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【黒髭海賊団】黒髭海賊団の年末大掃除大会!

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【黒髭海賊団】黒髭海賊団の年末大掃除大会!

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 そんなパーティー準備の整いつつある食堂や厨房を他所に、他の箇所は清掃が続けられていた。
 広く、そして吹きさらしであるため、寒い風の吹き抜けていく甲板もその1つである。

(先の件に、関わっていない僕達が、いきなり船室ましてや船長室の掃除をするわけにはいかないでしょ)
 そう考えつつ、紫色の防寒服に身を包み、モップとバケツを用意して、甲板掃除を始めたのは、清泉 北都(いずみ・ほくと)だ。
「ソーマとモーちゃんは右側からやっていってね。僕はこっち、左側からやっていくから」
 2人のパートナーへと告げれば、早速、モップをバケツに突っ込み、水分を含ませる。
「……面倒くせぇ」
 赤い防寒服を着たソーマ・アルジェント(そーま・あるじぇんと)が、ぽつりと呟く。
「ソーマ、手を抜いたらダメだからね?」
 その呟きを聞き逃さず、北都は言い返した。
 貴族ゆえに重いものを持ったことがないのを理由に、直ぐに休もうとする彼に、監視役としてもう1人のパートナー、モーベット・ヴァイナス(もーべっと・う゛ぁいなす)と共に掃除するよう伝えてある。
 銀色の防寒服を纏ったモーベットは、以前は、小さな町で剣術を子供達に教え込んで居たため、体力には自信があると、張り切っているようだ。
「普段は部屋の掃除もしないくせに、恋人を招き入れる別荘だけは自分できちんと掃除してるの知ってるんだからね。ここをその別荘だと思ってしっかり掃除するように」
「荘の事を出してくるなよ。あれは特別なんだし。大体、俺のゴージャスな別荘とこの海賊船を一緒にするなよ」
「言い合っていないで。ほら、さっさと向こうに行け」
 ソーマにモップを押し付けて、モーベットはバケツともう1本のモップを手に、甲板の反対側へと歩いていく。ソーマも小さく舌打ちしてから、後に続いた。
 濡らしたモップで甲板を磨き続ける3人だが、ソーマはやはり理由をつけて、サボりたがる。
 そんな彼に、モーベットは何も言わないものの、掃除していた手を止めると、『この程度で寝を上げるとは情けない』とでも言わんばかりの視線を向けた。
「俺だってやる時はやるんだよ」
 その視線に負けた気分になって来たソーマは、奮起して、見てろと言うように、再びモップを手に、掃除を始める。
 けれども、少し進んでは、日頃の体力不足から、モップに凭れかかるように休んだ。
 そんな彼に、モーベットは体力がない、と認識に追加した。

「ちょちょちょ……ハイレディンさん引っ張らないで!」
 パーティーの前に掃除があることを知り、ぼやく洋介をパートナーのバルバロッサが引っ張っていく。
「船は俺達にとって、家みたいなものだ、ちゃんと感謝をこめて磨け!」
「分かったからちゃんと掃除やりますから……」
 大海賊の英霊であるバルバロッサの言葉に、洋介は頷き、道具を借りてくると辺りを見回した。
 甲板には既に幾つかのグループが居て、掃除を始めている。
「まずは甲板からだ! 顔が映るくらいしっかり磨くんだぞ!」
 バルバロッサの指示に、他のグループが磨いていない辺りへと向かうと、洋介は早速、磨き始めるのであった。

 人手の足りないところを手伝うべく駆り出されて来たメルティ・フィアーネ(めるてぃ・ふぃあーね)は、甲板に出てきていた。
 吹き抜きで寒いがために、広さの割に、人の姿は少ない。
 モップとバケツを用意すると、誰も担当していない辺りの床から徐々に拭き始めた。
 吹き付けた潮風が乾いていたのか、ザラザラする甲板を繰り返し、繰り返し磨く。
 そうすれば、次第にザラザラしていたのが薄れてきて、ツルツルとして陽光を反射するほど磨き上げられていった。



「甲板ホッケーをしよう!」
 甲板掃除も片付けを始めた頃、磨き上げられた甲板を前に、雅羅が甲板へと姿を現すと、武崎 幸祐(たけざき・ゆきひろ)はそう、声を掛けた。
「はい? 甲板、ホッケー?」
 突然のことに、雅羅は首を傾げ、繰り返す。
「そう。このデッキブラシと、パックの代わりはゴム束子で」
 雅羅へとデッキブラシを渡しながら、幸祐が告げる。
「面白そうなことしているのな。あたしも交ぜてよ」
 告げながら近付いてきたのは、セフィー・グローリィア(せふぃー・ぐろーりぃあ)エリザベータ・ブリュメール(えりざべーた・ぶりゅめーる)だ。
 幸祐のパートナーのヒルデガルド・ブリュンヒルデ(ひるでがるど・ぶりゅんひるで)も含め5人がデッキブラシを手にすると、幸祐が早速ゴム束子を打った。
 それを受けて、雅羅が打ち返す。セフィーも一緒になって、交互にパスし合いながら、幸祐を抜いた。
「この先へ行きたければ、命懸けで来いっ! インフェルミーナの姫騎士エリザベータ・ブリュメール参る!」
 抜いた先で、エリザベータがデッキブラシを構えて、待つ。
 セフィーが全力でゴム束子を打ち込むと、彼女もまた全力で打ち返した。
 セフィーと雅羅の間を抜け、ゴム束子が飛んでいく。
 幸祐も彼女らが決めるだろうと思い込んだため、突然のことに反応できなかった。
 だが――。
「私のこと、お忘れになっていませんか?」
 苦笑しつつ、ゴム束子を止めたのはヒルデガルドだ。
 デッキブラシを巧みに使い、3人の間を抜けていくと、エリザベータの前に出る。
 あっという間の出来事に、エリザベータも急ぎデッキブラシを構えたけれど、その脇をすり抜けて、ゴム束子は甲板の傍らに転がっていた空き樽の中に入った。
「すばらしいゴールだ、ヒルデガルド」
 幸祐が賞賛と共に拍手を送ると、セフィーや雅羅も拍手した。
 それも束の間、直ぐに樽の中からゴム束子を取り出すと、2回戦を開始する。
「何だ何だ、面白そうなこと、してんな」
 気付けば、元ブラッドレイ団員たちも集まってきて、甲板ホッケーは、パーティー開始の声が掛かるまで、続けられた。



「これで最後よ」
 何だか分からないガラクタの入った木箱を手に、セレンフィリティが倉庫から出てくる頃には、通路の小さな窓から見える空はすっかり茜色に染まっていた。
 遠くからそろそろパーティを始めよう、との呼び声が聞こえる。
「ガラクタばかりなら、不燃物ね。これを運んだら、食堂に向かいましょ?」
 セレアナの言葉に、セレンフィリティは頷いて、2人は最後の木箱を運び出していった。