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優しい誘拐犯達と寂しい女の子

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優しい誘拐犯達と寂しい女の子

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「……やっぱり、戻る」

 ぷい、と一緒に遊んでくれたお兄ちゃんやお姉ちゃんの方に顔を背けた。絵音の無事だけを喜べばいいのに余計なことを口にする両親を見て自分は二人の一番ではないんだと。

「絵音!!」
 両親はもう一度娘の名前を呼ぶが、振り向かない。

「絵音ちゃんは帰りたく無いようですわ。それはそうですわよね? 仕事か何かは知りませんが、子供の気持ちを理解しようとすらしない親の元になんて、誰だって戻りたくはないですわ」

 互いに本心を語らせようと綾瀬が絵音と両親の間に入る。これをきっかけに打ち解け合えばと。ほんの少し両親に対して苛立ちを含みながら。

「理解? そんなものしている。この子の父親だぞ」
「そうよ。私は母親よ」

 両親は綾瀬の言葉に明らかな怒りを見せたが、絵音は顔を見せない。

「絵音ちゃん、言っておあげなさい。仕事とお金で頭がいっぱいでどうして飛び出したのか理由を考えない両親に」

「……あたしが帰ったらまた仕事に行くんでしょ。それであたしが寝た時に戻って来るでしょ。明日もその次の日もずっとずっと」
 綾瀬の言葉で絵音はゆっくりと両親の方に向き直り、ため込んでいた気持ちを言葉にしてぶつけ始めた。声は大きくなり、目には涙が滲む。

「……そんなことは無いよ。今は忙しくて」
「そうよ。もう少ししたら落ち着くから」

「いっつもそう言う。ずっと我慢してるよ。みんなは休みの日にパパやママと遊んだりしてるのに。あたしも遊びたい。一緒におでかけしてママとお揃いのリボンを買って幼稚園行く前におしゃれしなさいって付けて貰いたい」

 絵音はスノハが自慢したことそのままを口にした。たまらなくスノハが羨ましかったのだ。仕事などで忙しい両親に我慢し、優しい使用人達と過ごすことを楽しもうと努力をしていた。

「……絵音」
 両親は言葉を失い、口に出るのは娘の名前だけ。

「絵音ちゃんはただお母様やお父様に甘えたかっただけです。この年頃の女の子の心、どうか分かってあげて下さい。お願いします」

 みとはそっと絵音の横に立ち、うちひしがれている両親に深々と頭を下げた。娘の言葉が鋭い凶器となって突き刺さっている二人にどの子にもあることだと理解し、娘のことを分かって貰うために。

「家族でも思っていることは口にして形にしないと伝わりません。言葉にするのが難しかったらぎゅっと抱き締めてあげて下さい。それだけでも伝わることはあります。大切なら尚更」

 みとに続くように加夜も絵音を愛していることを仕事や身代金という言葉を置いてしっかりと伝えることを促した。

「……思っていることか」
「……甘えたかった」
 両親はみとと加夜の言葉でこれまでのことを思い出していた。ずっと我慢させていたのに不満を一度も口にせず、気遣ってくれた娘のこと。自分達が何もしていないこと。収入が全ての幸せだと心の隅で思っていたこと。

 娘のことを思い巡らせた結果、両親は何かを決めたかと思うと携帯電話を取り出してどこかに電話を始めた。
 それを見た絵音は、鋭い目で見ていた。自分は、二人にとってどうでもいいんだと。

「……今日は、戻れない。明日から少し休暇を貰えないか。一週間でも構わないから」
「……ごめんなさいね。大事な用事があるのよ。だから」

 電話先は、仕事場だったが内容は、予想とは違っていた。少し困り顔をしながら話をするも携帯電話を切る頃には、すっきりした顔になっていた。