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リアクション
其の弐
「ふーっ、やっとプールを抜けたわね」
「次は……」
セレンフィリティとセレアナの前に、司会のふたりが立ちふさがった。
「ふっふっふ。ようやく第二関門に到達したでありんすね」
「ここでは、あなたたちの精神が、一番福にふさわしい強さを持っているか、はからせていただ
きます」
「精神ですって?」
セレンフィリティが怪訝顔をするのに、ハイナは得意顔を返した。
「この大衆が見守る中、なにぞこっ恥ずかしいことを、おっきな声で叫んでもらうでありんすっ
!!」
「……な、なんですって!? なんて恐ろしい試練なの……」
血の気のひいたセレアナの肩にポンと掌を置いて、
「なんだ、そんなの余裕じゃないの」
と、セレンフィリティはなんでもないことのように、ニコリ。
「セレアナ、大好きー!!」
「ちょっ」
狼狽するセレアナのことはおかまいなし。
「いつもあたしのわがままというか行き当たりばったりに付き合ってくれてさ、いつも
甘えてばかりで……でも、あたしが本当に甘えられる人はセレアナだけ! だからこれからも目
一杯甘えさせて!」
「…………うん」
顔を真っ赤にして、セレアナが小さく答えた。
「……妬けちゃいますね」
「なんかもう、ハイハイ、ってかんじでありんすねぃ。……進んでい〜でありんすよ」
やさぐれたハイナがヒラヒラと掌を振って2人を見送るのだった。
× × ×
「ハイナァ!房姫ぇ!素晴らしいコスプレ姿ご馳走様でしたぁ!」
恭也の叫びに呼応して、会場には「ウオオオオ!!」という雄々しいおたけびが充満した。
男たちの気持ちを代弁した絶叫は、会場の大賛同を得たのだった。
房姫は顔を真っ赤にして、
「うわあ。すごい熱気です」
と、モジモジする。
「くぅっ。ここまでの支持を集めるとは、恭也もなかなかやるでありんすね。すすんでよろしい
」
「ふっ。ちょろいぜ」
彼の去り際、パシャリと何かが光ったような気がして、2人は首を傾げた。
「うん? いまなにか光らなかったでありんすか?」
「ええ、カメラのフラッシュのような」
「あやつめ、まさか……」
どこまでも、男たちの期待を裏切らない恭也である。
ハイナの嫌な予感は見事的中。
後日、セクシーなくノ一姿の2人を至近距離でおさめたお宝生写真が、校内で秘密裏に流通し
たことは、言うまでもない――。
× × ×
「次は俺様の出番だな……」
全裸の男が姿を現した。
「た、大変です。彼ですよっ」
「出たでありんすね、変熊仮面。音声さん、ばきゅーん、の用意を、早く!」
ハイナの指示を受け、音声さんがバタバタと慌てだした。
「房姫様に、俺様の×××もおろしてもらいたいぞー!」
「ハイナ校長の×××は、英語か日本語か気になるぞー!」
≪マスターからのお詫び≫
変熊仮面さまより、丁寧かつ詳細なアクションを頂戴しましたが、やんごとない事情により一
部を変更してお届けせざるをえなくなりましたことを、この場を借りまして、深くお詫び申し上
げます。
「って、ばっきゃろーい!!」
ハイナと房姫による激烈なWアッパーが、変熊仮面のみぞおちを直撃した。
「ぐふぅっ! むしろ、ご褒美でーす……!!」
キラリ☆
きれいな笑顔をしてお星さまになった彼の落下地点が、次ステージだったのは奇跡というより
ほかにない。これも、変態の神様のおぼしめしなのだろうか……。
× × ×
「ハデス様。ここはオリュンポスの騎士、アルテミスにお任せください」
うやうやしく礼をしてアルテミス・カリスト(あるてみす・かりすと)は、いざ、決戦の舞台へと足を踏
み出した。
『悪の騎士の仮装』として登録されているように、鎧をまとった彼女が歩くたび、耳にここち
良い金属音がカチャカチャと響く。
それに合わせる様に、アルテミスの心臓も、ドキドキと逸るのだった。
「さあ、次の者。なにを叫ぶか、決めたでありんすか?」
「は、はい。私は、キロスさんへの、もやもやした気持ちを叫ばせていただきます」
すでにアルテミスの頬は熱く紅潮している。
彼女の心の中に巣食うもやもやの正体は、キロス・コンモドゥスへの恋心。
しかし、そもそも恋というものを知らないアルテミスが、彼への恋心を自覚できるわけもなく
、その叫びはどうしたって的を外したものになった。
「キ、キロスさん! あなたのことを考えると、私の心がざわめきます! これは……。
……キロスさんへの対抗心に違いありません! 今度、模擬戦で勝負です!」
キラン、とハイナの目が光る。
「つまり、キロスが好きってことでありんすな?」
ニヤニヤしながらの問いに、アルテミスは大慌てでかぶりを振った。
「えっ、えっ!? ちっ、違います。ですから、これは対抗心で……」
さえぎって、会場からは「好きなんだろうなぁ」「それって恋心じゃね?」というどよめきが。
「ちっ、違いますよぅ……!!」
わたわたと狼狽をして、真っ赤になったアルテミスは、ついにパタリとこん倒してしまった。
「あらあら、オーバーヒートしてしまったみたいですね」
「甘酸っぱいでありんすなぁ」
ニヨニヨする会場に見守られながら、眠れるアルテミスは夢をみた。
なぜだかキロスが登場したものだから夢の中でも赤面するハメになる、恋する乙女アルテミス
なのだった。
■脱落■ アルテミス・カリスト