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突然のペット大戦争

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突然のペット大戦争

リアクション

「ねぇ店長。いいのこれ放っておいて?」
 オープンカフェの女性店員は店中で繰り広げられる騒ぎを見て、心配げに店長に訪ねた。
 店長は「ははっ」と笑い声をあげる。
「いいんじゃない?最近は暗いニュースばっかりだったし、パーッと派手なことも悪くないでしょ」
「でも……」
「心配なのはわかりますが、今は普段の仕事をしてください。大丈夫です、そのうち治まります。はい、3番テーブルにバナナパフェお願い」
「根拠になってないような……」
 彼女はまったく納得できていない表情であった。
 とはいえ、仕事はちゃんとしなくてはならない。
 バナナパフェの皿を受け取ると、彼女はいまだペット談義の激しいテラスへ歩いていった。
「お待たせしました。バナナパフェで……」
 3番テーブルに料理を置こうとして、彼女はぎょっとした。
 テーブルに座っているのがチンパンジー一匹だけだからだ。
(もう……ペット自慢はいいけど放置なんてしないでよね)
 ため息が漏れる。
 これもサービス業の辛いところだ。
 そう思って彼女は、
「ねぇキミ、飼い主さん知らない?て、チンパンジーが答えられるわけないか……」
 とやや自虐的に一人ごちるのであった。
「だれがチンパンジーじゃと?」
 と、どこからか声が聞こえてきた。
「え?」
 ふと彼女は顔を上げる。
 しかし、きょろきょろ周囲を見ても自分を見ている者はいない。
 このチンパンジーを除いて。
「えっと……?」
 まさか、と思いながら彼女はチンパンジーを見つめた。
 しばらく目をあわせていると、
「貴様はわしがペットに見えると言うのかー!!」
 と唐突にチンパンジー――ではなく、英霊のジョージ・ピテクス(じょーじ・ぴてくす)は彼女に掴みかかった。
「キャァァァァァァァァァァシャァベッタァァァァァァァァァ!?」
 パニックに陥った彼女はバナナパフェを放り投げた。
 周囲も「チンパンジーが暴れてるぞ!」「誰のペットだ!」と色めきたつ。
「貴様らも!わしをただのチンパンジーと申すか!許さん!ウキー!!」
 そんな声を聞いて彼は四方八方へ威嚇をするのであった。
(それ、ペットじゃないから)
 と人ごみに対して突っ込みをいれながら笠置 生駒(かさぎ・いこま)はテーブルに戻ろうとした。
 しかし、今テーブルに戻ると間違いなく彼女はジョージの「飼い主」と思われてしまう。
 そこら中にジョージがひっくり返したテーブルや料理が散らばっている。
「〜♪」
 彼女は口笛を吹くと、他人の振りをしつつカフェから出て行こうとするのであった。
「うう……ひどい目にあった……」
 ジョージに暴れられた彼女は、泣きべそをかきながら散乱した料理を片付けていた。
「なんでお猿さんが『わしはペットじゃない人間だー』なんて言って大暴れするのよ……そりゃ、人間はもともと猿だったろうけどさ……」
 ぶつぶつと文句をいいながら彼女はモップをかける。
 そんな彼女の後ろから「店員、すこしいいか?」と声が聞こえてきた。
「ゴミはどこに捨てればいい?」
「あ、はい。よろしければ私がお……あ……」
 振り向いた彼女は固まった。
 そこにいたのはうじゅるうじゅると無数の触手でトレイと空の容器を持って立つイングラハム・カニンガム(いんぐらはむ・かにんがむ)であった。
 その姿を見た彼女は――。
「……かせいじん?」
 と呟いた。
 イングラハムは吼える。
「貴様には我が人間に見えないというのか!!」
「またですかー!!」
 今日は帰ったら、厄払いに行こう。
 そう、彼女は心に誓うのであった。
「おい、今向こうのオープンカフェで猿の演芸ショーやってるってよ」
「バッカ違ぇよ、火星人が来襲してるんだよ!」
「はぁ?俺は猿と蛸の決闘ショーって聞いたぞ」
 カフェへ向かう途中、葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)は人々のそんな会話を聞いていた。
(猿……蛸……火星人でありますか)
 今日はパートナーであるイングラハムとカフェへ飲みにいく約束をしていた。
 だが、なにやらカフェで揉め事が起こっているようなのでイングラハムに先に行かせ、吹雪はすこし時間を置いてから入店するようにした。
 なぜか。
「さてさて、ほどよく混沌としているでありますかね」
 面白そうだから、以上。

