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太古の昔に埋没した魔列車…環菜&アゾート 2

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太古の昔に埋没した魔列車…環菜&アゾート 2
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第2章 鮮やかに彩られる魔列車…車体の保護も安全第一

「御神楽環菜鉄道記の撮影や、インタビューをしたいんだけど、いいかしら?」
「うーん、皆にも聞かないとね…」
 静香が作業している者たちへ顔を向けると、透乃たちは振り返らず、大きな用紙に下書きしながら軽く頷いた。
「いいみたいだよ」
「ありがとう」
「カメラの準備、オッケーですよ」
「うん。―…今回で4回目となる御神楽環菜鉄道記の現場は、ヴァイシャリーの別邸からよ。塗装を行う前に、下書きをしているみたいね」
 魔列車の塗装チームから撮影許可をもらうと、刀真に撮影開始の合図の指サインを送る。
「とても大きな紙に描いているのね。靴を脱いで、その上から書いている人もいるわ。どうしてこのような作業が必要なのか、聞いてみるわね。あのー、ちょっとお話いいかしら?」
「えぇ、いいわよ。塗装に2色以上の塗料を使うの。マスキングする時に、こういう作業もいるのよ。他の色が混ざらないようにね」
 セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)は鉛筆で木々の線を引きつつ、月夜に説明する。
「セレアナ、鉛筆削りを取ってくれる?」
「投げるから受け取って」
 小さな鉛筆削りを掴むとセレンフィリティの方へ、ぽいっと放り投げてやる。
「ありがとう!」
 片手でキャッチすると、シュルシュルと鉛筆を削る。
「ねぇ、今は室内にいからいいとして…。その格好で、外に行かないわよね?」
 いつものコートの中に、トライアングルビキニがちらりと見える。
「……それなんてマニアックなグラドルのDVD?」
 冬の寒空の下で魔列車の塗装をしているパートナーの姿を想像しただけで、もう頭が痛くなると、セレアナは両手で頭を抱える。
「ふぅ…。線を引くだけだから、時間かからなかったわね」
 ぼやく彼女を他所に、マスキング用の用紙に線を引き終え、セレンフィリティは満足そうに言う。
「防錆用の塗料で下塗りしよう!」
「何千年もパラミタ内海にあったのに、錆びてるところはなかったわよ、ルカルカ」
「そうなの?まぁ、念のためよ♪透明な塗料だから、彩りが変になることもないし」
「ルカ、手配しておいた塗料が届いたみたいだぞ」
 パソコンのメールへ業者から配達完了の知らせをもらい、ルカルカに伝える。
「検品してくれる?ダリル」
「全部あると思うが、一応見てくるか」
 注文した塗料が全て届いてるか確認するべく、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)は検品表のシートを手に別邸の外へ出る。
「私が駅の方まで持ってやろう」
 霧雨 泰宏(きりさめ・やすひろ)は魔列車が停車しているところへ運ぼうと、マスキング用の用紙を丸め、紐で縛る。
 別邸から出ると塗料が入った缶の数をダリルが検品している。
「全部あるか?」
「あぁ、ちゃんと揃っているな。列車の前に置いてもらえればよかったが、向こうで待機している人がいないから、こっちに送ってもらったんだ」
 他の荷物を運ぶ人手が足りなくなるから、ここへ運んでもらったようだ。
 駅舎へ移動する時に塗装するチームで、刷毛や小筆などを塗料と一緒に持っていけば、何度も取りに戻らずに済む。
「私とセレアナは、窓とか汚さないためのマスキング用紙を持っていくわ」
「缶を台車に乗せてその上に置けば、両方運べるでしょ?」
「2人で押せば行けそうね」
 セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)と一緒に缶が入ったダンボールを持ち上げ、台車の上へゆっくりと下ろす。
「これを置いておけば、重石代わりにもなるのよね」
「じゃあ、さっさと運ぶわよ!」
 風で用紙が飛ばないよう、道具箱を乗せると2人でハンドルを掴んで力いっぱい押す。
「これからヴァイシャリー湖南の駅の方で、魔列車の塗装を行うみたいよ。私たちも作業を見届けるべく、現場へ向かうわ!」
 カメラに向かってそう言うと、月夜とカメラマンの刀真も現場へ急ぐ。



