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リアクション
第4章 リア充なんて大嫌い、リア充、地獄へ落ちろ! Story2
「探知役がいないのは問題だが…。アニス、まだ大丈夫か?」
「にひひっ、大丈夫♪」
「まずは、2人を家へ帰さないとな」
女を慰めながら道を聞いているコレットのほうへ顔を向ける。
「お話…聞けそうかな?」
「どうだろうな、だいぶショックを受けているようだ」
恋人と別れることになるかもしれず、不安でたまらない彼女は、泣き止む様子を見せない。
「家までまだ遠いのかな?」
「―…いえ、もうすぐです。あの街灯の向こう側…あれが、私の家です」
「誰かと一緒に暮らしてるの?」
「私は独り暮らしなんです」
「そうなんだ…。…辛いこと思い出させちゃうかもしれないけど。どこか記憶がなかったり、いきなり気分がイライラッてなってきたりしなかった?」
「彼と…露天でデートしていて、髪飾りを選んでいたんですが。そこから…どこかの通りにいた時の間が思い出せません…」
「(そこから呪いにかかっていたか、もしくはグラッジに意識を支配されていたせいで、記憶がないんだろうな)」
天城 一輝(あまぎ・いっき)は2人の会話を聞きつつメモを取る。
「で…その…彼と、あなた方をどこかの通りで見た時…、理由もなく…なんだかイライラした気分になっていました。何を言っていたか、覚えていませんが…」
「それは思い出さないほうがいい。…記憶が途切れる前のことは思い出せるか?」
「見慣れない何かを見た、もしくは言葉が聞こえた…など、なんでもいい」
一輝に続けて和輝も質問する。
「ぇっと。不幸になるお前を見てみたい…と、どこからか聞こえたような…」
「露天で?」
「はい。他にも途切れ途切れでしたが、お前たちの仲を破壊してやるとか……」
「(そっちはグラッジだな。不幸うんぬんと告げたほうは、まったく別の魔性の仕業か)」
和輝は話しの内容を分析し、前者は呪術を扱う魔性で間違いないだろうと判断する。
「先に言葉を投げてきた者の姿は見たか?」
「いいえ…、見ませんでした」
「そうか。状況提供、感謝する」
礼を言うと和輝たちは女が扉を閉めるのを見届け、民家から離れた。
「次は旦那さんを、奥さんのところへ送ってあげなきゃね」
今度は北都とリオンが先に進み、被害者の自宅へ向かう。
北都たちが一軒屋の民家へたどりつくと、夫の妻が心配そうに家の前でうろうろとしてた。
「奥さん、旦那さん元通りになったよ」
「あぁ……っ、よかった…。本当に…うぅっ」
妻は涙を流し、亭主に抱きつく。
「ごめんよ。何があったのか、あまり覚えてないんだけど…。お前に酷いことをしてしまったみたいだな」
「ううん、いいのよ。無事にあなたが戻ってくれれば、そんなことどうだっていいわ」
「―…あの」
「ぁ、すみません。ありがとうございました」
「ほうっておけないから、当然のことをしただけだよ。それよりも、突然性格が変わっちゃった人って、皆若い人ばかりなのかな?」
「いいえ。小さな子供や、年配の人も暴力をふるうようになったり、…なかには凄く元気な人が急に、暗い感じになってしまったり…」
女はかぶりを振り、年齢は関係ないと教える。
「周りの人で、よく不幸なことが起こったりしていない?」
「んー…。何人か…、最近運が悪くなったと言っていましたね」
知り合いが話していたことを思い出しながら言う。
「それっていつかな?」
「海に行った後、急に運がなくなったみたい。家でサソリに刺されそうになったり、夜中にタランチュラが顔の上にいたとか…」
「―…うわ、やだねそれ…。あなたたち夫婦には、いやなこと起きていない?」
「夫が……いきなり暴れてしまったこと以外ありませんが」
「何も問題ないんだね?いろいろ教えてくれてありがとう」
夫婦が家に入るのを見送り、民家から離れた。
「いけないよね、こういうこと…」
コレットは顔を俯かせ、デジタルビデオカメラの電源を切る。
「どうしたんだ?コレット」
「情報収集用に録画しようかなって思ったんだけど、もう…それどころじゃないよね」
苦しむ犠牲者の前で、のんきに撮っている場合じゃないと思い、撮りかけたデータを消した。
「そうだな。どうしても見たんだったら、先生たちにダビングデータをもらうしかないな」
「うん…」
「和輝、悪霊の接近はないか?」
「アニスに聞いてみるか。(アニス、何か接近してきたりしていないか?)」
精神感応でパートナーに訊ねる。
「(いくつか気配を感じるよ)」
「天城、何者かがこちらへ接近しているようだ」
「悪霊か?」
「たぶんな…。なんだ…人か?」
「(―…和輝、その人の近くに何かいるよ!)」
「(なんだと?)」
「(あ……、その人の気配が消えちゃった)」
姿が見えているのにも関わらず、アークソウルが輝きを失った。
それが、グラッジに憑依されてしまったのだ。
