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ハイナの『焼きヤミ』パーティー

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ハイナの『焼きヤミ』パーティー

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闇の味は、あまい!?


「あのハイナさん。ちょっといいかな」
 鍵谷 七海(かぎや・ななみ)がギターを片手に、ハイナへ話しかけた。
「なんでありんすか?」
「楽しい雰囲気にしたいから。演奏、してもいいかな?」
「構わないでありんす。どんどん盛り上げるでありんすよ!」
 彼女たちのやりとりを聞いていた山下 孝虎(やました・たかとら)が、ハーモニカを取り出して言った。
「なら俺も付き合うか」
「珍しいね。孝虎がそんなこと言うなんて。というか孝虎、楽器できたんだ」
「七海のギターよりはマシだよ」
「あっ、言ったなー」
 こうして、彼女たちによる演奏がはじまった。ギターとハーモニカの音色が響く。
 ヤミ焼き会場は、ますます盛り上がっていった。 


「興が乗ってきたところで、私の番といきましょうか」
 凛とした仕草でセシル・フォークナー(せしる・ふぉーくなー)が選びだしたのは、ヒラニプラ長ジャガイモ
「あ。あたしの食材だ」
 ほくほくに温められたジャガイモを見て、セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)が言った。
「ずいぶんと素朴な食材ね。でも、高級食材を食べ飽きた私には新鮮でいいわ」
「余裕でいられるのも今のうちよ。これ、すっごくおいしいんだから」
 高飛車な口調でいうセシルへ、セレンは食材の説明をはじめる。
 ヒラニプラ長ジャガイモとは、山芋のように長いヒラニプラ産のジャガイモである。長さは平均して1メートル前後。毒性の細かい芽がびっしりついているため、除去が大変だが、味は普通のジャガイモよりずっとおいしい。
 セレンはこれを、ブツ切りにした状態で持参していた。
「そこまで言うなら、さぞ美味しいのでしょうね」
 いぶかしげに長ジャガイモを口へ運ぶセシル。ふと、彼女の表情がゆるんだ。
「あら。超高級スイートポテトに、勝るとも劣らない美味じゃない」
 セシルは納得したようにバクバク食べはじめた。彼女の隣では、八木山 バフォメット(やぎやま・ばふぉめっと)も長ジャガイモを咀嚼している。
「この手の食材には、一家言ある私でございますが。これは逸品と申し上げる他ありませんね」
 バフォメットも満足そうである。
 あくまでも上品に食べつづけるバフォメットだが、急に表情が曇った。
「……おや。毒の芽が少し残っているようです」
 それを聞いたセシルが、セレンに突っ込む。
「どういうことよ。まさか、私たちを殺す気じゃないでしょうね」
「そこまで毒性ないわよ! それに毒の芽って、除去するのすごく大変なんだからっ」
 必死にとりつくろうセレンを見て、セシルが言った。
「さてはあなた。料理がヘタでしょう」
「ちょ、ちょっとくらいいいじゃない。美味しい食べ物に、毒はつきものなのよ!」
 彼女たちのやりとりを聞いていたバフォメットが、不穏な独り言をつぶやく。
「まあいいでしょう。我々が持ってきたものに比べれば、少々の毒くらい……」
 そしてバフォメットはひとり、悪魔の笑みを浮かべた。