「レールの上でやると、塗料が散ったりしそうね。シートに置いて作業しよう!」
「ちょっと待て、連結した移動させるのか?」
 レイに乗り込もうとするルカルカをダリルが止める。
「うっ…そうね。これじゃ塗料を塗る前に、連結器が壊れて…とーりょーすることになっちゃうもの」
「まずは連結器を外さないとな」
「よーし…2人共お願いね!」
「おいおい、ルカは手伝わないのか?」
「ダリルもお願いね。ルカは外してもらったパーツに、タグをつけなきゃ♪」
「―…“も”って、なんだ…まったく」
 ついでに言われたような気がし、呆れたようにため息をつくが、施工管理技士たちと連結器を外しにとりかかる。
 彼が連れてきた者と5人かかりで行っているため、作業もスムーズに進む。
「あれー?どうして連結器を外してるの?」
 なぜ外す必要があるのか気になり、台車のハンドルから手を離し、透乃がルカルカに声をかける。
「車体をシートの上に移動させるの。レールを汚すわけにはいかないし」
「そっかー。でも、今日は登山用ザイルも持ってきてないんだよね」
「その辺りは大丈夫よ。何本かロープを用意しておいたから」
 根回しでルカルカは事前に、ラズィーヤ・ヴァイシャリー(らずぃーや・う゛ぁいしゃりー)に頼んで何本かロープを用意してもらっていた。
「あっ、連結器を外し終わったみたい!ねー!!車体をシートに移したいんだけど、手伝ってくれるーーっ?」
 ルカルカは大きな声で言い、クェイルの腕に乗っているジガン・シールダーズ(じがん・しーるだーず)に声をかける。
「ん?そんな作業があるとは聞いていないが…」
「ジガン、塗装チームの中に、他にイコンの操縦者がいないのだから手伝いましょう。いったん降りてくれますか?」
 イコンの操縦者であるノウェム・グラント(のうぇむ・ぐらんと)が彼に言う。
「まぁ一機だけじゃ、持ち上がりそうにないしな…」
 機体の片腕を地面へ近づけてもらい、手の平へ滑り飛び降りる。
「ありがとう!」
 ノウェムの協力を得たルカルカは、ロープを車体に固定すると片側を持ってもらい、落とさないようブルーシートへ慎重に移動する。
「そっち側のマスキング終わった?」
「とりあえず、窓だけでいいのよね?」
 車体の向こう側からセレアナがパートナーに聞く。
「えぇ、下地を先に塗りたいみたいよ」
「これでおっけーよ。セレン、下塗りを始めていいわよ」
「分かったわ!」
「運び終わるのを見てるだけっていうのも、時間がもったいないですし。先に塗り始めましょうか、北都」
 マスキングが終わった様子を見て、自分たちも手伝おうと北都に刷毛を渡す。
「色を塗る前に防錆用の塗料を塗るんだったね」
 リオンから手渡され、北都も下塗りを始める。
「陽子ちゃん、屋根の方をお願い!」
「透明の塗料ですから、日が高いうちに片付けましょう」
 緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)は缶を抱えて空飛ぶ魔法で屋根に乗り、ぺたぺたと塗る。
「朧さん、塗り残しがあったら教えてくださいね」
 陽子にこくりと頷くと朧は、彼女の傍にふよふよと浮かび、塗りきていない箇所を探す。
「大雑把にやるとどこまで終わったか、分からなくなってしまいそうです…。―…あっ、塗り残しがありました?」
 屋根の端っこが塗りきれておらず、それを発見した朧はその上をくるくると回り、陽子に知らせる。
「空を飛ぶスキルなどがあれば、乾ききっていない場所に触れずに、塗り残しを塗れて便利ですね」
 端なら脚立にでも上って塗れるが、真ん中など乾いていないと、乾くまで待たなければいけない。
「うーん…。私は繊細な作業は得意じゃないからな。今回は雑用に回るとしよう…」
 陽子たちの作業している様子を見ていたが、私も何かやらないとな…と霧雨 泰宏(きりさめ・やすひろ)は役割を探す。
「下地の塗料でも、列車の傍に運ぶか」
 ダンボール箱を開けて缶を出し、取りにいく手間を省こうと、車体の傍へ運んでやる。
「泰宏さん、僕たちも足りなくなっちゃった」
「あぁ、今行く」
「やっちゃん、寒いわ。アイスプロテクトかけて!」
 片手を挙げて呼ぶ北都のところへ缶を持っていこうとした瞬間、月美 芽美(つきみ・めいみ)も彼の名を呼んだ。
「忙しいそうだし。僕、リオンと取りに行くよ」
「いや、持って行くから待っててくれ」
「ちょっとやっちゃん、寒いって言ってるじゃないの!」
 何をもたついているのかと、苛立ち始めた芽美が眉を吊り上げる。
「(あぁ〜…もう、私は1人しかいないのにっ)」
 こんな時、分身でも出来れば楽だが生憎そんな能力はなく、どちらを優先するべきか悩んでしまう。
「―…やっぱり取りに行くね」
「一緒に運びましょう、北都」
「すぐなくなっちゃうね。リオン、2缶持てる?」
「えぇ、それくらいなら大丈夫です」
 忙しそうな泰宏を気遣い、リオン・ヴォルカン(りおん・う゛ぉるかん)と北都は、自分たちで塗料を運んだほうがよさそうだと思い、ダンボール箱から出す。
 泰宏の方は、手を息で温めながらイラついている芽美の元へ駆け、アイスプロテクトで寒さを和らげる。
「ありがとう。まだ少し寒いけど、我慢出来なくもないわ。効果が切れたらまた呼ぶわ」
「そうか…。(あまり機嫌を損ねると、大変なことになりそうだ…)」
「やっちゃん、塗料を取ってきて」
「あぁ、分かった!」
「あーそうそう、お茶も欲しいわね」
「お、お茶か!?」
 缶を運ぼうとすると、また別の注文をされる。
「作業員用に、その辺りにあると思うけど?」
「テーブルの上にあるやつか…」
 ご自由にどうぞ、という感じで予め静香が用意したポットを見つけ、お茶を淹れる。
「えーっと…まずお茶な」
「ん…、ふぅ…温まるわね」
 芽美は当然のように受け取り、カップに口をつけた。
「缶は傍に置いておいてくれればいいわ」
「じゃあまた…」
「もうお昼だから、パンもあると嬉しいわね。イチゴジャムをつけてね。陽子ちゃんたちの分もよろしく」
 ―…何かあったら言ってくれ、と言う前に早くも次の注文がきてしまった。
「あ…あぁ……」
 まるで従者のようにあれやこれやと、芽美の注文通りに働き続ける。