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リアクション
着弾地点にはまるで隕石が落ちたかのような穴ができていた。
「外した?」
「……外してくれたんだよ。当てようと思えば当てられたはずさ」
「だとしても、椿と牡丹に銃口を向けた罪、裁かなければな」
樹、アルクラント、ネオスフィアが順に喋る。
「でも、もう一度打たれたらまずいんじゃ?」
「あんなに大きいんじゃ、手を握れません……」
「なでなでもできませんね」
「……安心しろ。連続では打てんからな」
甚五郎が元の姿に戻って、そう告げる。バッチの力を借りようともその膨大な力の消費量を考えると、連発はできないのだ。
「どうして、そんなことを教えてくれるんだ?」
「……気まぐれだ。さあ、行くぞ。数が数だ、こちらもこやつらを使わせてもらう」
すると、どこからともなくモブ怪人が現れる。まるで某RPGの青いモンスターのようにどこからともなく気配無く。
「なあ、あれってもしかして」
「その通りだ。彼は揺らいでいる、もふもふの前に。だからこそ私たちは私たちのやり方を貫き通そう!」
モブ怪人たちが六人に突貫する。
「それじゃまずは俺からであろう! 少し暴れさせてもらう!」
一番に飛び出したのはネオスフィア、必殺技『猫氷術』(猫の姿で撃つ氷術だから)をモブ怪人たちにお見舞いする。
「少しくらいはやらせてもらっても、いいであろう?」
「もう、あんまりひどいことしちゃだめですよ?」
「ああ、今改心したもうしない」
「それじゃ怪我をした人、大丈夫ですか……? 痛いの痛いのとんでいきますよーにっ……です」
怪我を負った怪人たちをなでなでしながら『命のうねり』で心身ともに癒していく椿。当たり一体のほわほわ度が増していく。
「そこまでです。このシステムエラーの原因は、あなたたちと断定しました。排除します」
そこに現れたのはブリジット。原因不明のシステムエラーを六人のせいだと判断し、迎撃に打って出たのだ。
「やるのというのな、俺が相手なのだよ?」
「休日を取り戻すためなら、俺は誰だって倒す覚悟がある!」
椿の前にネオスフィアと樹が立つ。それを見るや否や、ブリジットが空から攻撃を仕掛ける。
通常攻撃に加え、ミサイルポッドでの追撃。
「やめるんだ! 戦いを続けても、平和は訪れないんだ!」
「……あなたたちはイレギュラーです。ミラクルバッジはハデス様を選んだ。
パラミタ全土の意思、全人類の無意識が! ハデス様の世界征服を望んでいるのです!」
『ガンファイア・サポート』で更なる攻撃を仕掛ける。ネオスフィアとアルクラントかどうにかこれを凌ぐ。
「観念してください、イレギュラー」
「そう、私たちはイレギュラーだよ。戦場の中にでさえ、平和を求めるそんなイレギュラーだ。だが君のシステムエラーは、それを求めているんだ。私はそう考える」
「そんなことは、ありません!」
更なる追撃を繰り出そうとするブリジット。だが、彼女になり続けるシステムエラーがそれを拒否。動けないブリジット。
「こんな、どうして!?」
「今だ! 必殺技を使うぞ!」
「ああ!」
「わ、わかりました」
「必殺! 『ぽわぽわ劇場』!」
樹と東雲が返事をして、アルクラントが宣言するとともに上空から縁側が降ってくる。
『ぽわぽわ劇場』とは、縁側でぽわーれんじゃーがひたすらじゃれあう姿を見せられ、いつの間にか戦意喪失に陥っているという恐ろしく平和的な必殺技なのだ。
「さあみんな! 思う存分にくつろぐのだ!」
「あーなんで休日にこんなことをしてるんだろう、俺……」
「まあ、そういうこともありますよ。お茶ともふもふどっちにします?」
「もふもふする」
「はい、どーぞ」
休日が台無しになりつつある樹に、もふもふを提供する椿。
「わ、私ももふもふしたいです……」
「牡丹、俺の着ぐるみもふもふだよ、触ってごらん」
