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ふーずキッチン!?

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ふーずキッチン!?
ふーずキッチン!? ふーずキッチン!?

リアクション



【ホール】

「うーんっやっぱり鮪にして正解だったよ」
 箸を口に運びながら天苗 結奈(あまなえ・ゆいな)は微笑んだ。
 パートナー達と食事に来て、沢山のメニューの中から迷ってしまったけれど、
「せっかくフェアをやってるんだし、鮪を頼まないとね」と選んだ鮪漬け丼は大正解だった。
「こちらの生姜焼き定食も美味しいです」
 フィアリス・ネスター(ふぃありす・ねすたー)は言いながら、結奈の口元に向かって一口に切った肉を運ぶ。
「あーんっ。
 ほんとだぁ、おいしいっ」

 ほくほくと食べている二人の正面で、次原 京華(つぐはら・きょうか)は静かに刺身を肴に昼だというのに熱燗をよろしくやっていた。
「解体ショーで少し騒がしいが、まあそれもいいかもな」
 とのんびりまったりしている。
(かなり喜んでるやつもいるみたいだし)
 京華は隣の席のパンドラ・コリンズ(ぱんどら・こりんず)を見やる。
 定食屋初体験の彼女はトンカツ定食を食べるのに必死だった。 
 リスのように必死に口を動かす彼女を見て、京華がぷっと吹きそうになってしまった瞬間だった。
「ぱーちゃん残してるなら貰うね!」
 結奈の皿に箸が伸びてきたかと思うと、パンドラのトンカツはあっというまに彼女の口の中に放りこまれてしまったのだ。
「の、残しておいたのじゃ……それは、それは我が最後に……食べる為に……」
 パンドラはぷるぷると肩を震わせている。
「最後の一切れ……我の、我のとんかつが!!」
 パンドラの言葉の理由も、あーあという顔の京華とフィアリスの顔も、
知ってかしら知らずか、結奈は満面の笑みでこう言う。

「やっぱりご飯はこうやって賑やかに食べたほうがおいしいよね」



【会場】

「はい、ご注文の鮪丼、それからリリアは鮪づくし御前ね。
 クマラの丼は特別大盛りよー」
 テーブルに並べられた丼に、クマラはらんらんと目を耀かせた。
 はじめに注文をするときに彼は「端から端まで全部くださいっ!」と頼んだのだが、エースにでこピンをされてしまい、
泣く泣く「全部食べたら次のものを注文していい」という約束を取り付けたのだ。
 目の前で調理されていたこともあってもう待ちきれなくて仕方ないようだ。

「食べていい!? 食べていい!?」
「待ってね、今お箸を……」
 ジゼルがエプロンのポケットから端を取り出そうとしていると、エースがそれを制止する。
「環境に配慮して、エースに持たせられてるのよ」
 リリアがテーブルの上の小さな箱を指差す。
「マイ箸っていうのよね。流石エースだわ」
 話している間に、クマラは早速丼に飛びついていた。
「ああ、こんな美味しいものが堪能できるなんて、オイラとっても幸せだにゅ。
 オイラ全メニュー制覇するもんね」
「……作戦ミスったかな。
 このまま閉店まで食べ続けて、明日も来ようとか……絶対言う」
「あら、私はそれでも構わないけど?」
「はは、言うね。
 さ、お仕事頑張れ」
 軽口を叩いて仕事に戻っていくジゼルのエプロンに花飾りを飾って、エースは一口食事を口に運んで思ってしまった。

