波羅蜜多実業高等学校へ

葦原明倫館

校長室

空京大学へ

森の奥の実験

リアクション公開中!

森の奥の実験

リアクション

「生存者は……なしですね」
 泪は心底残念に、暗い声で言った。アゾート達も同じようにがっくりうなだれ、一言も喋らない。
「で、どうするのじゃ?」
 パクトの問いかけにも誰も答えられなかった。通常であればこのままキメラを作った黒幕を追いかけるべきだったが、すでにダー達も負傷しており先に進むにはボロボロだった。
「俺なら大丈夫だ! こんな事をした奴らを許すわけには行かないぜ!!」
「おう! 俺もこんなのへでもないぜ!!」
 フォグホーンとダーが口をそろえて主張する。しかし、泪はそれを快く思えなかった。
「無理はだめですよ?」
 泪の言葉に2人は静かに頷いたのだった。

「そのご心配はいりませんよ。なにせ、あなた達はここから先進むことも戻ることもできませんからね」
 剣を片手に持った黒髪の男、さらにその後ろにフードをかぶった人物が立っていた。
「そんな……ありえないのであります!!」
 フードのかぶった人物を見るなり、葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)は自身の目を疑った。
 特徴的な緑髪。顔こそは見えないものの、紛れもなく死んだはず人物だった。
「ライにフォア……どうして……」
 ノエルはただただ驚きながら、その名前を言った。

「おや、覚えておいてもらえるなんて光栄ですね。しかし、そちらの方が驚くのは別の理由のようですね」
 ライは紳士的な笑顔で吹雪を見た。
 その笑顔を見るなり吹雪はライフルをイングラハム・カニンガム(いんぐらはむ・かにんがむ)は爆弾を各自構える。
「おやおや、嫌われていますね」
「それよりも一つ聞きたい」
「なんです?」
 柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)はライに警戒しながらも、質問を投げかける。
「戻ることが出来ないと言ったな、どういうことだ?」
 すると、ライは高笑いをし始めた。
「ハッハッハ!! そのままの意味ですよ。わかりませんか? あなた達はもう死に直面していることに」
「キメラです……周りの暗闇に何体かいるようです」
「なんだと」
 東 朱鷺(あずま・とき)横から小さく恭也につぶやいた。
「フッ、茶番はやめにしましょう。私も時間はおしいのでね」
 ライは指で「パチン」と音を鳴らすと、周りから重苦しい足音を立てて十体近くのキメラ達が姿を表した。
「一つ聞いておきたい、おまえが魔黒幕か!」
「黒幕? ああ、魔導書ならこの奥ですよ」
 恭也の問いかけにライは答える。
 その答えに恭也は奥に黒幕がいるのだと確信すると、グラビティコントロールを利用しライの目の前まで接近する。
 恭也は二連射突型ブレード素早く取り出すと、ライに切りつける。
 ライはそれを剣で軽く受け流すと、恭也の体めがけて刃が風を切る。

「また、キメラヨ……」
「私がやるからあなたは休んでいいよ」
 手に持っていた剣をロレンツォは地面に突き刺した。剣の柄から、先までは深い赤みをもった血がどっぷりとついていた。
 ロレンツォは行き場の無い思いを抱え、頭を痛めていた。
 そんなロレンツォをアリアンナは優しく声をかける。しかり、ロレンツォにはアリアンナもまた、キメラを殺すことに躊躇していることに気づいていた。
「良いの?」
「……大丈夫よ。何だって私達は戦うために生み出され……ずっと戦う意味を探してきたのよ私」
 ロレンツォの心配そうな声に、アリアンナは一息入れると目をつむって語り始めた。
「でも、苦しい日々から解放するために私達は戦ってるんじゃ無いかなって思えることがあるの」
「キメラだって同じ、苦しいから早く生を終わらせて楽にさせたいのよ」
「アリアンナ……」
 ロレンツォはただ、アリアンナの目を見つめた。その語られた言葉の一つ一つが重く、またそれはまさに今信じるべき言葉にさえ感じられた。
 ロレンツォは目を一度つむり、深呼吸すると、勢いよく目を見開いた。
「私も行くヨ!」
「え、何を――」
「絶対、犯人の首押さえて、説教してやるんだからネ!」
 ロレンツォは強く言い放つと、アリアンナは思わず笑った。
「ふふっ、そうねっ! いくわよ」
 2人はキメラ達を退治していくことにしたのだった。

