくりだわ」
「しかも重要な役目を担ってるのが透矢とはな。大抵こういうのは巫女あたりが定番なんだが……随分色気の無い巫女もいたもんだ」
 場を和ませようとするリアの軽口に、透矢が微笑を浮かべる。
「そうだな。早い所お役御免と行きたいよ」
「じゃあとっとと終わらせないとな。レム、今のうちに準備を始めてくれ」
「分かりました、リア。そちらはお任せしましたよ」
 自陣の最後方に位置する場所で、レムテネル・オービス(れむてねる・おーびす)が運んできた大きな弩砲を設置し始めた。対して前方ではリアと祥子が並んで前を見据えている。
「こっちまで来るのは速さにすぐれた幻獣がほとんど。力が強そうなのはもっと前にいる仲間が止めている、か」
「でもゼロじゃないわ。幸い速い相手に対抗出来る人材は揃ってるみたいだし、私達はそっちを相手にするべきね。あれを止めないと、透矢とロッドが……ひいては皆が危険に晒される事になるわ」
「あぁ。ここで食い止めよう」
 剣を抜く二人。それと同時に二人の懐から光が溢れ出した。リアは赤、祥子は青だ。
「これは……さっき飛んできた結晶か?」
「そのようね。特別そうだとは思ってたけど……」
「リア、祥子、君達の所にも散らばってたのか。それは幻獣の結晶さ。俺達に力を与えてくれる」
「幻獣の、か……それを使って幻獣を止めるって言うのも皮肉な気もするな」
「そうかしら? ある意味王道って感じもするわ」
「なるほど、それも一理ある。じゃあ……有り難く力を借りるとしようか!」
 二人が同時に走り出した。リアは赤き光の如く力強さを持って、そして祥子は青き光の如く静かに幻獣へと迫る。
「熊に似た大きな幻獣……私の闘気を感じてるのかいないのか。退かないその度胸は買うけどね」
 幻獣の拳を剣で受け流す祥子。そのまま流れるように胴を斬りつけてすれ違う。
「瘴気に蝕まれたその動きでは私に当てる事は出来ないわ」
「やるな。なら俺も――!」
 続けてリアが鞭を幻獣の腕に巻きつけ、思い切り引っ張った。クリスタルで強化されていたリアの力によって幻獣は大きくバランスを崩される。
「この力で思い切り斬りつけたら致命傷になりそうだ。だから……!」
 幻獣に向けて鋭い突きを連続で繰り出すリア。両脇を僅かに斬ると同時に電撃を送り込み、感電という形で相手を無力化した。
「よし。次に向かおう。この地形と構成なら、俺達はこのラインを守る形の方が良さそうだな」
「そうね。基本は専守防衛。前線での遊撃とロッド周りの防衛は他の皆に任せましょ」
「あぁ。それから……空の相手も」
 二人が上を見上げる。そこには空からの第二陣としてやってきた――ワイバーンの姿があった。


「ワイバーン……名自体はシャンバラでも良く聞きますが、あれは大きさが違いますね」
 周囲の警戒用に連れてきたヘルハウンドの群れの中心で湖の騎士 ランスロット(みずうみのきし・らんすろっと)が空のワイバーンに視線をやる。風森 巽(かぜもり・たつみ)扮するソークー1もまた、同様に上を見上げていた。
「大きさだけで言うなら聖域で見たシクヌチカに匹敵するな。とは言えワイバーンという事は……」
 ソークー1が懸念した途端、それは現実の物へと変わった。
「やはり……! 炎が来るぞ!」
 ワイバーンの口から吐かれる炎。それは一直線にロッドと透矢の下へと向かった。炎に気付いたティアが咄嗟にブリザードを放つ。
「ロッドを壊しちゃ駄目だよ!」
 氷の壁によって威力を弱められながらも、なおも炎はロッドへと向かう。そこに、今度はルーシェリア・クレセント(るーしぇりあ・くれせんと)が飛び込んだ。決して大きいとは言えない盾を前へと掲げ、炎を正面から受け止める。
「ルーシェリア、大丈夫か!?」
「平気ですよぉ、透矢さん。幻獣さんに護ってもらってますし、このくらいならすぐにリカバリ出来ますぅ」
「なら良かった。けど、無理だけはしないでくれよ」
「はいですぅ」
 再び上空を旋回し、炎を吐くタイミングを計るワイバーン。それを見ながらザイン・ミネラウバ(ざいん・みねらうば)がレムテネルを急かす。