 オープンカフェはまさしく混沌と化していた。
 ユダとエヅリコたちを中心としたグループは、ペットは「かっこいい」「かわいい」で何がいいかをまだ言い争っている。
 かと思えば方々でペット自慢を繰り返す連中もいる。
 そして猿と蛸、もといジョージとイングラハムは意気投合したのか、同じテーブルに座って乾杯していた。
 そんななか別の一角では。
「えっと、次は海鮮パスタと煮込みハンバーグとジンサワーください」
「私はチョコレートパフェとハニートーストと……」
「……あ、あのお客様」
 例の女性店員は、あまりの展開についていけなくなっていた。
 今、彼女の目の前には追加の伝票が山ほど置かれている。
 それはすべて緋柱 透乃(ひばしら・とうの)緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)の2人が注文したものであった。
 彼女達の食べ終えた食器を片付けたのも1度や2度ではない。
 いったいこの2人のどこに食べた料理が収まっているのか驚きではあるが、さすがにこれだけ食べてばっかりだと、食い逃げが心配されてしまう。
「失礼ながら……お代の方は大丈夫ですか?」
 と彼女はおどおどとしながら聞くのであった。
「あー、大丈夫だよ。もともと今日はここのメニューを全制覇するつもりで来たんだもん」
 透乃はあっけらかんとした様子で答える。陽子も微笑みながら「ええ、そうです」と余裕のある笑みを浮かべるのであった。
「なんだったらお金先払いしておこうか。はい」
 そう言って透乃はどこからか大きめな袋を取り出した。
 テーブルの上に置かれたそれはじゃらん、と音を立てる。袋の口からは大量の紙幣や硬貨が覗いている。
「は、はぁ……そうですか」
 もう、考えるのはやめよう。
 そう思った矢先、オープンカフェ全体がふ、と暗闇に閉ざされた。
 人々が上空を見上げると、そこには幽霊船『死者が乗る海賊幽霊船』が浮かんでいた。
 ロープが降ろされて、そこからいくつかの人影が伝って降下してくる。
「面白そうなことやってるって聞いたから遊びに来たよー」
 無邪気な笑顔を振りまきながら、不動 煙(ふどう・けむい)はそう言った。
 その後ろには不動 冥利(ふどう・みょうり)コール・スコール(こーる・すこーる)、そして複数のアンデッド達が着いてきていた。
「ここでペット自慢してるって聞いたんだー。煙のスペシャルハイパーペットアンデットを見せてやる!ついでに幽霊船もね!」
「アンデッドっていいよね!冥利は特にリビングアーマー。だって疲れ知らずの頑張るリビングアーマーたんにペット用ロケットランチャーで一発だけだけど遠距離できて、さらに接近戦も!一騎当千してあげても疲れ知らずなので戦闘力がすごくなりそうなんだよ!」
「コールはスケルトン好き。スケルトンはやっぱり最高だね。だってカタカタ動いてて、骨だけで軽いし。海賊幽霊船にスケルトンたんいっぱい居たら……ステキだね。死んでるから一緒にいつまでも……居てくれそう。皆皆ステキな家族……なんだよ。とんとんとんとんスケルトン……」
 オープンカフェ中が今、アンデッドペットに包まれようとしていた。
「あら、気が合いそうなのが来ましたねぇ」
「そうねぇ……おーい」
 と透乃と陽子は煙たちに手を振りながら近づいていった。
 その後ろには呪符を貼り付けられたジャイアント・ミイラとアンデッド:レイス【朧】を従えている。
 彼女達の姿を見た煙たちは「おお」と目を輝かせるのだった。
「き、君もアンデッド好きなの?」
「うん。私の自慢はこの『ジャイアント・ミイラ』だよ。自慢とか言っておいてまだうちに来てからそんなに経ってないし名前もまだないんだけど、なんといっても呪符貼りすぎてやばい感じで、しかもでかいからなんか凄そうなんだよね」
「私の自慢のペットはレイスの朧さんです。白くてどことなく美味しそうでとても可愛いんですよ」
「わぁ、いいないいな!ちょうどカフェにいるんだし、一杯付き合わない?」
「いいよー。こっちもそのつもりで声かけたんだもん」
「わぁい!みんなも行こう行こう!」
「はーい、お呼ばれします!」
「とんとんとんとんスケルトン……」
 店内が一段とざわついている。
 ともすれば当然である。真昼間からアンデッドが闊歩し、オープンカフェはさながらおばけ屋敷のような状況であった。
 席に着くと透乃はさっそくアンデッドペットの自慢に入った。
「アンデッドを飼うのも動物系より簡単だよね。何たって餌がいらないし、それに伴って食事や排泄で部屋を汚すことがないからね」
「うんうん」
 冥利は透乃の言葉に頷く。
「死んでるからこそいつまでも側にいてくれて……冥利は地祇で不老不死だから良いパートナー、家族なんだよ。いつまでも一緒に居たい!海賊幽霊船に乗ってゆらゆらり!」
「それにこの子はとっても従順で気まぐれを起こすこともないし、戦闘のお供としてもなかなか力が強くて頑丈だからすっごい優秀だよ!問題があるとすればやっぱり大きいから場所をとることかなぁ。あとは希少価値が高いというか、世界に一つしかなさそうなことかな?」
「煙のアンデッドたちも最高だよ!」
 透乃の自慢話を聞いて、煙は元気良く立ち上がる。
 そして控えていたアンデッドを一匹引き寄せた。
「この『死鎧:デュランチャー』は一騎当千使っても疲れしらずだし。それにそれに、『不動明王のランプ』から呼び出せるキングゾンビは10mあるし歩幅大きいし!そのままだと海賊幽霊船にのれないし、異臭に耐えられなかったら厳しいけど」
「でしたら朧さんがお勧めですね。なんといっても幽霊だから、場所を取らないうえに不快な臭いはもちろん騒音や必要な食費も一切ありません」
 そう言って陽子はそのアンデッド:レイスを煙たちの前に差し出した。
 ふよふよと漂うレイスの姿は、彼女達の視線を釘付けにするには充分であった。
「とんとんとんとんスケルトン……ととととんとんスケルトン……!」
 コールのテンションが上がる。
 それに合わせて周囲のアンデッドペットたちも躍るように身を震わせるのであった。
 その、傍から見るとあまりにも不気味な光景に周囲の視線も釘付けになる。
 いつのまにかカフェから退出する人たちもおり、少しづつ雰囲気がアンデッドに呑まれれつつあった。