「うわぁ、ホントです……もふもふでぽわぽわです……」
「ああ、癒される」
自らの着ぐるみを牡丹にもふもふしてもらって癒されるネオスフィア。
「そういえば、東雲は少しだけ声が小さかったね。もっとお腹から声を出すのはどうだろう?」
「お腹から、ですか。それじゃ力をいれて、いれて……うぅ〜……」
「……東雲はまず、もう少し基礎体力をつけたほうがいいな。椿、すまないが頼む」
「はい、わかりましたー」
「……何ですか、これは」
見せ付けられた超絶的なまでに平和な場面。隙だらけのはず、なのに攻撃ができない。
「システム解析完了……『ぽわぽわ』? これが、彼らの戦い方。これもまた、私の知らない戦い方。……しかしエラーが止まりません。どうすることもできない。……自爆の許可を」
「ついでに言われてもな。後ろに下がれ。おぬしは負けたのだ、彼らの戦法に」
「……了解です。ですが、負けたというのに、なんともいえない、満足感でしょうか。これは一体?」
「わからぬが、そういう戦い方もあるのだろう」
『どうするのですか? このままでは防戦一方ですよ?』
「このような戦いなど、想定していないからな。怠っていた、と言うべきか」
もはや、モブ怪人すら手出しをしようとする者はおらず、ぽわーれんじゃーがまさかの大健闘を見せていた。
「さあ、もう一度聞くよ。そこをどいてはくれないか?」
「……ならぬ。おぬしらの戦い方は奇怪だが、現にわしたちは完封されつつある。だがそれでもここだけはどけん。それが最後の抵抗だ」
「成る程、こちらが動かないのならそちらも動かないと。戦意はあれど、牙をむくほどではないと、いうことだね?」
「そうなるな」
『いいんですか? 認めてしまって』
「今更だ。何にせよ、やることは変わらん。わしはここから動かん、だが奴らが動くというのなら戦おう」
甚五郎が取った行動、他の相手にならばともかく、ぽわーれんじゃーにとっては非常に有効な手段だ。
ぽわーれんじゃーの戦い方は「相手の戦意を喪失させて、攻撃をやめさせる」というもの。攻撃の意思があるものには絶大な効果を発揮する。
しかし戦意がない相手の場合にはその効果は無いに等しい。甚五郎は自らからは戦わず、相手が牙をむけばこちらも相応の対処をすると言った戦法。
つまり、ぽわーれんじゃーは動かない、甚五郎もあえて動かない、膠着状態が発生するのだ。
「座して待つしかない、か」
「俺の休日が……」
「お茶にします? もふもふにします?」
「もふもふで」
長期戦を覚悟して、ぽわーれんじゃーたちも甚五郎にぽわぽわ現場を見せ付ける。
だが、一人だけこの場の硬直を壊そうとする者がいた。
『……シルバー! もう一度お見舞いするのじゃ、そうして警告する。三度目はないと!』
「三度目と言っている時点で、おぬしの攻撃の意思も薄れているではないか」
『それでもじゃ!』
「……気が乗らぬ、が変わらぬのであればやってみるか」
「あっ……」
甚五郎が立ち上がるのを見て、牡丹が走り出す。
「ぼ、牡丹!? そっちは危ない!?」
ネオスフィアの静止もむなしく、牡丹は甚五郎の傍まで来てしまった。
「……敵のわしに、何かようか?」
「あ、あの……大きくなっちゃうと、できないので……それで……」
しばらくおずおずとしていたが、そのうち思い切った牡丹が自分の両手で甚五郎の手を握った。
「……これは?」
「もふもふです……。こうすれば、みんなぽわぽわで幸せになるんです……」
「……そうか」
しばしの間、緊迫した空気の中で甚五郎にもふもふを施す牡丹。それからしばらくして甚五郎が口を開く。
「ホリイ、後は頼む」
『はーい』
「わわっ、いきなりお姉ちゃんがっ」
「初めまして、ホリイ・パワーズと言います。ワタシももふもふしていいですか?」
「は、はいっ……」
「うわぁ、これ本当にモフモフですね。……これは負けちゃっても仕方ないですね」
ホリイがそう言う。それを聞いたであろう甚五郎も、何も言わない。
