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冬のSSシナリオ

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2


 ある晴れた休みの日。
 することがなければ眠ればいいと、クド・ストレイフ(くど・すとれいふ)はベッドの上で目を閉じていた。部屋にある音は、ハンニバル・バルカ(はんにばる・ばるか)が嗜むゲームの過激な効果音だけという、実に平和な日である。
「休みだからっていつまでも寝て。だらしがないですよ」
 注意の声は、ルルーゼ・ルファインド(るるーぜ・るふぁいんど)のものだろう。片目を開けて、確認する。案の定だった。
 ふと。
 思うことがあって、クドはベッドから上半身を起こした。そのままじっと、ルルーゼの目を見る。
「私の顔に、何か?」
「いえ、ただ――」
 昔のことを、思い出していた。
 昔の、彼女に出会ったときのことを。


 生きながら死んでいる。
 クドが、ルルーゼに出会ったときに感じたことはそれだった。
 家族を失い、孤独の中に居た彼女の目はひどく暗く、濁っていて。
 そんな彼女をどうして放っておけようか。
 クドは、ルルーゼを連れて帰った。
 そうしてルルーゼは、一時的にクドと共に暮らすようになった。
「あの時は大変でしたね!」
 回想の最中、思わず口に出してしまうほどに大変だった。
 けれどルルーゼは、その短い言葉だけで全て察したらしく、「そうですね」と頷く。彼女自身、認めるほどにひどかったのだ。あの頃は。
 彼女の頭の中には、家族を殺した者への復讐しかなかった。というより、自分には復讐しかないと思い込んでいるようだった。それゆえ他者に対して心を開くことはなく、冷ややかで、時に当たることもあった。
 このルルーゼの態度と思考に、昏い瞳に、クドは覚えがあった。だからこそ、行動に出た。渋るルルーゼを連れて、外へと。
 辺りに何もない、空が広く見える場所で。
 目に痛いほど青い、大きな空の下で。
「自由に生きてみましょうよ」
 クドは、ルルーゼに言った。
 かつて初恋の人が、死に際にノインに向けて放った言葉を。
 ルルーゼに、伝えたかった。
 怨恨に縛られるのではなく、それしかないからと復讐心に縋って生きるのではなく。
 選択肢は、もっと他にもあるのだと。
 言葉を受け取ったルルーゼがどう思ったかまではわからない。
 けれど、瞳に光が差したことは、わかった。
 それから。
 徐々に彼女は柔らかくなって。
 今の彼女に、なった。


 ミルチェ・ストレイフ(みるちぇ・すとれいふ)がクドの部屋を訪れたところ、部屋にはなんとも言いがたい雰囲気に満ちていた。
 ベッド脇に立ったルルーゼと、ベッドの上で正座するクドと。
 ネットゲームを嗜むハンニバル、という変わらぬ日常が広がっているのに。
 きっとお説教が長くなって、みんな疲れているのだろう。そう判断したミルチェは、「じーちゃーん!」と明るい声を出した。ベッドまで走り、クドへとダイブする。
「そといこ、そと!」
 足をばたつかせながら、玄関の方向を指差した。
「すっごいいいてんきだよー! なんとかびよりだよ! なんかしよーよー!」
「どこに行くにしろ、ミルちゃんがじーちゃんの上に乗ってたら動けませんよ」
「それもそーだ!」
 ぱっと飛び降り、次いでミルチェは傍に居たルルーゼの腕を掴む。
「ルルさんも!」
「え」
 そして、ルルーゼの腕を引きながら、ハンニバルの手を握る。
「ニバさんも! みんなでどっかいこー!」
 さっき窓から見た空は、雲ひとつない晴天で。
 こんな日は、みんなで何かしたいから。
「れっつらごーごーれっつらごー」
 適当なリズムに乗せて声を上げ、踊り出しそうな足取りで、外へ。
 三人並んで部屋を出る前、ちらりとクドの表情が見えた。
「ミル公?」
「どうかしましたか」
 ほんの一瞬、思わず足を止めてしまった。ハンニバルとルルーゼが、ミルチェを見ている。
 ミルチェは改めて一歩踏み出し、歩きながら「えっとねー」と間延びした声を出した。
「いまねー、じーちゃんがね、あたしたちのこと見てすっごいやさしいかおしてわらってたんだー」