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大空のトレインジャック!

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大空のトレインジャック!

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チェック・メイト

 4両目では銃器を抱えた男たちが4人、黙って車内の前部に陣取っている。マーゼン・クロッシュナー(まーぜん・くろっしゅなー)は隣席の、アム・ブランド(あむ・ぶらんど)に5両目のペットゲージを開けられないかと持ちかけてみた。

「上手く犯人の注意を逸らし、不意を打てれば、チャンスはあるはず。
 
 アム、ここから吸血コウモリを使って騒ぎを起こせないか?」

アムは精神を集中してみた。

「……ダメみたい。別の車両からアクセスできないようにしてあるみたいだわ」

「……いい手だと思ったんだが。するとまた考え直さないといけないな」

本能寺 飛鳥(ほんのうじ・あすか)はステンレスの魔法瓶をもてあそんでいた。

「まあ、いざとなればこれも……ね」

早見 涼子(はやみ・りょうこ)も売店で買った6個入りの冷凍ミカンを持ち上げて重さを確かめつつにっこりと応じる。

「そうですわね……身の回りにも、結構危険物ってあるものですわ」

マーゼンはそっとパートナーたちにささやいた。

「まあ、何かきっかけがあったら…… だな。こういった場合一般乗客の安全確保が最優先だ」
 
国頭 武尊(くにがみ・たける)はこの騒ぎにうんざりしていた。

(アキバに行くために新幹線乗ったらテロリストに乗っ取られたとか、ついてねーな。

 昔の某映画みたいにこう、バーっと逆転してくれる奴はいねーか……)

 予定通りに休暇が取れなかった御神楽 陽太(みかぐら・ようた)夫妻に先行して地球観光に行くため、エリシア・ボック(えりしあ・ぼっく) 、ノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)の2人は計画を立てたものの、予約どおりの新幹線に乗ったのだが……。

「波乱の旅立ちですわね……まあ、これはこれで面白いですわ。

 ……ノーン・クリスタリア、貴女はこれで2度目ですわね」

エリシアが言った。ノーンはきょとんとした表情でエリシアを見返した。

「んー? 何かあったっけ?」

最近もノーンはトレインジャックにあったばかりなのだが、本人はどうやら気にしていなそうだ。

シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)は里帰りも兼ねて孤児院のにクリスマスプレゼントを届けに行く予定だったのだが……。

「くそ、素直に海京から海路で帰っとくべきだったぜ……。

 だがまあ巻き込まれちまったことは仕方ねぇ。こうなったらどう切り抜けるか、だ」

リーブラ・オルタナティヴ(りーぶら・おるたなてぃぶ)がシリウスに向かって頷いた。

「こんな年の暮れにですか……最近また、テロリストたちの活動が活発になっている気がしますわね」

サビク・オルタナティヴ(さびく・おるたなてぃぶ)が勢い込んで……とはいえ状況が状況なので抑えた声で言う。

「今年も終わりだってのに、商売熱心だねぇ。ホント。

 ……で、どんな作戦でいくの?もちろん黙ってるわけないよね?」

「……商売とまた違う気もしますけれども」

リーブラがそっと突っ込む。シリウスはしばらく考え込んで、

「たしか銃型HCは手元にあったよな……こいつにはHC間での通信機能があるから外に繋がるかもしれん。

 チャンスがあれば試してみるよ。

 ま……とりあえず乗客の安全第一だ。動きがあるまでは様子見だな」

ルファン・グルーガ(るふぁん・ぐるーが)は気のすすまない里帰りを、ようやく決意して新幹線に乗ったのだが、その結果がトレインジャックである。

「わしは急がんし別に良いのだが……」

パートナーのラゴニュートギャドル・アベロン(ぎゃどる・あべろん)はそんなルファンを横目に見て、腕組みをした。

「ふふふ。久々に暴れる機会かも知れねえな。腕が鳴るぜ」

「他の人に迷惑がかかったらいかん。しばらくは様子を見んとな」

「わかってるって」

竜の瞳がギラリと光った。

佐野 和輝(さの・かずき)はぶつぶつとこぼした。

「うーん。こんなことに巻き込まれるなんて宝くじに当たる確率より低いはずなんだけど……

 当たるなら宝くじの方がいいな」 

隣に座っている和輝のパートナー、アニス・パラス(あにす・ぱらす)は無言で激怒していた。

(和輝と2人きりだったのに、邪魔するなんて!! む〜っ!!絶対に許さない!!)