「(闇が近づいてくる…、…魔法か?アニス、宝石で術に対抗するんだ)」
花売りの子供の足元から伸びる闇から視線を外さず、パートナーに指示する。
「(おっけー♪)」
アニスは箒で和輝の前へ飛び、アンバー色の光の壁を出現させる。
「(むむ〜〜っ!!)」
闇は黒々とした泥のように侵食していくが、アークソウルの輝きに押し戻され、外へ弾かれてしまった。
魔法を弾かれようとも、グラッジは憎いリア充撲滅のため、諦めようとしない。
「またエンドレス・ナイトメアを使ってくる気だよ。リオン、僕が裁きの章を使ったらすぐ唱えて」
気を沈めた北都は、詠唱に集中する。
「(和輝〜…っ、ちょっとやばやばかもー…)」
「(もう少し耐えてくれ、アニス)」
「(ぅ…うん、和輝が言うなら頑張る!)」
「裁きの章か…。リオン、援護してやってくれ」
「承知した」
和輝の指示に頷き、逃がさぬように憑依体の背後へ、酸の雨を降らせる。
かわされてしまったが問題はない。
「フンッ、愚かなやつめ」
リオンは“はまったな”と冷笑する。
「感情に任せては回りが見えなくなってしまうぞ」
「―…やっと浴びせられたね」
「ゥゥウ…ウゥ…ッ」
グラッジは憑依体の口を使い、恨めしげに呻き2人を睨んだ。
裁きの章の術をくらいながらも、四肢をカタカタと人形のように動かし、水瓶を叩き割り破片を掴む。
「やつめ、酸の雨をかぶったというのに、まだ動けるというのか」
「機械にも憑くらしいから、多少は効いているはずだけど…。リオン、今のうちに!」
「はい、北都!」
光の嵐で憑依体の進行を阻もうとするが…。
それに気づいた魔性は飛び退き、かわしてしまった。
「私が押さえ込んでいる間にお願い」
美羽は悪霊に意思を奪われている者の懐へ飛び込んでいく。
「シ…ネェエエッ!!」
しかし相手もただ捕らえられるわけもなく、陶器の鋭利な破片を少女の腕に突き刺す。
「―……っ」
「(美羽さん、そのまま耐えてくださいっ)」
今すぐにでもパートナーを助け出したい気持ちを我慢し、ベアトリーチェは哀切の章を唱える。
「早く祓わなきゃ、毒が侵食していっちゃうよ」
「焦りは禁物だ、コレット。術の威力を低下させてしまう」
「分かってるって、オヤブン」
「リオンももう一度お願い」
「はいっ!」
速やかに器から祓うべく、ベアトリーチェ、コレット、リオンの順に術を行使する。
器の中に潜むグラッジは憑依する力を失い、剥がされるように外へ飛び出た。
「(アニス、あいつに近づいて大丈夫か?)」
「(だぶん…。もう、抵抗する力もないはずだから…)」
“まだ気を許すな”と意味を含んで言う和輝に、頷いたアニスは注意深く気配の傍へ寄る。
箒から降りてちょこんと屈み、嫉みの念が消えきれない悪霊を、ゆっくりと説き伏せる。
「(―…どうだった?)」
踵を返し箒に乗って戻ってきたアニスに、説得出来たのか聞く。
「(嫉む気持ちが全部消えたかは分からないけど、いたずらはやめてくれたと思う)」
「(疲れているところ悪いんだが、あの子供に呪いがかかっていないか、見てやってくれないか)」
「(うん、また危ない目に遭っちゃうかもしれないもんね)」
眠っている子供の傍に座り、呪術にかけられているかペンダントに触れて確かめる。
「(―……大丈夫。影が出てこないから、かかってないよ!)」
「(そうか。ただ、毒にやれているだろうし、クローリス使いのところへ連れていかないとな)」
アニスに魔性の悪霊を探知を頼み、和輝も同行する。
「(こちら和輝。モーガン、どちらでもいいんだが、解毒薬の用意を頼む)」
テレパシーを送り、解毒薬の生成をしておくように言う。
「オヤブン、この子運んであげて」
「俺が背負っていくのか?」
「だって徒歩の人もいるじゃないの」
「ぅ…、分かったよ」
子供1人くらい運べるでしょ、と強引に渡される。
湧き水の水辺へ行くと、クリストファーが解毒薬を入れた葉のグラスを持って待っていた。
一輝は子供を背から下ろし、草の上へ寝かせてやる。
「その子供に飲ませればいいのかな」
クリストファーは子供の頭を少しだけ持ち上げて薬を飲ませる。
「気がついたみたいだね」
「―…ここ…どこ?」
「道端で倒れていたキミを、この人たちがここまで運んできてくれたんだ。気分はどうかな、どこか具合悪かったりはしないか?」
「ううん、だいじょうぶ」
「お家まで送っていってあげるね。…オヤブンも!」
家まで連れていってあげようと、コレットは子供と手をつないだ。
「俺もついていくのか」
「当然でしょ」
「(アニスはちょっと休憩したいかも…)」
精神力が間に合わず尽きてしまったと和輝に言う。
「(そうか無理はしなくていい)…悪いんだが、俺たちはここで待機させてもらう。こちらから定期的に連絡を送る、何かあったら呼んでくれ」
一輝にそう告げるとアニスの傍に座り、木陰で一休みする。
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