「にしても、やはり気に入りませんね。次から次へと異形のものをつくりだすこの術」
 朱鷺はキメラを相手にしながらつぶやいた。ダー達が動けなくなっている今、キメラを対処できるのは少しの契約者と朱鷺だけだった。
 触手が朱鷺めがけて飛んでくる。それを歴戦の飛翔術で軽く飛び上がり避ける。
 地面に着地すると、朱鷺の目の前には触手をはやし、人らしい姿をまったく感じさせないキメラが立っていた。
「今回の犯人も狂人なのかそれとも……」
「ひゃはは! 狂人! そうかもね〜でももうこうなったらもとにもどせないよねぇ〜」
「ちょっと残念です。でも仕方ないですよね!」
 ジェンド・レイノート(じぇんど・れいのーと)がゲドーの横で頷きながら、キメラを剣で切りつけていく。
 傷こそは浅いものの、キメラをひるませるには十分だった。それをゲドーがとどめをさしていく。
「苦しむくらいならひと思いに、ばっさり殺してあげた方が幸せってもんだ」
 ゲドーの言葉に朱鷺は軽く頷いた。
「そうですね。その点だけに関しては朱鷺も同意しましょう」
 ジェンドの切りつけたキメラをゲドーと朱鷺がとどめをさすという関係を作りながら、一気にキメラ達を片付けていく。
 思った以上にキメラは動きが鈍いため、3人にとって難なくすばやく倒すことができていたのだった。

「……」
「何もしゃべらない……であります」
「どういうことだ、これはフォアではないのか?」
 吹雪達は未だに、フォアが生きてることを信じられなかった。
 その答えを知るべく、フォアに話しかけるもその答えはまったく返ってこない。
「とにかく、あのフードをはがしてみればよいのではないだろうか?」
「そうでありますね」
 吹雪はライフルをフォアへと向けてゆっくりと近づく。が、フォアは後ろに下がるどころか突然こちらへ向かって走ってくる。
「来るぞ!」
 イングラハムが警告を発すると、吹雪は躊躇無くライフルの引き金を引いた。
 銃声。素早いフォアの回避行動によってフードははがされた。
「やっぱり……」
 忘れもしない。自分が狙撃したはずのフォアだった。
 しかし、その目には生を感じさせない。まるで死んだような目をしていた。
「どういうこと……?」
「キメラかもしれんな」
 イングラハムのキメラという言葉は安易に吹雪は信じられなかった。
 なぜなら、フォアはまさに人間の形をしており、キメラのように何かと合成された後が見当たらなかったからだった。
「とにかく、同じように倒すしかないのだよ」
 イングラハムの言葉に吹雪は頷くと、静かにライフルをのぞき込んだ。

「おや、キメラは全滅ですか。やりますね」
 キメラが一匹も周りにいないことを察知すると、ライは突然立ち止まった。
 恭也はそれに対して、ブレードを降りかかるがそれはライの足下に振り下ろされるだけで本人には当たらなかった。
「はあはあ……くそっ、なんてすばしっこいんだよ」
 息を切らせながら、恭也はライを見た。
「ふふふ、良い動きでしたよ。ただ、私を倒すにはもう少しといったところでしょうか。さて、フォア!」
 ライがフォアの名を叫ぶと、フォアは素早くライの後ろについた。
 そして、そのまま洞窟の外へと歩き出そうとする。

「逃がしませんよ! あなたたちも、術を利用しくだらないことをした一味なのですからね」
 朱鷺が牽制するようにライに声をかける。その横では吹雪がライフル銃でライに狙いを定めていた。
「ふっ、良いことを教えましょう。あなた達が追いかける黒幕というもの。今頃、お外でバカンスでしょうね」
「まさか、あなたははじめから黒幕を逃がすためにこんなことを……」
 朱鷺は心で舌打ちをする。そもそもライ達の狙いは契約者達を全滅させることではなく、契約者達から黒幕を逃がすためにキメラ達を使い消しかけたのだとようやく理解したのだった。
「行くわよっ!!」
 セレンフィリティをはじめとし、吹雪達は慌てて洞窟の先へと向かった。
「では、私はこれにて失礼しますよ。また皆様にお会いできること心から楽しみにしていますよ」
「……出来れば会いたくありませんね二度と」
 朱鷺が言葉を吐き捨てるように言うと、ライはフォアを連れ、そのまま外へと消えてしまった。