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第3章  うみへ


 照りつける陽射しは、生徒達の身体をじりじりと焼いていく。
 とにかく、暑い。

「……こっちはさ、危険はないんだよな?
 ないんだよな?」
「あぁ、ここ最近はなにもないはずだぜ?」
「そうか、まぁ念のため……」

 山に敵が出ると聴けば、海にも同様の危険を疑うのが筋。
 風祭 隼人(かざまつり・はやと)が心配するのも、無理はない。
 匡壱の返事に安堵しつつも【殺気看破】と【イナンナの加護】を発動した。

「山へ行った生徒達も順調そうだ。
 中腹付近で休憩中だと」

 事前に校長室で作戦会議をしたため、参加者達は顔見知り。
 隼人の【テレパシー】を使えば、他のコースとも連絡がとれるのだ。

「邪魔が入らなければいいが……」
「えぇ、刀を抜くような事態は、できれば避けたいですから」

 呟くセルマ・アリス(せるま・ありす)は、その背に『黎明槍デイブレイク』を負う。
 腰の『銘刀・桜雪』に触れたは、リンゼイ・アリス(りんぜい・ありす)
 しかしどちらも、戦闘を望んでいるわけではない。
 むしろ、なにごとも起こらなければそれが最善だと考えていた。

「みんな!」

 そうして、思い至った結論。

「邪魔者がいれば、俺とリンで引き受ける。
 だから、みんなは甲殻類の捕獲に集中して欲しい」
「何か邪魔になりそうな生物等々が居れば【千眼睨み】で動きを止めます。
 セルのサポートがありますので、そんなに難しくはないでしょう」

 セルマとリンゼイの言葉に、皆もしかと頷く。
 もちろん2人が困っていれば助けるとも、仲間達は言ってくれた。

「それではセル、行きましょう」
「あぁ。
 人の命が懸かっているんだ、急ごう!」

 【ホエールアヴァターラ・クラフト】に乗り、リンゼイはセルマを呼ぶ。
 小島を見据えた怖いくらいの眼差しが、事態の重さを物語っていた。

「海、か……」

 一言。
 ただその一言を、瀬山 裕輝(せやま・ひろき)は零した。

(ハイナは総奉行で、房姫が危ない、っちゅうだけなんかも知らんが……)

 裕輝は、自分をなかなか理解できずにいる。
 別段、それで困っているわけではない。
 ただ周囲と異なるらしい感性を持っていることに、戸惑いを感じているだけ。
 今回も、いつもと同じだった。

(そう感じるべき時に、なんも感じひん。
 ただ、感じな『あかん事や』いう倫理観が自分の中に強くあるだけや……)

 ハイナの危機をきっかけに、葦原明倫館がひとつになろうとしている。
 そんななか、自分はどう動くのかと。
 本当は何も感じていないから、感じているフリをしなければならない。
 しかし一方ではその演技がバレることを恐れているから、必要以上に振る舞いが倫理的になる。
 そして否定的になってしまう、そんなスパイラル。

(裕輝はまた思い悩んでいるのですね。
 ……いつものことです、放っておきましょう)

 話しかけたとしてもどうせ、喧嘩になるのは分かりきっている。
 だから鬼久保 偲(おにくぼ・しのぶ)は、裕輝にたいして敢えてなんのアクションもとらないことを決めた。

「すべて斬ってしまえばよいのですよ。
 自分のイヤな部分なんて、すべて……」
(ただ単に、相手を刀で斬ればよい。
 刀で斬れぬならば、打てばよい。
 刀で打てぬならば、鞘で打て。
 鞘で打てねば、礫を使え。
 礫が使えねば、拳を使え……とな)
「ふむ、その考え方には興味がありますな……」

 小声で言ったにも関わらず、偲の声に反応したゲイル。
 誰でも皆、許せぬ部分のひとつやふたつ、持っているものだと。
 海を渡りながら、情緒的な話もしてみるのである。