「美味しいから、また明日来てもいいかな」と。
 


「こりゃ運が良かったみたいだな」
 国頭 武尊(くにがみ・たける)は席について呟いた。
 仕事でツァンダまで来たら気づけば昼。ジゼルがバイトしている店が近くにあったかと入ったところ、この日は鮪フェア中。
 おまけにちょうど武尊が入店した後から店がどんどん混み始めたのだ。
「折角だから鮪の美味いところを堪能させて貰うとするか」
 呼び止めてやってきたのは真だった。
「注文によってお水もご用意できます」
 言いながら温かいお茶をテーブルにのせる。
「そうだな――。特定部位とかって注文できるか?」
「はい、勿論」
「それじゃあ砂ずりかな?」
 武尊の注文したのは腹の下の膨らんでいる辺りだ。
(鮪といえば、トロが一番だと思われがちだが、そんなことはない。
 トロも美味いがそれ以上の美味い部位もある)
「砂ずりですね。調理方法は」
「刺身でいいぜ」
「他にご注文はございますか?」
「その次にカマでも頼むかな」
 こちらは涼介の説明していたエラの下の胸鰭辺りだ。
「こちらは?」
「そうだな……カマ焼きもいいが、煮付けにして貰おうかな」
 真が注文を復唱している間、武尊は考えていた。
(次は脳天だな。
 おっと、脳天は早めに注文しないとやばいか? 数が少ないからすぐ無くなっちまうからな)
「脳天、漬丼で頼む」


 数十分もしない内に一気に平らげると、今度はジゼルが伝票を渡しにやってきた。
「ご満足いただけましたか?」
「ああ、本当はヒレ下の刺身も食べたいんだが、もう腹一杯だ。
 久しぶりに美味い物食えて満足だ」
「ふふ、ありがとう。お料理してくれた皆にも伝えておくね」
「次に来てる時は鮪以外のメニューも試してみるかな」
「はい。待ってますね」



「うおおおおおおおおおおおおおお」
 ステージの上で叫び声を上げているものがいる。
 解体担当のカルだ。
(材質が何であれ、そこが戦場ならば「地の利」を生かした陣をつくり、退く時は速やかに撤収しなければならない!
 僕はシャンバラ教導団の兵士として、この鮪解体に「ショー」ではなく、陣の作成と撤収までの訓練として挑む!)
 口に出してしまえば何を言っているのか。
 と思われるかもしれないが、カル自身は真面目で本気だった。

「まず陣を作る鮪山の地形を把握する!」
 既に切られている巨大な部位から「突入」すると、カルは溢れるマグロの血も気にせずに進んで行く。
 その派手な調理方法に被害にあったのは、自身だけではなく――
「ああっお客様が血まみれですよ!」
 大地が慌てている。
 客席に座っていた吹雪が頭から血をかぶったのだ。コルセアが持っていたタオルで拭いているが、最早被害状況はそれで覆せるほどやさしくない。
「血まみれになって汚いって?
 軍人たるもの、血と汗と涙は、お友達だ!!
 血を怖がっていたら、何も出来ないじゃないか!!」
 いい笑顔を向けられて、吹雪も、止めに入ろうとした大地も言葉が無い。

 その間に、カルのパートナーの夏侯 惇(かこう・とん)はバトルアックスで巨大な骨の処理を行っていた。
「やれやれ……。よっとせ、っと」
 振り上げて、おろして粉砕する。
 巨大な生物だけあって、骨格もしっかりしているから重労働だ。
「しかし身を崩しすぎて、風味を損なわないようにせねばな」
 惇はあの有名な料理国の出身だから、そういう食材の取り扱いにもこだわりたいのだ。
「よっ!!」

 同じくカルのパートナーのドリル・ホール(どりる・ほーる)も働いていた。
 曰く「24時間働けますよっと!」。

 大きな身になった鮪を燻製にしようと、用意しておいたロープでぐるぐると縛って行く。
「ふんふんふー」
 鼻歌交じりにロープを掴んで厨房へ運ぼうとしていると、再び大地とコルセアの声が響いた。
「あああ! 待ってくださいお客様が!!」
「ふ、吹雪ー!!」
 気づけばロープと肉の間に吹雪とカルが挟まっていた。

「く、苦しいであります」
「あだだだだきついいいい」

「おおっ。
 もうちょっとで下等な肉……じゃねえ、
 カル坊燻製にしてしまうとこだったさ、はーっはっは」
 笑い事ではない状況を笑い飛ばされて、大地は頭を抱えた。