その様子を見て和輝は一抹の不安を覚えた。

(頼むから無茶せんでくれよ……)

和輝は少し考えたのに、陽動作戦に出ることにした。

(『気弱な青年』で行こう)

手持ちの水筒のキャップを開け、派手に中のお茶が周囲の床一面に振りまかれるような取り落とし方をしたのである。ガシャンと音を立てて水筒が転がると、テロリストたちは一斉にそちらに銃を向けた。和輝は派手に顔を引きつらせ、手足をがたがたと振わせる。

「ご……ごめんなさい! こ、怖くて水筒を……お、落としちゃいました……すみません」

その隙に、アニスがサイコキネシスで最前席の飲み物をテロリストらの足元方向へ水が広がるように零す。

「おとなしくしてりゃ、多分無事帰れるぜ」

テロリストの1人が鼻で笑った。そして一歩進み出た瞬間、男は滑って派手に転がった。

「な、何だ!」

そう、先ほど零した水を、アニスが氷術で凍らせておいたのである。他の3人のテロリストたちは色めき立ち、銃を構えたが、移動したため足元の氷に足を取られるだけの結果となった。
この動揺に早見が即座に反応した。座席から空中に飛び上がり、通路に跳んで出ると石のように凍りついた冷凍みかんを正確なシュートで銃器を持つ手に向かって投げつける。大ぶりな石を投げられたのと同じであるからたまらない。当った者は武器を取り落とし、呻く。ルファン、ギャドルがドラゴンアーツを使い、テロリスト向かい突進する。ギャドルはもとから鬼神のような威圧感がある、銃器を冷凍みかんで失い、素手で相対するにはムリがある相手だ。ギャドルはあっという間に叩きのめし、片足で相手を押さえ込んで嬉しげに咆哮した。

「俺様に勝とうなんざ100年……いや1000年はえぇんだよ!」

ジガン・シールダーズ(じがん・しーるだーず)がおもむろに立ち上がり、読んでいたコミックの技を使いつつ暴れはじめた。

「この技は……こうか。賭けるのは何時も己の命、殺してるんだろ? 殺されもするさ」

エメト・アキシオン(えめと・あきしおん)もジガンとべったりしていたところを邪魔されてすさまじく機嫌が悪い。

「眼球潰し顔面紅葉降ろし!! どれがいいか?

 愛シテル、憎してる、あああ大好キ、ますたー♪」

ザムド・ヒュッケバイン(ざむど・ひゅっけばいん)も、咆哮をあげると、乱闘の場に飛び込んでゆき、敵味方関係なしに攻撃を始めた。ノウェム・グラント(のうぇむ・ぐらんと)があわてて制止する。

「ジガン! エメト! ザムド!  敵味方の判別はしてください!

 それにやりすぎちゃダメですっ!! あああ……このままでは2時災害の恐れが……」

そこへ3両目から武器を抱えた黒野、高月が走りこんできた。リーブラとサビクが自分武器を受け取り、シリウスの合図とともに加勢に走る。サビクはテロリストと、ジガンらに向かい光術を放った。目潰しである。

「あとはよろしく、リーブラ!」

「はいっ!」

リーブラがオルタナティヴ7の剣の平で敵を叩き伏せる。ルファンはその膂力に物を言わせてテロリストを抑えこむと、裏腹にのんびりした口調で言う。

「人様の迷惑になることをしちゃあいかんのう」

シリウスは好機とばかり、即座に銃型HCで外部に連絡を試みた。

「こちら4号車客室、誰か聞こえるか?!」

待機していたジェニファ・モルガンのHCがそれを傍受した。

「聞こえます! こちら外部からの突入タイミングを見ている者よ」

「4号車は今混戦状態だ。前車両の様子は不明」

「こちらマーク・モルガン。先頭から3両目まではある征圧された模様です」

「了解。こちらシリウス・バイナリスタだ。外部応援よろしく頼む」

「了解!」

4両目もまだ乗客がいるので、様子を見ていたヘイリーはジェニファらから連絡を受けた。

「わかったわ。リネン、フェイミィは様子を見て4号車の様子を見て! 他は二人をバックアップ!」

エリシアが立ち上がる。

「さて、テロリストにお仕置きが必要ですわね」

言うなり真空波でテロリストたちだけを選び、すさまじい衝撃を加える。

「うっ!」

「ギャッ!」

短い悲鳴を上げ、テロリストたちが3号車との境へと吹っ飛ぶ。そこへノーンが、

「おねーちゃん達を援護するよ!」

たたたっと走ってテロリストのほうへ寄ると、子守唄を発動する。衝撃波や打撃などで弱っていたテロリストたちはそのまま昏睡した。おもむろにエリシアは向き直り、敵が吹き飛ばされたほうへ、さらに攻撃を仕掛けようと追跡してきたジガン、ザムド、エメトらにヒプノシスを見舞った。3人は気持ちよく昏倒した。

4両目征圧完了である。