「次は俺が行かせてもらう」
 ローグ・キャスト(ろーぐ・きゃすと)が焚き火に近づきながら言った。
「俺は食べ物を粗末にするのが嫌いだからな。出されたものは全部たいらげる!」
 叫びながらアルミホイルの包みを開ける。なかに入っていたのは、人間の下半身に似た物体。
 マンドレイク・タマネギだった。
「あ、それは私のだ」
 提供者の仁科姫月が言う。
「食べたとたん悲鳴をあげるって聞いたけど。さすがに自分で食べる勇気はないし……」
「おい、俺たちは実験体か!」
 すかさずローグが突っ込んだ。だが、彼は“全部たいらげる”と宣言している。もう後には引けない。
「食べるよ。食べるけどさ。……いったいどんな味がするんだ?」
 マンドレイク・タマネギを見つめながら頭をかくローグ。意を決したように、タマネギへかぶりついた。
「うおぉぉぉ。辛れぇぇぇぇ!」
 ローグは絶叫しながらのたうちまわった。だがそれで終わらないのが彼のすごいところである。のたうちながらも、ついにはマンドレイク・タマネギを完食した。
「ふう……。ひどい目にあったぜ」
「ローグさん。十分に加熱していなかったのではないでしょうか」
 パートナーに話しかけたのは、ユーノ・フェルクレーフ(ゆーの・ふぇるくれーふ)である。彼女はマンドレイク・タマネギをしっかりと熱してからつづけた。
「このタマネギは、加熱すれば甘くなるとききます」
 そして、ユーノはひとくち齧る。
「ほら辛くな……あ、甘いですぅぅぅぅ!」
 やはり彼女も悲鳴をあげていた。
「うぅ。どのみち、悲鳴を上げるのは変わらないのですね」
 あまりの甘さに涙目になりながらも、ユーノもまたマンドレイク・タマネギを完食した。
「我はおぬしらと違い、好き嫌いはしない」
 そう言ったのは蛇型のギフト、コアトル・スネークアヴァターラ(こあとる・すねーくあう゛ぁたーら)である。
「いや、好き嫌い以前の問題だろ」
 というローグの突っ込みを聞こえないふりして、コアトルがマンドレイク・タマネギに近づく。舌をぺろりとだすと、包みごと一気に丸呑みした。
 悲鳴は――あげない。
「おいおい。よく平気だな。丸飲みだから、味がわからないのか」
「旨かったぞ。とくに、銀色の部分がな」
「アルミホイルは食べ物じゃねーよ」
 やれやれと肩をすくめるローグ。その隣では、フルーネ・キャスト(ふるーね・きゃすと)がふたつのタマネギを睨んでいた。
「ほら、おまえも諦めてさっさと食えって」
 ローグにうながされ、フルーネは意を決したようにかじりついた。まずは右のタマネギ。すぐさま、今度は左のタマネギに食らいつく。
 フルーネは、素早く左右のマンドレイク・タマネギを交互に食べていた。
 彼女も悲鳴を――あげない。
「ふつうにおいしいよ」
 してやったりと微笑むフルーネ。彼女は見事、ふたつのタマネギを完食していた。
「辛いのと甘いのを、同時に食べることで、その味を中和したみたいですね」
 ユーノが彼女の戦法を解説する。
「くっ……。その手があったか」
 勝ち誇ったフルーネを見て、ローグが悔しそうに唇を噛んだ。



「さあて。私たちもそろそろ、食べようか」
 演奏を止めギターを置いた七海が、トングに持ち替えて焚き火を探りだす。
「これに決めた!」
 七海が取り出した包みに入っていたのは、クッキー、チョコ、ドーナッツ、おせんべい……。大量のお菓子だった。
「やったー。お菓子だ!」
 甘いものが好きな七海は、嬉しそうに食べはじめた。
「うむ。チョコとかドロドロになってるけど、これはこれで良いでありんすな」
 またしてもつまみ食いに割り込むハイナが、満足そうに言う。
「ところで、このお菓子は誰が持ってきたでありんすか」
「へへへー。オイラだよ」
 ハイナの問いに応えたのはクマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)である。
「好きな物って聞いたから、おやつBOXの中身を全部持ってきたよっ。ふっふっふー♪」
 無邪気に笑うクマラとは反対に、孝虎の表情は渋い。お菓子は苦手なようだ。
「ほれ、七海。あーん」
「ちょっと、なによ急に」
「いいから。あーん」
 孝虎が、七海の口へお菓子を運んでいく。彼としては、ただ食べられないものを押しつけているだけなのだが。
 傍から見ると、七海と孝虎のふたりは、微笑ましいカップルに映った。