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ジヴォート君のお礼参り

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ジヴォート君のお礼参り

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★Let’s Party!とか聞くと、眼帯を思い出す★


 涼司たちが屋敷につくと、すでにパーティは始まっており、イキモが笑顔で全員を出迎えてくれた。その際に事件について軽く説明すると、イキモがすまなかったと謝罪。そんな時、肘でつつかれたジヴォートが居心地悪そうにイキモをお化け屋敷へ誘おうとしているのを全員で見守った。
「う、その……」
「どうしたんだ、ジヴォート」
 ぎこちないのはどちらかというとジヴォートの方らしい。しどろもどろになりながらお化け屋敷へ誘うジヴォートに、イキモの返事はもちろんOKだった。

 そんなホームドラマのようなものを見てほっこりした一同が屋敷の中へと入ると、まず聞こえてきたのは美しい音色。そして漂うのは食欲をそそる匂い。天井に垂れさがった巨大なシャンデリアの光を浴びている煌びやかなパーティ会場。
「別室に衣服など取り揃えておりますので、よろしければそちらで着替えていただいて結構ですので」
 普段着のままでは入りづらい華やかなパーティ。イキモがそう言って促した部屋には色とりどりのドレスがあり、女性人たちが歓喜した。もちろん、男性用の正装も取りそろえている。
 せっかくの好意ということで、全員着替えてからパーティへと参加することにした。



「彼がイキモ・ノスキーダか。
 動物に関わる依頼を何度も受けたと聞いたが、確かに動物好きそうだ」
 イキモを遠目に確認したグラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)は、そうホッと息を吐きだした。
「グラキエス様、お疲れのようですね。立食式とは言え休める場所も用意してあるでしょう。聞いてきますので、少々お待ちを」
「……彼なら、頼めばスティリアとガディにも料理をくれるだろうか?」
「ええ、スティリアとガディの事も聞いてきましょう」
 エルデネスト・ヴァッサゴー(えるでねすと・う゛ぁっさごー)がグラキエスの願いをかなえるためにイキモの元へと向かっている間、アウレウス・アルゲンテウス(あうれうす・あるげんてうす)はグラキエスが食べておいしいと言った料理を真剣に見つめていた。
「主よ、気に入った料理はありましたか?」
「そうだな。これは美味しかった……それがどうかしたのか?」
「いや……その、実はですね……料理の修練をしているのです。なので、主が気に入った料理があれば覚えておきたいと……」
 アウレウスは、グラキエスのことを思って料理を勉強し始めていた。その心が嬉しかったグラキエスは「ありがとう」と素直に喜ぶ。
(主が俺に無垢な笑みを! 俺が料理をする事を喜んで下さった!
 見ていろ悪魔め……。いつか貴様の下心を含んだ料理など敵わぬ美味を供して見せる!)
 アウレウスが新たな決意を胸に秘めている間に、エルデネストがイキモを連れて戻ってくる。
「お話はお聞きしました。外におられた立派なドラゴンのご家族の方ですね。料理の方は喜んで用意させていただきます。ですが」
 イキモは一端言葉を切り、恥ずかしげに頬を撫でた。
「ドラゴンの生態については詳しくなく……何か採ってはいけない食べ物などございますか? 刺激物やカカオ、ネギなどがダメであったりなど」
「ああ、それなら」
 しばらく料理の話をしてから、グラキエスたちは料理を持って外で食べることになった。
「休憩室もありますからお疲れでしたらそこへ……あと遅くなりましたが、以前はお世話になりました」
 ペコリと頭を下げたイキモは、料理を熱心に見つめるアウレウスに気づき、レシピを料理人から直接聞けるように手配した。
「ではごゆっくりお過ごしください」
「ありがとう」
 グラキエス、エルデネスト、アウレウスは屋敷の外、パーティの音楽が消える場所でスティリアとガディと共に穏やかな時間を過ごしたのだった。
「スティリア、ガディ。これ美味しかった。食べて見るか?」
「ああ、飲み物がなくなりましたね。とってきます」
「主が好きなのは……これと、これに」



