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ふーずキッチン!?

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ふーずキッチン!?
ふーずキッチン!? ふーずキッチン!?

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【カウンター】

「長髪野郎もいるのか。
 できれば今ここでヤツをたたきにしてやりたいが、今はこっちのたたきが先だ」
 物騒な事を言いながら、フェイ・カーライズ(ふぇい・かーらいど)は料理をしていた。
 結崎 綾耶(ゆうざき・あや)が準備してくれていたメモをカンペに酢飯を作って行く。
「冷ましている間にたたきにした鮪も醤油とお酒と、少量のわさびを混ぜておく、か。

 ……あっわさび多すぎだ」
 緑色成分が多くなってしまったタレを放置して、フェイはもう一度新しいものを作り直した。
 今度はうまくいったらしく、おくらと焼き海苔と刻みネギが散らされた見た目もいいものに仕上がっている。
「うんうん、フェイちゃん上手ですよ」
 綾耶が後ろからやってきて、素直に褒めてくれていた。それだけで頑張った甲斐があるというものだ。

「綾耶は鉄火丼か。綺麗に出来てるな」
「嬉しいです。でも漬けにするだけで簡単なんですよ。
 一応美味しく作ったつもりですけど、お口に合うかな……」
 綾耶はそっと隣で鮪をさばいていた恋人、匿名 某(とくな・なにがし)の姿を見た。
「綾耶、ナイス割烹……!」
「あ、ありがとうございます、某さん」
 というわけで、違う部分は恋人のOKをもらえたらしい。
 彼のほうは、醤油とレモンとオリーブオイルでソースを作っている。
「これはどういうものなんだい?」
 質問したのは、先ほどからひたすら味見をしているハイコドだ。
「ん? これはな、以前両親に教えて貰って食ったやつなんだけどな。
 醤油とレモンって合わないかと思われるかもしれないんだけど、
 これが意外と赤ワインと合ういい味になるんだよ」
「へえ、それは美味しそうだね」
「あと寿司にしてわざびを和がらしに変えて、特定の酸味の強い辛口の白で飲むと凄く合うんだが
 ……これは条件次第じゃ合わない事もあるから余りオススメできないかな?」
 すらすらと答えている某の姿に、綾耶は少々頬を紅潮させているようだ。
「某さん、色々知ってるんですね」
「いや……まぁ、な」
 ラブラブな状態の二人を見ていると、ハイコドは病院で一人自分を待っているだろう妻が恋しくなってきた。
(さて、僕もそろそろ食事を済ませて病院に行こうかな?)

「じゃあ今のと同じのを頼むよ」



 香菜らが座っているテーブルへ、美羽が戻ってきた。
「これはマグロのステーキ、
 こっちはテールのフライ、
 カマの塩焼きに、あれは中落ち丼だよ」
「ジェラートにあんまんにマドレーヌ、何でもあるのね」
「それは本当にあるメニューを参考にして作ったの。だから味はちゃんとしてるよ」
 怪訝な顔をしている夏來に、美羽とコハクは笑いあっている。
「これは何ですか?」
「それは炙りトロのアボカドチーズのせ。全部ジゼルと仁科 耀助に味見して貰ったから」
「耀助いるんだ?」
 すこし心配そうなコハクの顔に、何だか彼女として嬉しい気持ちになりながら美羽は答える。
「厨房のバイトで居たの。あいついい人だけどまるで呼吸するみたいにナンパするから、
とりあえず口にネギトロ巻き突っ込んどいたよ」

 ところで結局キロスは、アルテミスとの決闘を行わないまま、大谷地 康之(おおやち・やすゆき)と「第一回 蒼空学園鮪切りバトル」をして、戻ってきた。
「勝負方法はいかに綺麗かつ多く切れたかだ!
 あっ、綺麗じゃなくてゴーカイな感じでもOKだ!」
 と誘われて、判定は夏來が担当した。

「っしゃぁ、ギンッギンにぃ、行くぜ!」
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ」
 
 という余り品の良くない料理風景に、夏來は呆れて判定を投げてしまったが。

「ところでこれ、フェイから頼まれたの。
 キロスにだって」
 美羽が指差したのは、オクラののった鮪たたき丼だ。
「俺に? ふん、中々殊勝なところもあるじゃないか」
 まんざらでもなさそうな顔でキロスが丼に手をつけようとした丼を、三月が横からかっさらっていく。
「よし、頑張ったキロスには全部盛りだ!」
 テーブルにのった調味料を全て混ぜて、最終的に肩よりも高い位置からのオリーブオイルがけで。
(ちなみに三月は所謂イケメンなので、やはり黄色い悲鳴が上がった)
「僕の特性どんぶり、遠慮しないで食べてね!」
「食べ物を粗末にしちゃだめよ」
 パートナーに促されて、キロスは意を決してそれを口にして


 勿論だがむせた。
 柚がこっそりくれた胃薬を飲みながらだったから、食べ物を粗末にしないで済んだのだが。

 ちなみに補足しておくと、たたき丼は通常状態で既に「わさびを入れすぎて失敗したほう」のものだった。



【ホール】


「はいひーる、キツイ……」
 オリーブオイルを直接飲まされるのは勘弁願いたい。
 そう思ってジーナに言われるがままに着た和風メイド服だったが思わぬ伏兵が待っていた。
 ハイヒールの編み上げブーツ。
 普段は学校の制服、バイト中はそのブラウスに直接割烹着。まして普通に貧乏なジゼルだったから、私服なんてごくごくシンプルなものばかり。
ハイヒールなどほぼ初めてに近いのに、一日女将として所狭しと歩き回っているからもう足はパンパンだった。
「ジゼルちゃん、大丈夫でか? 顔ものすっごいですよ?」
 声をかけてきたのは加夜だ。若い彼女だから普段着るようなものでは無かったが、割烹着姿が似合っている。
 本人もまんざらではないのか、密かに「今度家でも着てみようかな」などと考えていた。
「休憩入ったときに加夜もこれに着替えてねー……
 ……私、死にそうな顔してる?」
「眉間に皺できちゃいますよ。ふふ。
 私カフェでバイトの経験はあるけど、定食屋さんは初めてです。
 忙しいけど、やりがいのあるバイトですね。
 折角だし、楽しまなきゃって思ってます」
 言いながら眉間に加夜の細い指先が置かれる。
「そうよね、めちゃくちゃに忙しくて、皆がいて、こんな機会滅多にないもの」
「そうですよ、こんな鮪も滅多にないでしょうし」
 加夜の言葉に二人は笑い出した。
「おーい、そろそろ捌ききませんよー。一回止めて貰わなきゃ」
 インカムから詩穂の声が聞こえ、大量の客の後ろから遠くに手を振るのが見える。
「そうねー。私、佳奈子とフレイに客引き辞めてもらってくるね」
 加夜に指先だけで手を振って、ジゼルは走り出した。

 そんな姿を目で追っていた衛が口を開いた。
「……ゆれた」
「は?」
「地震なんて無かったですよ」とジーナは思ったことを口にしたが、衛が揺れたと言ったのはどうもそこではないらしい。
 オノマトペで言えばグラグラではなく、ゆらゆらでもなく


 たゆん たゆん 


「じぜるんの胸。でっけ」
 多少の間あって。
「バーカーマーモー!! とっとと運びなさぁい!!」
 ハリセン突込み。
「いってー!!
 ジナ! ゴメン、もう言わないから!!」