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シナリオ一本分探偵

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シナリオ一本分探偵

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「えーっと、次は私達なんですが……」
 困ったように月詠 司(つくよみ・つかさ)が手に持ったメモを眺めて苦笑する。くしゃくしゃになったメモは二枚。
 その隣ではリル・ベリヴァル・アルゴ(りる・べりう゛ぁるあるご)が不満げに頬を膨らませていた。
「ふふふ、とっとと暴いてしまいなさいよツカサ!」
 シオン・エヴァンジェリウス(しおん・えう゛ぁんじぇりうす)が二人の後ろでニヤニヤと笑いながらジュース片手に檄を飛ばす。
「元はと言えばおまえが名乗り出たんだからおまえがやれよ!」
 リルがシオンに向かって怒鳴りつける。そもそも推理を名乗り出たのはリルの言う通り、シオンであった。だが『ワタシちょっと疲れたから後は任せたわ』と二人に丸投げしたのであった。
 そんなことを言われても司とリルはただ遊びに来ただけであり、推理など全く乗り気ではなかった。そこで用意されたのは司が手に持っているメモであった。
「あら不安なの? でも大丈夫よ! そのメモに真相が全て書かれているわ!」
 そう言って早くやれ、とシオンが司を促す。んな面倒なことせんと最初からお前やれや、という空気が流れるがシオンは全く気付いちゃいない。
「いいんですかね、これ……」
 メモを眺めつつ困った顔をする司。
「駄目だろうけど早くやっちゃおうよパパ……終わるまで帰らせるつもりないよ、アイツ……」
 そう言ってちらりとリルが振り返る。楽しそうにニヤつくシオンがそこに居た。まるで『勿論そうよ』と言いたげな表情であった。
「色々とそっちも大変だね」
「もう慣れましたよ……えーと、では」
 アゾートに疲れたような笑みを見せると、やがて覚悟を決めたようにメモを開き司が口を開いた。

「……以上が私達の推理、というかメモの内容なんですけど」
 メモを読み終え、司が困ったように笑みを浮かべる。
「「「「ちょっとまてぇぇぇぇぇ!」」」」
 海と雅羅とアゾート、そしてボニーから声が上がる。
「おい一体何処をどうすればそういう話になるんだよ!?」
「なんで私が小暮と付き合っている事になってるのよ!? そして何で振られてるのよ!?」
「ボクが何で浮気相手になっているのさ!?」
「わ、私相談なんてされた覚えありませんよ!?」

 海が、雅羅が、アゾートが、ボニーが、司に詰め寄る。
「や、やっぱりそうなりますよねー……あはは」
 司が渇いた笑みを浮かべた。その表情は完全に疲れている物であった。
「……ったく、こんな適当な事よく書けるよな」
 落ちたメモを片手に、リルが呆れた様に呟いた。

――メモの内容は、この事件を動機面から推理した物だと書かれていた。
 曰く、今回の事件は人間関係の縺れに寄る物であるという。
 
 メモ1にはこのように書かれていた。
『お互いイラストシナで優遇された者同士の雅羅と秀幸。何だかんだで仲良くなって付き合いだしたけど、秀幸はある時気づいたのよ……自分はちっぱい好きだったって!
 けど雅羅はちっぱいの正反対。勿論満足なんてできるわけがないわ……で、浮気しちゃったのよねぇ……と、まぁそこまでは良かったんだけど、当然の如く雅羅にバレるわよねぇ? で、修羅場になって、雅羅に追い詰められた秀幸は焦ってウォータースライダーの頂上の扉を無理矢理開けて……で、今に至るってわけよ♪ 
 だから当然凶器なんて無いわ。強いて言うなら雅羅の嫉妬と体質が生んだ狂気と不幸かしらね?
……ぇ、何でわざわざ逃げ場の少ないウォータースライダーの頂上かって? そんなのサスペンスのセオリーが断崖絶壁だからに決まってるじゃない♪』
 そしてメモ2はこのような内容であった。
『浮気相手と逆立ちで浮いてた理由?
 ……あぁ〜、そうねぇ〜……う〜ん、浮気相手は……
 じゃぁとりあえずアゾートって事で★ 海は雅羅に、ボニーは秀幸に、浮気に関して相談されて一緒に来てたんじゃないかしら♪
 逆立ちの理由は簡単よ、秀幸が頭でっかちだからに決まってるじゃない?』

 まとめると、雅羅と小暮の痴情の縺れが事件の真相だというのである。
「そんな……事件の裏側になななが知らないそんな人間関係が――」
「「「「無いからな!?」」」」
 お分かりの通り、事実無根である。そんな事実はありませんのでご注意ください。

「大体なんでメモなのにおまえのセリフ口調なんだよ!」
「あらぁ? それは勿論ワタシが書いたからに決まっているじゃないの」
 リルに怒鳴られても、何が悪いのかと言わんばかりに胸を張るシオン。
 メモは全てシオンの口語の様に書かれていた。
「それによくこんな物用意したな!? 何だこれ!?」
 そう言ってリルが見せつけたのは数点の写真。どれも雅羅と小暮が映されている物であった。
「よくできてるでしょ? 作るの苦労したんだから」
「最初っからねつ造って認めるのかよ!?」
「あのー……できれば私の方を助けてほしいんですが……」
 縋るような視線で司がシオンを見る。四人に問い詰められ、何とか宥めようとしているが流石に難しいようである。
「がんば!」
が、シオンはあっさり見捨てた。
「……なあ、ちょっといいか?」
 そんな中、アッシュがシオンとリルの元に歩み寄ってくる。
「な、なんだよ……」
 リルが少し後ずさる。
「なぁ……何で俺様の名前が無いんだよ?」
 アッシュが二人にそう言った。言われてみれば、メモにはアッシュの名は全く書かれていなかった。
「……あらぁ? アッシュいたのぉ? 影薄いからすっかり忘れちゃってたわぁ〜?」
 シオンが物凄い白々しく言った。
「ぅおいッ!」
「お、落ちつけって! 変な事書かれて無くてよかったって考えろよ、な!? 忘れ去られて良かったじゃねぇか!」
「良くねぇよ!」
 何とかリルが宥めようとするが、アッシュの怒りは収まらない。
「んっふっふ、どうかしら、ワタシの推理に文句あるかしら?」
 そんな中、全く空気を読まずシオンが皆に問いかける。
『文句しかないわ!』
「……ですよねー」
 司が半分涙目で項垂れた。こんなねつ造だらけで文句が無い方がおかしいというもんだろう、常識的に考えて。