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壊獣へ至る系譜:共鳴竜が祈り歌う子守唄

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壊獣へ至る系譜:共鳴竜が祈り歌う子守唄

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■ プロローグ ■



 数時間前。シャンバラ大荒野某所。
 洞窟というにはあまりにも簡素な、巨大な岩が互いに寄り添い出来た隙間から続く荒野の空洞。
 その奥を目指し歩き進んでいた破名・クロフォードは、その足を止めた。
「コーズ」
 松明に赤々と照らされた岩壁に向かって名前を呼ぶ。
「コーズ。起きろ」
 二度目の呼びかけに、反応が返ってきた。
 空洞全体が揺れ地中から竜の頭が持ち上がる。
 長い間、二枚岩の入り口を持つ洞窟と化して人の目に触れずにきた砂色の竜が、その両目を開いた。
「我が名を呼ぶのはお前か?」
 両目だけ開き、体はまだ空洞内に埋め込んでいる竜に破名は軽く笑った。
「寝ぼけてるのか? 俺だ。破名だ」
「破名?」
 松明を地面に落とすと、破名はフードを取り、外套も脱ぎ捨てた。下に着ていた白衣が顕になる。
「クロフォード……白衣? 破名……クロフォードかッ」
「歳を取るとその口調になるのか? むず痒い。あのチビがこんなに大きくなって」
「破名か、懐かしい。風の噂で研究所が消失したと聞いた。生きていたか。髪の色が変わったのだな」
 言われて破名は己の肩を流れる髪を見下ろし、肩を竦める。
「まぁ、色々あってな」
「それで、何用か? 破名には研究所から逃げ出す際世話になった。老いた身だができるだけのことはしよう」
「話が早くて助かる。実は鱗が欲しいんだ。多くは要らない。一枚でいい」
「鱗?」
「コーズは刻印の施術はクリアしていただろ? 弄れる系図が欲しんだ。他のはあの時代から時間が流れすぎて変質しているのが多くて使い物にならん」
「……研究を、続けているのか?」
「ん?」
「施設が消え去ってもまだ研究は続けられているのか?」
「コーズ?」
「やはりおまえも奴らと同じかッ」
 空洞全体が音を立てて揺れ震えた。頭上からは砂が流れ落ちて崩壊の兆しを見せる。
「させぬ。させぬぞ。貴様達に我が鱗一枚、我が同胞に、触れさせぬ。絶対に触れることを許さぬ」
 松明が落ちてきた岩の下敷きになった。
 光を失い暗くなった場で、破名は片腕で頭を庇いながら上を見上げた。
「コーズッ」
「その汚らしい口で我が名を呼ぶなァッ!」
 破名は青ざめた。回線が強引にこじ開けられ強制接続の感触に思考が停止しかける。
「待て、系図の強制起動は――」
 幼体ではなく成体になったからか、想定していた中で一番最悪なケースに破名は色を失った。竜を侮ったわけではない。ただ、向こうがあまりに圧倒的で、転換速度に破名の処理が追いつかない。
 楔なしでの制御の工程を踏んでいない系図の起動を許してしまった。
「させぬ。我らの子等には絶対に触れさせぬからなぁ――ッ!」
 竜の咆哮で空洞が一瞬にして崩壊した。