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リアクション
★2章
レポーターであるリカインは、西シャンバラチームのエリアに到着していた。
そろそろ時間的にも誰かが大型モンスターと接触していてもいい頃合いだろう。
そんな少しずつ緊迫していく画をカメラが捉えながら、突然画面が爆音と共にブレて――。
何かが起きた。
何かが始まった。
その開戦の合図は、どんな特殊演出よりも、視聴者の目を釘付けにした。
――西シャンバラ・雪山エリア1――
「ふむ、久々の同族相手か」
湖の騎士 ランスロット(みずうみのきし・らんすろっと)に呼ばれし助っ人嵐を起こすもの ティフォン(あらしをおこすもの・てぃふぉん)が木々の間に上手く身体を横たえ隠れながら言った。
「普段出番ないんですから存在感アピールの好機ですよ!」
宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)が言うと、ティフォンはぎょろりと大きな瞳を向け、言い放った。
「主たる者、表に出ぬ美学というものがある」
「あらら、何だかそれは逃げの言葉に聞こえますよ? 同族を相手にさせるのは心苦しいですが、ここでシャンバラの守護者たるグレータードラゴンの実力を見せましょう! 好感度連日ストップ高を目指しましょうよ」
「ふん、知性のない仲間を同族とは思わぬ。が、傅く者達に己が力を誇示し、誇りを持たせるのも良かろう。……時に女。ワタシには生肉でな」
ブフーッと鼻を鳴らしたティフォンは、先から祥子が仲間達のために焼く肉を伺っており、ぐるぐる肉焼きセットで焼いた肉を配る様子を見て、多少そわそわとしていた。
「はいはい、それッ」
祥子が口元に投げた肉を空中で首を動かし食い上げたティフォンは、くちゃくちゃと音を立てながら味わい、満足したように再び首を横たえた。
*
「コスプレイヤーとして、衣装を作りたいの」
アシュリー・クインテット(あしゅりー・くいんてっと)が宣言した。
「コスプレイヤーとして、衣装を作りたいの」
大事な事なので二度宣言した。
「狩りと言えばお馴染みのこのキャラ。皆のお供するんだニャー。等身大ニャンルーを目指しました」
自作のニャンルー着ぐるみを纏ったアシュリーが言うと、皆に近づき、更に同じ着ぐるみを何着も取り出すと、
「私、ニャンルー。あなた、ニャンルー?」
首を傾げながら聞いて回った。
「ああ、はいはい。着ればいいんだな」
神無月 桔夜(かんなづき・きつや)が真っ先にアシュリーから衣装を貰い、そそくさと服の上から着た。
「……これでいいか?」
「似合う、ニャー」
「はっはっは、主よ、わらわは今日は特別に気分が良い。わらわの全身全霊でそなたを守り、わらわが全身全霊で着こなして見せよう!」
アステリッテ・リンドブルム(あすてりって・りんどぶるむ)も桔夜に続き、ニャンルー衣装を手に取ると、すぱぱぱと着替えて見せた。
「似合うにゃー」
「なんだ、そんな似合わないとでも案じておったのか? わらわは姫で王様なのであるぞ。似合わない訳がないのだよ」
得意気に言うアステリッテは、王様が持つには違和感たっぷりのつるはしを掲げ言い放った。
「さぁ、わらわの敵はどこであるかにゃー? 痺れ虫なる生き物なぞ、わらわの太刀で一撃であるッ」
*
「う゛ーあ゛ーさぶいわね〜。ろくりんの競技ってこんな大変なことするの? 今時の若者も大変ね〜」
「そんな時はにゃんるー」
「おわっ……」
中国古典 『老子道徳経』(ちゅうごくこてん・ろうしどうとくきょう)が強引に衣装を被せられた。
文句でも言ってやろうかと思ったが、防寒が施されており中々暖かかった。
「あら、中々暖かいわね。それと、言い辛いんだけどね、あんた達虫退治でしょ?」
桔夜とアステリッテを見て言うと、老子道徳経は懐から虫除け線香を取り出し、火術で火をつけた。
「これで虫来ないわよ」
「な、なんと……わらわ達の生き甲斐を無に……ッ」
生き甲斐ではないでしょうと突っ込みたかったのだが、よっぽど残念そうだったので、なんとかフォローを試みた。
「それじゃあ、戦闘の最中に線香を叩き落されないように死守してもらえる?」
「もちろんだ。なら僕達が傍にいよう」
これで1つ懸念が減ったと、桔夜は快く快諾した。
*
「え、コスプレの衣装を作ってきた?」
フォルテッシモ・グランド(ふぉるてっしも・ぐらんど)の問いにアシュリーは頷き、衣装を見せた。
「しかもニャンルーの格好……今着ろと? しかも語尾はニャー?」