「おいレム、そのカタパルトはまだ準備出来ないのか?」
「もう少しですよ、ザイン。すみませんが後少しだけ時間を稼いでもらえませんか?」
「簡単に言ってくれるな。まぁやるだけやってやるさ」
 ルミナスライフルを構え、ザインがワイバーンに向けて発砲した。ダメージ狙いというよりも弾幕としての攻撃。それを翼や腹部など、出来る限り弱そうな場所目掛けて撃ちまくる。
「静香。貴公も援護は可能でしょう」
「そうですわね。幻獣には召喚獣……さぁ、お行きなさい」
 ランスロットの要請に応え、同人誌 静かな秘め事(どうじんし・しずかなひめごと)がフェニックスとサンダーバードを召喚して空へと放った。炎と雷、二つの翼がワイバーンへと纏わりつく。
 さらに高島 真理(たかしま・まり)源 明日葉(みなもと・あすは)、そして冴弥 永夜(さえわたり・とおや)シーナ・アマング(しーな・あまんぐ)の撃つ矢が次々と襲い掛かる。お陰でワイバーンは攻撃よりもそれらの回避と防御に気を取られる事となった。
「攻撃は最大の防御ってね。レムさん、状況は?」
「有り難うございます、真理、皆さん。お陰様で準備が整いましたよ」
 レムがカタパルトの照準を上空のワイバーンに合わせる。真理達の攻撃に追い立てられ、動きを制限されていくワイバーン。そして、攻撃に転じる為に炎を吐こうとしたその瞬間、カタパルトからシボラのバターが発射された。
「……バター?」
「以前の調査の際、この世界では魔法の威力が弱まっていると判明しましたからね。たとえ火術が弱くても、着火してしまえば炎は炎、攻撃としては有効かなと思いまして。まぁ、結局そこのロッドで問題は解決してた訳ですが」
 さらっと真理に答えるレムテネル。その間にもバターはワイバーンの身体に命中し、皮肉な事に火術を使うまでも無く、吐こうとしていた炎によって火が点いていた。
「ともかく、隙が出来た事に違いは無い。ここは……決めさせてもらう! ツァンダー! スカイフォォォォム!」
 ソークー1のツァンダースカイウィングが展開し、空を舞った。一路、ワイバーンの下を目指して。
「花開く未来を護る形意。それが蕾の型……そして、それこそが青心蒼空拳の始点にして極意」
 足先でほとばしる稲光。雷の鉄槌が今、ここに下る――
「舞えよ疾風……轟け雷鳴……ソゥクゥッ! トルネェェドッ! キィィィックッッ!!」
 轟雷の回し蹴りがワイバーンへと襲い掛かり、その大きな体が地上へと落ちて行く。さらに地面に叩きつけられると同時に瀬道 聖(せどう・ひじり)の仕掛けていた捕獲用のネットが飛び出して来た。
「思ったよりもデカい獲物がかかったねぇ。まぁ、元よりこれだけで抑え込めるとは思って無いし、後は皆に任せようか……面倒くせぇし」
 そんな聖のつぶやきはさておき、捕獲されたワイバーンが脱出を試みるより先にランスロットが素早く無力化を行った。聖剣アロンダイトを鞘へと納め、ティアを呼ぶ。
「これ以上暴れる事は無いでしょう。申し訳ありませんが、貴公の魔法で炎を消して頂けますか?」
「あ、うん! 任せて!」
 すぐにブリザードを放ち、そのまま幾嶋 璃央(いくしま・りお)と共に治療に当たるティア。幻獣の攻勢が一段落ついたらしく、リュース・ティアーレ(りゅーす・てぃあーれ)や祥子達が戻って来た。
「皆、無事……みたいですね。良かった、上出来です」
「とは言えまたすぐに次が来るでしょうね。今のうちに体勢を整えましょう」
 倒れている幻獣達をキャンプ地近くにあった小部屋へと運び出す祥子達。そんな中、リアは降りて来た巽に声をかけた。
「なぁ、ファフナーなんだが、あそこから動かすとか瘴気を晴らすとかして正気に戻す事は出来ないのか?」
「さっき何人かがファフナーをあの場から遠ざけようとしていたけど、無理だったみたいだ。多分、あの場にファフナーがいる事自体に意味があるんじゃないかな。それがファフナーの意思なのか、瘴気を通した『大いなるもの』の意思なのかは分からないけど」
「そうなのか。じゃあ瘴気を晴らす方法は?」
「それは――今からやるみたいだよ」