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【蒼空ジャンボリー】 春のSSシナリオ

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【蒼空ジャンボリー】 春のSSシナリオ
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リアクション

 第1章 どたばたなお菓子作り
 
 
「え? 料理を作りたい?」
 フィリス・ボネット(ふぃりす・ぼねっと)にそう言われて、霧丘 陽(きりおか・よう)はきょとんとして聞き返した。やる気満々という感じで「おう!」と答えられ、そのままの表情で1度、目を瞬かせる。
(……頭でも打ったのかな?)
 陽は料理が好きで、日々の食事はもちろん甘味処も経営している。フィリスはいつも、食べる専門の方なのだが。
「うん、じゃあ作ってみようか」
「ああ、よろしくな!」
 珍しいけど、いい心がけだとは思うし一応教えてあげよう。そう思い、陽はキッチンへと歩いていく。
(フィリス、よっぽどおなかがすいてるのかな?)

 手ずからに料理したい。フィリスがそう思ったのは、ある少年に礼をしたかったからだ。
 ――いつも勇気を分けてもらってるからな。何か手作りのもん、やりたいし。
 冷やかされるのが嫌だから、陽には真意は言わない。けれど、それを食べて喜んでもらえたら、と思うのだ。
 だが、何を作ればいいのかわからない。
 喜んでくれる料理って、なんだ?
「陽、何か好きなもの言ってみろよ」
「……え、僕が好きな料理?」
 考えてもイメージが湧かず、とりあえず参考に、と聞いてみる。だが、返ってきた言葉は全くもって、これっぽっちも参考にならないものだった。
「卵がけご飯だよ」
 ごっ!!
 フィリスは拳でツッコミを入れた。
「!! !?」
「卵がけご飯とか馬鹿か!」
 ――絶対喜んでくれないだろ!
 アイツの顔を思い浮かべて、そして勢いに任せてそう言おうとして、寸前で口を噤む。そんなこと言ったら、「え? 誰が?」という話になってしまうのは目に見えていて。
「〜〜〜〜っ!」
 何と続けようか思いつかない。その間に、だんだん顔が熱くなってきて。目を丸くしていた陽はその様子を見て首を傾げ、それから別の料理名を提案する。
「? だったら、フィリスが好きなマカロンを作ってみたらいいんじゃないかな?」
「マ、マカロン!」
 確かに、味や食感はもちろん、その可愛らしい形もフィリスは好きだ。大っぴらにした覚えはないけど……バレてる?
「べ、別に好きでもないが作ってやるよ!」

「……今度こそ!」
 白くて丸くて、少しざらりとしている、卵。うまく割れずに、フィリスは新しい卵に手を伸ばす。その隣で、陽はボウルの中に目を落とした。
(卵すらうまく割れないのか……殻入っちゃってるよ……黄身割れちゃって白身と分けられるような状態じゃなくなっちゃってるし……材料費かかる)
 でも、フィリスは強がって何度も挑戦している。キッチンに山となった卵の残骸に、散乱する透明の卵パック。
 ――うまくいかなくても、何度でも、何度でも挑戦して絶対においしく作りたい。
 ――アイツに喜んでほしいから、もっともっとアイツの笑顔が見たいから……
 フィリスのその思いは、こうしている間にも強くなる。でも……この胸の痛みはなんだろう。
 今でも幸せなはずなのに、もっと傍に居たくなる……。
 恋なんて、柄でもないし……
(っと、今はマカロン作りだ!)
 そして、更に時は経って。
「陽! できたぜ!」
 ほぼ半分に割れた殻を片手に、フィリスは会心の笑みを見せる。確認してみると、確かに一応、できたみたいだ。
「じゃあ、メレンゲ作ろう。砂糖入れてー」
 次はグラニュー糖を使用分だけ量り、卵白に入れて泡立てる。泡立て器でひたすらに混ぜていくのは結構大変な作業だけれど――
(嘘っ……メレンゲ疲れたとか絶対途中で投げ出すと思ったのにがんばってる! 何が起こったの!?)
 真剣に取り組む姿に、陽はただただびっくりするばかりだ。相当おいしくマカロンを作りたいのか、フィリスは必死になって作っている。
「自分で食べるためにがんばるなあ……食い意地張ってるなぁ」
 ついつい、そんな声も漏れて。
「! また!? 痛い……」
 直後、「…………!!」と振り向いたフィリスにずごっ!!! と殴られた。
 涙目で抗議しようとするがフィリスは既に作業に戻っていて、何となく、じーっと見詰めてしまう。一生懸命な表情だ。
(……こんなフィリス、珍しい。自分で食べるためだとはいえ、諦めないっていいよね。僕も、できる限りのお手伝いをしてあげよう)
 勘違いをしたまま、2人でお菓子作りに励む。フィリスが中に挟むクリームを作っている間に陽はメレンゲを天板に絞り出し、それをオーブンで焼き上げて。
「できた! 見た目にもこだわって、ピンクのハート型にしたよ。女々しすぎるかな? ……って、フィ、フィリス顔真っ赤! ハート嫌だった!?」
 フィリスの反応に、陽はびっくり仰天した。でもよくよく見ると、ハートが嫌というよりは恥ずかしがっているような。そういえば、クリームを挟んでいる仕草とか、何かぎこちなかった気がする。
 自分が食べるのに、何を……、と不思議に思いながらも陽は笑顔で言葉を続け――
「最後までフィリスはがんばったね! さあ食べ……あれ?」
 気が付くと、お菓子とフィリスの姿はどこにもなかった。
「持ち去られた……!!」
 ひとりで食べるなんて! と、陽は愕然とするのだった。