先よりも大きくウンウンと頷くアシュリーのきらきら光る眼を見ては、フォルテッシモも断りきれなく、ゆっくりと袖を通した。
「……アシュリー様の拘りは相変わらず凄いわ……にゃ」
「にゃー! コスプレ、大事。皆、ニャンルー」
コスプレが大事かどうかは――まあ一致団結、ユニフォームというものかと――自分自身を強引に納得させる。
(こ、このままでも私もコスプレか……)
チェリー・メーヴィス(ちぇりー・めーう゛ぃす)はパートナーのフォルテッシモを見ながら、一歩、二歩と後ずさり、この場を後にした。
*
「ふっふっふ、私にかかれば竜の一匹や二匹。造作もない」
ラビルーナ・ルナティック(らびるーな・るなてぃっく)は威勢のいい言葉と共に進んでいた。
「さぁ、押して出ようっ! ここから先は独壇場。私にかかってくる者が居るのであればそれは死あるのみ」
つるはしを刀に見立てて、味方にも自身の力を誇示するように、ぶん、ぶんと振るう。
「さぁ、かかって……あ、あれ? 皆?」
そこで気付いた。
自身に陶酔しすぎて、完全にはぐれてしまっていることに――。
「お、おおおおおおおおおおお!? やだやだやだやだ置いてかないで置いてかないで……」
置き去りにされたのは味方で、ラビルーナ自身が先行しすぎての迷子なのだが、パニックに陥った彼女からしてみれば被害者は自分である。
「うううううえええええええええんッ! 誰か! 誰かー!?」
「ラビルーナ?」
その声の主は、コスプレを回避したチェリーだった。
「……ふっふっふ……この私は1人でも十分なのだよ」
(今さっきまでベソかいてたじゃないか。この変わりようは凄いな……)
このままそれをダシに苛めるのも面白いのかもしれないのだが、コスプレを回避したチェリーは、本来やるべきことをしようとした。
「丁度いい、ラビルーナ。私がトラッパーでバリスタを作るから手伝ってくれないか。簡単なものでいいんだ。少しでも相手を牽制できるレベルで十分だから」
「……ふ、ふふ……し、仕方ないなー。私1人で十分だが、しょうがない」
(ある意味わかりやすい奴だよな、ラビルーナは)
「それじゃあ材料を頼む。丈夫で真っ直ぐな木と、太めでしなる蔦を探してきてくれ」
チェリーの支持の元、トラップの建設が始まった。
*
「んぐ……中々旨い肉だ……」
樹月 刀真(きづき・とうま)は、祥子が焼いた肉にかぶりつきながら、雪を掘っていた。
それは大型モンスターの突進時に、ここで足でも躓けば儲けもの的な予防線である。
緊急を要せば、蛸壺代わりにして、一時的にやり過ごせるかもしれないが、それはそれで迎えたくない事態だ。
「私にも一口頂戴ッ!」
「おい……これは俺の……」
漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)がやってくると、刀真の食べかけの肉にかぶり付き、肉汁で湿らせた唇を見せた。
「全く……地図はできたのか?」
「もちろんよ。マッピング完了っ!」
月夜は銃型HCを用いて一帯の地形をマッピングしており、どのようなルートで大型モンスターが進行してきそうか、また、どのようなルートで退避したらいいかを準備していた。
「そうか。なら、俺の穴掘りも手伝ってくれ」
「うん、いいわよ……はい」
そう言って月夜は、刀真から肉を奪い取った。
「これで両手で穴掘りできるでしょ」
「……ハァ……」
祥子にもう一度肉をもらいにいかなければなと思いながら、刀真はその時がくるまで穴を掘り続けた。
*
「私にもこれを着ろと言うの? アシュリー」
ホープ・アトマイス(ほーぷ・あとまいす)によって助っ人として呼ばれた雅羅・サンダース三世(まさら・さんだーすざさーど)にも、アシュリーはコスプレを着るよう近づいた。
「しょうがないわ……防寒もしっかりしていそうですし……」
「くすくす、ニャンルー大量発生の図だねぇ〜」
師王 アスカ(しおう・あすか)が鉛筆を片手にスケッチブックにその様子を楽しそうに描いていた。
「恥ずかしいから描かないで」
「えぇ〜いいじゃん。可愛いよぉ? ショウさんは着ないの?」
「あ、俺は着ないぞ」
ニャンルーの空気を一刀両断する如月 正悟(きさらぎ・しょうご)は、祥子が焼いた肉に噛り付く方が先決だった。
「ま、まあ、いいわ。私の今日の災厄は、ニャンルーを着て辱めを受けるだけなら、安いものよ。いくら私がいるからってそう易々と雪火龍が襲ってくるなんて――」
全てが整った――。
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