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雪の季節の恋の病

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雪の季節の恋の病

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終/〜ふたりで〜

 ぽん、と肩を叩かれて、メシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)がこちらを振り返る。
「例の地祇んとこから逃げ出した使い魔、無事にみんなに捕まったってさ」
 眠っているリリア・オーランソート(りりあ・おーらんそーと)の額を撫でていた彼に、エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)は伝わってきたばかりの情報を簡潔に告げる。
「そうですか、よかった」
 どちらかといえば無表情な性質のメシエだ。その彼がわずかに表情の中に見せた安堵を、パートナーであるエースは見逃さない。
 サイドテーブルには半分ほどが減ったプリンと、そのスプーン。食欲のないリリアについ先ほど、甲斐甲斐しくメシエが食べさせていたものだ。
「……どうしました?」
「いや、ちょっとな」
 今は、ふたりきりにしておいてやろう。エースは思いながら踵を返す。
「気になりますね。なんですか、一体?」
「なーに、ちょっとしたことだって」
 ドアのところで立ち止まる。
「君のそういう顔、滅多に見られるもんじゃないなって思ったからさ。珍しいよな」
 いいもの、見せてもらった気がするよ。
 微笑している口元だけが見えるよう、僅かに首を傾けた。メシエが息を呑んでいるのが伝わってきた。
「どちらに?」
「ちょっと買い出しに出てくる。起きたら、あったかいもん作ってあるから食べさせてやってくれ。鍋ん中。ポトフ、あるからさ」
 そんじゃ。ポットのお茶、ぬるくなったら換えろよ。エースはふたりのいる部屋をあとにする。
 あとは、リリアがよくなるだけだな。夕飯はどうするか。外の寒空は、もうじき雪が降りそうだった。
 寒くて冷たくて。けれど柔らかな、やさしい粉雪が。
 そうだ。
「シチューとか、いいかもしれないな」
 そう。雪のように白い、あたたかいクリームシチュー。
 病み上がりのリリアの身体をあたためてやるには、それがいい。

 なんだか白馬に乗ったぼろぼろのやつが大騒ぎしながら、逃げるように向こうからやってきた。
 だから。具合が悪くていらついていたから、思わずベルクは朦朧とした意識のままそいつに発砲してしまったわけだが。
 「……ダメ。もう、限界」
 そして限界、いやさ現在。ベンチで、フレンディスに膝枕してもらってダウン中なわけである。だいぶん熱が上がってきたようでもう、立ってもいられない。とっとと帰って、眠りたい。そんなこんなですごく嬉しいシチュエーションなのに、それを満喫できない自分がいくぶん腹立たしい。もったいないことをしていると思う。
 このままキスしてくれないかな、とも思うけれど。
 まあそう簡単にいけば苦労はしないとも理解している。理解していたから、封印までこのままであるだろうと覚悟を決めていたはずなのだが。
「……フレンディス? ……さん?」
 なにかがおかしい。なにかが──違う。
 気がつくとなんだか、フレンディスの顔が近かった。
「なにをしようと……してるわけ? ですかね?」
「キスです」
「はぁっ!?」
「キス、するんです」
 よく見ればその真っ赤な顔は、意を決したように涙目になっていることがわかる。
 本気? なのか?
「私……キス、します。マスターを、治しますから」
「……マジ?」
「はい。マジです」
 どうやら、本気らしかった。
 ふたり同時、ごくりと息を呑む。
「行きます。よろしく、お願いします」
「お……おう」
 こちらこそ。
 彼女が、近付く。近付いてくる。
 空が、視界が。彼女に埋め尽くされる。
 そしてふたりは、繋がりあった。ひとつに、重なった。
 ひらひらと、小さな粒の雪が空から、舞い落ち始めていた。
 白の粒たちに見守られながら、ふたりは口づけを交わした。

<fin>

担当マスターより

▼担当マスター

640

▼マスターコメント

皆様、ご参加ありがとうございました。担当マスターの640です。
今回のリアクション、いかがだったでしょうか? 書いていての感触としては、内容が内容だけに、やさしい、いたわりのあるアクションを投稿してくださった方が多かったように思います。ご期待に沿える文章となっていればいいのですが。
それでは、また次回のシナリオでお会いできることを願いつつ。寒い時期が続きますが、皆様も体調など崩されぬことを。