「せっかく来たんだし、食事を楽しまないとね」
 宣言通り、笠置 生駒(かさぎ・いこま)は食べ続けていた。和洋折衷だけでなく見たことのない料理まで多種多様に並んだそれらを、片っぱしから食べ続ける。
「これ生駒。はしたないぞ」
 そんな生駒をたしなめるのは、猿……じゃなく、ジョージ・ピテクス(じょーじ・ぴてくす)だ。反論しようとした生駒だったが、ジョージの手にあるものを見て白い目を向けた。
「だって美味しいし……」
「ん? なんじゃ、その目は」
 ジョージの手にあるのはタッパー。どうやら持ち帰ろうとしているらしい。そちらの方がはしたないだろう、と生駒はジョージを冷ややかに見つめつつ食事を続ける。
「おやジョージさんと生駒さん。今回は大変お世話になりました。料理はお口に会いましたか?」
 そこへイキモがやってきてにこやかに話しかけてきた。
「はい。とても美味しいです」
「それはよかった」
 とそのとき、イキモがジョージのタッパーに気づいた。生駒がしまった、と思ったがもう遅い。
「お持ち帰りされるのでしたら、こちらに言ってくださればよかったのに。痛まないようにきちんと用意させていただきますよ。どちらの料理をお気に召されましたのでしょうか」
「ふむ。それなら」
 イキモの言葉に嬉々として頼むジョージ。生駒は申し訳なさそうにするが、イキモはただ笑った。
「いえいえ。残ってしまうともったいないですし、持ち帰りたいほど気に入っていただけたならうちの料理人も喜びますから」
 そう言ってジョージが頼んだ料理を包み、手土産にしてくれた。



「おや、海さんと……そちらの方々は?」
 招待客に挨拶をして回っていたイキモが高円寺 海(こうえんじ・かい)の姿を見て駆け寄ってくると、そのそばには杜守 柚(ともり・ゆず)杜守 三月(ともり・みつき)がいた。直接の面識はないため、海が2人をイキモへ紹介する。
「アジトの時の……それはそれは、ありがとうございました。私はイキモ・ノスキーダと申します。本日はごゆっくりなさってください」
「いえ、少しでもお役に立てたなら嬉しいです」
「そう言えばたくさん動物がいるって聞いたんだけど、今日はいないのかな?」
 パーティ会場を見回した三月がそう言うと、イキモは首を振った。
「別室にいますよ。さすがにここは料理が置いてありますから」
 なるほど、と頷く。三月は先ほど食べた料理がとても美味しかったと述べ、イキモは嬉しそうに笑った。
「……よかったら会ってやってくださいませんか? アジトでとらえられていた子もいますから」
「いいんですか?」
 幼いころからあまり動物に触れあったことのない柚が喜び、3人はイキモの案内で動物たちがいる部屋に向かうこととなった。
「なんとなくですけど、海くんって動物に好かれるタイプっぽいですよね」
「そうか? ……まあ嫌いではない」
「ふふっつまり好きなんですね」
「……別に、嫌いじゃないだけだ」
 海と動物について話し合っている柚を見て、三月はイキモへ話しかける。
「ところでここには狼っているのかな? 僕は狼の獣人だから気になって」
「そうなのですか。ええ、いますよ。良かったら話しかけてあげてください。とてもさびしがりやな子でして」
「寂しがりやな狼さん、ですか?」
「まだ子供なのですが密猟の被害に遭い、親狼と離れ離れに……自力で生活できるように、今訓練しているところなんです」
 イキモの話を神妙に聞きつつ、3人はその部屋にたどり着いた。中には丸々したリスや変わった毛並みの猫、猿、犬、ゴリラ、馬やユニコーンまでが各々自由に過ごしていた。
「っとと」
 一匹の猫が海の頭に乗った。三月がその様子を笑いながら
「海は家で何か動物飼ってたっけ?」
「笑うな。……いや、いないが」
 怒りつつもどこか柔らかい表情で猫を見つめているので、海も動物は好きなのだろう。しばし3人はそこで談笑し、パーティが終わるころには片付けの手伝いも申し出た。
 イキモは最初断ろうとしたが、柚の海への態度を見て察したらしく、ではお願いしますと頭を下げた。
「なんで片付けを」
「三月ちゃんも海くんもお手伝いしてくれますよね?」
「力仕事は任せて! 海もするよね?」
「うっ」
 少しでも好きな人とともにいたいと願う乙女心である。