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リアクション
第六章
一際大きい破砕音が村まで聞こえてくる。
場所は村から西の方角にある森の中だ。
「ちょっとセレン、そっちまで壊れたら経路のバランスが崩れちゃうわ。もっとこう、綺麗に整った感じで出来ない?」
メタリックシルバーのレオタードにそのまま作業着を着たセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)が、石の飛び散った爆心地を見てため息をつく。
「えー、そんなに気にしなくてもいいじゃない。多少の誤差は事故よ事故。それにね、作業はリズムなのよ! ボンボン、ボンッってキレイに壊れたでしょ? やっぱり爆弾って便利よね」
足もとまで飛んできた石の欠片を踏みながら、メタリックブルーのビキニの水着の上から作業着を羽織っただけのセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)が陽気に答える。
他とは少し恰好の違う二人は、掘削予定地点に蓋のように鎮座していた岩石を、機晶爆弾で爆砕していた。爆弾一つで大きな岩石を同時に三つも砕いたのだが、セレアナは不満を隠す様子が無い。
「相変わらずセレアナは几帳面だよねえ。もっと臨機応変に楽しまなくちゃ、人生損しちゃうよ?」
「セレンの暴走を止めているだけで人生いっぱいいっぱいよ。……それよりも意外だったわ。あなたのことだもの、もっと派手にどっかんどっかんと爆発させると思ったのに」
「え、だって全部使っちゃったらもう壊せないじゃない」
セレアナが額に手を当てていると、村の方から人が来た。
◆
やってきたのは葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)だった。
フル装備で着込んだパワードスーツに、貸し出された無数のスコップやツルハシをハリセンボンのように刺している。
「サイタm……むぐっうぐぅ」
「いえ、なんでもありません。気にしないでください」
セレンフィリティの口を両手で押さえたセレアナが冷静に答える。
吹雪は不思議そうな表情をしたが、パワードマスクでセレンフィリティたちには見えていない。
「中々良い音が聞こえてきましたけど……あ、綺麗に壊れていますね」
砕けた岩を見た吹雪が感心していると、セレアナが顔の前で手を振った。
「単なる趣味でやっただけなので、あまり褒めないであげてください」
「や、そこは逆じゃないの逆?」
仲が良くてなによりです、とやりとりを見ていた吹雪が頷く。
「ああ、そういえば、途中にある小屋でビキニさんとレオタードさんのお二人が呼ばれていました。破砕作業を終えてからということでしたが、文句の無いぐらいミッションコンプリートだと思います」
吹雪が告げると、二人はお礼を言いながら歩いて行った。
さて。
「では塹壕……いえ、温泉掘り……」
足を肩と同じ幅に開き、右手を腰に回す。日本刀を抜くかのようにシャベルを取り出すと、パワードスーツの指で器用に回して構え、
「参ります」
と、地面に突き刺した。
パワードスーツによって強化された筋肉が道具を通じて土に及ぶ。
抵抗を感じることなく深く刺さったシャベルをすくい、横へ投げる。
突き立て、すくい、投げる。
ひたすら単調作業をしているうちに、パワードヘルムの中から鼻歌が流れてくる。
「フンフンフン〜フーン♪」
横へ積んだ土の山がどんどん高くなり、掘っていく動作も段々と早くなってきた。
更にペースが上がっていく。
「フンフーン、墓穴掘るほど快適塹壕〜♪」
歌詞まで付いた。
三番まで歌い終えた後、吹雪が顔を上げる。
気が付けば、掘っていた穴はパワードスーツを着た吹雪よりも深くなっていた。
「はしごを持ってくるべきでした。階段状に土を削って、はしごを取ってきましょう」
目の前の土にシャベルを刺した瞬間、そこからお湯が噴き出した。
◆
ザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)と強盗 ヘル(ごうとう・へる)は、村から離れた小屋の中を調べていた。
「もう少し大きい方が使いんですけどねぇ。さすがに混浴は怒られそうで怖いですし。やっぱり増築しないと駄目でしょうか」
内部の広さを測りながらザカコが悩んでいると、荷物を外に出していたヘルが入ってくる。
「どう見ても脱衣室一個分って感じだな。男女別々にするなら同じような小屋をもう一つ、新しく建てないとダメだと思うぜ」
壁から壁まで四歩足らずの距離しかない。脱衣用の棚を設置すればもっと手狭になるだろう。
「それよりも問題なのは、今掘っている場所から少し距離があることです。村からは更に離れているしで、どうしても中途半端な位置なんですよね」
「しょうがねえだろ、付近の小屋で一番近いのがここしかなかったんだから。でもまあ、厳然たる事実を受け止めて、どうするか考えよう」
ザカコは小屋から出て村の方を見る。かろうじて歩ける程度の道らしきものはあるが、このままでは一般客には不便だろう。
「そうだな、とりあえずの案として二つある。まず一つは……」
後から出てきたヘルが人差し指を立てる。
「掘っている場所の近くに新しく小屋を建てる。そうすれば小屋で脱いですぐ温泉だ。自然の良さを堪能しながら湯に浸かれるぜ。そしてもう一つは……」
続いて中指を立てた。
「湧いた湯を村まで引っ張る。そうすりゃ施設も村のものを使えるから、好きな場所に温泉を設置出来る。自然は堪能出来ないかもしれないけど、村の周りには柵があるから、入浴中に変なのがやってくる心配もない。これの問題点はお湯を引っ張ってくる分、工事に時間がかかることだな」
ヘルの提案に、ザカコはあごに手を当てて俯くと、すぐに顔をあげた。
「よし、二番目の案で村長に掛け合いましょう。それに」
村への道に視線を向ける。
「一番目の案も結構時間が掛かりそうですから」
◆
「いやあ、パワードスーツって万能ですね。最初見たときはびっくりしましたよ」
「おかげで助かりました。本当にありがとうございます」
ザカコとヘルがセレンフィリティ、セレアナと合流し、掘削具合を確認しに行ったところ、穴の中で腰までお湯に浸かりながら、土の中に肘まで埋めている吹雪が発見された。
慌ててロープを取ってきたセレンフィリティが吹雪を引き上げ、お湯の噴き出た箇所にはセレアナが丸太で栓をしたのである。
「これは……ナイスファイト賞は自分がいただきですね」
現場にきていたアーミアは、湧き出た瞬間、と呟きながらその光景をカメラに収めた。
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