「……通してくれるんだね?」
「……よもや、このような戦法に負けるとは。天晴れだ、ぽわーれんじゃー」
『何を言っている! 応答せんか! シルバー!?』
「悪いな、羽純。わしもまだまだのようじゃ」
『シルバー!』
羽純からの応答をやめ、甚五郎が言う。
「あやつにも見せてやってほしい。おぬしたちの力を、わしが、負けた力を」
「大丈夫。あの船の中に一人、でっかいのが向かっていったから」
「そうか」
甚五郎との通信が途絶えてしまった羽純が無線機を叩きつける。
「くそぅ、一体どんな手を使ったと言うのだっ」
「こういう手だと言うのだ」
もふっ―――。
「なっ!?」
「俺としてはここで一暴れしたいところだが、だめだと言われているのでな」
船内にいた羽純を着ぐるみで捕らえたのは、ネオスフィアだった。
「は、はなせっ」
「もがけばもがくほどもふもふの餌食になるがいいのか?」
悠久の翼号にいた、羽純を捕まえてもふもふするネオスフィア。このもふもふの前に程なくして羽純も戦意を喪失させるのだった。
「もふもふとは脅威、偉大なものよ。今度わらわたちも導入してみるか」
「それは遠慮しよう。わしらにはできん」
すっかりもふもふの虜になった羽純のとんでも発言に、ストップをかける甚五郎。
「でも素敵だと思いますよ? 争わないで戦闘を終わらせる」
「ワタシにも、できるでしょうか?」
「ブリジットには、他の戦いがあるであろう」
ちらっとブリジットのメタリックボディを見てから答える甚五郎。
「すっかり元に戻ったみたいだね」
「おかげで、洗脳が解けたようだ。ここからはわしらもヒーロー側の助力をしようと思う」
「心強いな、頼むよ! これで休日が帰ってくるかもしれない!」
甚五郎の答えに、ニカっと笑って言う樹。
「それでは、共に戦おう。やり方は違っても」
「目指すべき場所は、共に。健闘を祈る」
お互いに別れを済ませてそれぞれの目的地へと向かおうとする。ぽわーれんじゃーたちはオリュンポス・パレスへ、甚五郎たちは他のヒーローのバックアップへ。
「ああ、忘れていた。すまぬが、おぬしの名は?」
「わ、私ですか? 白雪ぼたん、と言います……」
「牡丹、いい名だな。ぽわーれんじゃーのリーダーの名に恥じぬ」
「わ、私がリーダーって……いいましたっけ……?」
「敵であったわしに、攻撃されるかもしれないにも関わらず近寄ってきたその勇気。まさしくリーダーに相応しい。見事だった」
「そ、そんな……」
「これからも、頑張ってくれ。わしもおぬしのような勇気を持ったリーダーになる」
そっと、握手のために手を差し伸べる甚五郎。
「は、はいっ……!」
差し出された手に、真っ赤になりながら答えて握手をする牡丹。
「ありがとう。よし、それではなっ! うおおおおおお! 気合じゃああああ!」
「いつも通りではないか!」
「いつも通りですねー」
「いつも通りです」
そう言って去っていく甚五郎。後姿を見送って、牡丹率いるぽわーれんじゃーも平和をもたらすために、目的地へと急ぐのだった。
「平和を愛するぽわぽわ系、ふわふわ染隊ぽわーれんじゃーのおかげで第二戦線も突破しました! ヒーローたちの快進撃が止まりません! このまま怪人たちは突き崩されてしまうのか!? そして継続して迷子の情報です。私のパートナーであるベルセヴェランテを見かけましたらわたくし、虎子までご一報お願いしまーす!」
今だ姿が見えないパートナーを探しつつ、実況中継を続ける虎子。
虎子の言う通り、第二戦線も各ヒーローたちが怪人を撃退、あるいは正気に戻らせたおかげで、ここを突破することに成功。
そして謎ハデスがいるであろうオリュンポス・パレスへもあと一歩のところまで迫った。このまま、ヒーローたちは悪の根城に辿りつくことが出来るのか?
続きは、次のページで。
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