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【蒼空ジャンボリー】 春のSSシナリオ

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 第5章 初めての温泉旅行
 
 
 そしてこちらは、キマクとシャンバラ大荒野の境付近にある、スパリゾート施設。アトラスの傷跡を熱源とする天然温泉やパラミタ各地の湯が101種類楽しめる場所だ。
 その101個目、新たに見つかった露天風呂で、御神楽 陽太(みかぐら・ようた)御神楽 環菜(みかぐら・かんな)とのんびり温泉に入っていた。他の客の姿は見当たらない。それはこの湯だけのことではなく、付随している宿のどこを歩いてもスタッフ以外の顔とはすれ違わない。資産家の能力を使用してスパの関係者と交渉、根回しし、陽太が温泉を貸切にしたのだ。
 湯に入ってくるとしたらそれは人ではなく、きっと猿の類だろう。
 今は夜。天気も良く、一番星が空で光る。
 湯に浸かってそれを夫婦で眺めていると、少しの驚きを伴わせて環菜が言う。
「このお湯……凄いわね」
 一糸纏わぬ姿で、彼女はじっくりと温泉の効果を感じていた。こうして座っていると、日々の疲れがみるみるうちに消えていく気がする。たとえ怪我をしていたとしても、この湯に入ればたちどころに治ってしまうだろう。
「良い温泉を教えてくれた舞花に感謝ですね。今日はゆっくりくつろぎましょう」
 スパを紹介してくれたのは、1人でパラミタ中を旅している御神楽 舞花(みかぐら・まいか)だった。陽太は前々から環菜と温泉に行きたいと思っていて、環菜も同じ事を考えていた。“勝ったら何か1つリクエストする”と2人でメダルゲームをした時にそれが分かって、どこかいい場所はないかとずっと探していたのだ。
 その中で舞花から届いた、温泉の情報のメール。
 舞花は2人を見て、温泉探しもしてくれたらしい。彼女の奮闘をテレビで見て知っていた陽太達は、彼女の好意を酌んで今回の旅行を実現させる決心をした。
 延び延びになっていた旅行はこうして実現し、今は無事に温泉の中。
「ええ、今はどこで何をしてるのかしら……」
「あの子のことです、きっとどこかで元気に、俺達と同じ夜空を眺めていますよ」
 落ち着いた口調でそう言いながらも、陽太は環菜の向かいで緊張していた。大好きで、愛して止まない女性と一緒にお風呂に入る。それは毎日のこと、とトッドさんにも言ったけれど、実は、彼はその度に胸を高鳴らせていた。
「? 何か、固くなってない?」
 普段はどうか分からないが、今に限って言えば、環菜はそれに気付いたようだ。
「もっとリラックスしなさいよ、やっと温泉に来れたんだから」
「えっ!? は、はい、あのでも……」
「……?」
「い、いつもながら……というか、今日は特にドキドキします」
 面と向かって言われ、環菜は虚を突かれたのか目を丸くした。初めて意識した、というように白い頬に赤みが差す。
「な、何言ってるのよ……」
「俺の奥さんは、綺麗で、凛々しくて、暖かくて……とんでもなく魅力的だから、夫の俺がドキドキするのは仕方ないんです」
 どうやら照れたらしい環菜に、陽太は耳まで真っ赤にしながらそう告白する。話しているうちに、鼓動の音は更に大きくなっていく。心からの本音を聞き、環菜もますます赤くなった。至近距離で火照った顔で。
 自分でも自覚しているのだろう、恥ずかしそうに湯面を見ていた環菜は、手でぱたぱたと顔を扇ぐ。
「このお湯、ちょっと熱いわね。まだそんなに入ってないのに……」
「そうですね、俺も熱いです」
 結婚してから、2人の想いは強くなっていくばかりで。
 10年経っても20年経っても仲睦まじく過ごしていける。近くで気持ちを交わせば交わすだけ、それは確かに感じられて。
「ファーシーさんの予定日は夏ですよね。その頃にはまた、事業も進んでいますよ」
 お互いに微笑みあって、2人はそれから、色々な話をした。仕事の事、ファーシーの子について、去年の海水浴で見た夕日について。そして、学園での思い出など。調理実習の時は、陽太はハンバーグを作って校長室に持っていった。あれが、環菜が陽太のハンバーグを初めて食べた日であった。
「環菜がルミーナさんの体になったこともありますよね」
「ルミーナの……? そうね、懐かしいわ。特に不都合は無かったけど……」
「? どうしました?」
「……あの時は、額に……」
 ――落書きされたことを思い出したらしい。
 温泉を出て部屋へ行くとそこには豪華な料理が用意されていて、浴衣に着替えた陽太達は舌鼓を打つ。環菜は湯上りの頬を上気させ、いつもよりも色っぽかった。
(浴衣姿の環菜も綺麗です……!)
 ときめきながらの食事は、料理を更に美味しく感じさせる。
 夜は楽しく過ぎていき、やがて、床に入る時間になって。
「……いい景色ね」
 開いた窓から外を見て、環菜は呟く。本当に旅行にはうってつけの、良い夜だった。

 翌日の朝、もう1度露天風呂を満喫してから御神楽夫婦はツァンダへの帰途についた。両手には、土産物屋で手に入れた温泉饅頭や掘り出し物の飾り物などをたくさん持って。
「楽しかったですね」
「ええ、今回はありがとう、陽太」
「はい。また……何か計画しましょう。楽しいことを」
 昨晩星の瞬いていた夜空には、白い太陽が昇っていた。