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摩利支天の記憶

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摩利支天の記憶

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 2 

 こうして、小型飛空挺に分乗して一同は丘の麓にたどり着いた。
 丘の麓には数軒の蔵のような建物が建っている。
 一同は早速手分けして建物を探し始めた。
 レキとカムイも風太郎とともに探索をする。
「像が金で出来ているならトレジャーセンスに引っかかるかもしれないけど、忍者達が必要としてるのは奥義だから、ちょっとスキルだけじゃ見つけるのは厳しいかもね。だったら地道に足で稼ぐしかないね」
 レキの言葉にカムイは「そうですね」とうなずいた。
 こうして三人は家々を探し始めた。
 廃村になったとはいえ、鍵が掛かっている場所もあり、カムイは『ピッキング』で解錠していった。思い出の場所を壊したくなかったからだ。
 鍵を開けるとレキが『ホークアイ』でそれらしい物を探す。
 しかし、像はなかなか見つからない。そのうちに日が傾いてきた。あまり遅くなるとアンデッドが出て来るおそれがある。
「風太郎さん。像は本当にここにあるの?」
 レキは風太郎にたずねた。
「そのはずだ……」
 風太郎が答える。
「私は昔この辺りにもよく来ていた。像は私のよく知っている場所にあるはずなのだ。それだけは分かる」
「ここで何をして遊んでいたの?」
「宝探しだ。ここは村の貯蔵庫で、村で作った武器や防具などのめずらしい物がたくさんしまわれていた。子供心におもしろい場所で、しほりとともに忍び入ってはよく叱られていた。そういえば、子供だけで穀物蔵に逃げ込んで数日帰らなかった事があったな」
「穀物蔵? なんでそんなとこに隠れたの?」
「大人に叱られてな。ここには食べ物が置いてあったから何日でも隠れられると思ったんだ。それに、子供が隠れるのにちょうどいい場所があって」
「ちょうどいい部屋?」
「あの米俵の積まれているちょうど真下にさらに小さな部屋があるのだ。……我々子供しか知らない秘密の部屋だ……もっとも結局見つかってその後誰も入れぬように鍵を閉められてしまったが」
「穀物蔵? 米俵?」
 その言葉でレキの頭にピンと来るものがあった。
「ねえ風太郎さん。その隠し部屋が怪しいんじゃないかな?」
「え?」
「像の隠し場所は黄色い山の下でしょ? 黄色い山ってセイタカアワダチソウもだけど、積まれた米俵もそうなんじゃないかな?」
「しかし、あの部屋は頑丈に鍵がかけられて中に入る事はできない」
「その鍵なら、僕が外します」
 カムイが言った。

 こうしてレキ達は風太郎に案内されて穀物蔵の地下の隠し部屋へと向かった。隠し部屋の入り口は、穀物蔵から少し離れた枯れ井戸だったというが、米俵の置かれていない今は穀物蔵の床から直接入る事ができる。床から下に降りると、頑丈に鍵のかけられた扉があった。カムイがピッキングでそれを開け、中に入る。
 そこには白木の箱が置いてあった。
 箱を開けると白木で彫った美しい像が出てきた!
「摩利支天だ……」
 風太郎がつぶやく。
「やはりここにあったのか?」
「みたいだね。早速、これをもってみんなの所に帰ろう!」
 レキはそう言って摩利支天の像を手にとると隠し部屋の外に出た。
 外はすっかり日がくれ、禍々しい気配がたちこめている。
 レキはイナンナの加護を、カムイはイナンナの加護と歴戦の防御術を我が身にほどこた。せっかく見つけた像を見つけたのにその瞬間に敵に奪われたなんて事になったら最悪だからだ。二人は風太郎を守るようにして歩いていった。
 しかし、外に出て数歩出たところで、いきなり、背後から何者かが恐ろしい早さで襲いかかって来る気配を感じる。
「誰だ?」
 咄嗟に避けてレキは叫ぶ。いつの間にか回りを敵に取り囲まれていたようだ。いずれも闇色の衣装をまとい背に刀を差した獣人である。
「忍者ですね」
 カムイが言った。
「そのようだね」
 レキはうなずく。 
 獣人達は有無をいわさずに襲いかかってきた。
 そして、咄嗟に応戦しようとしたレキに火遁の術を放つ。いきなり弾けた炎の光にレキは目はくらみそうになるが、とっさに漆黒の薔薇の闇術を展開。闇黒の魔法が忍びに向かって襲いかかる。さらにレキは『サンダークラップ』を展開した。雷電属性の魔法が忍び達を撃ち、忍び達のスキル封じ込める。一方、カムイは光条兵器で忍び達を確実に倒していた。
「危ない!」
 不意に風太郎が叫ぶ。
 見ると、レキの背後を忍びが今まさに斬りつけんとしていた。その忍びに対してカムイはトリッキーな攻撃を仕掛けた。光条兵器を手に、レキの反対側からレキごと貫くように剣を振るったのだ。
「ああ!」
 風太郎は悲鳴を上げる。レキが死んでしまったと思ったのだ。
 しかし、レキは傷ついていなかった。カムイが光条兵器で倒す対象を敵(忍者)指定にしていたからだ。それを見て風太郎は胸を撫で下ろした。

「大丈夫ですか?」
 騒ぎを聞きつけた竜胆が仲間達とともに駆けつけて来る。そしてこの惨状を見て眉をひそめた。
「忍びに襲われたのですね?」
「大丈夫。なんとか倒したよ」
 レキは言う。
「それより見て。像を手に入れたよ」
「本当ですか?」
 竜胆が驚く。
「本当だよ。ほら」
 レキは得意げに白木の箱とその中味を見せた。
「やりましたね。それではこれをもって帰りましょう」

 こうして、一同は飛空挺の隠し場所へと向かおうとした。
 その時、どこからか恐ろしい気配がした。
 何か大きな敵が近づいて来る。
 一同は一斉にその気配の方向を見やった。
 やがて、鎧のきしむ音とともに一人の剣士が現れる。
 長い黒髪を高くまとめあげた精悍な剣士だ。
 剣士は風太郎を見ると言った。
「やはり、見つけ出したか。その像を我に渡せ」
「なるほど」
 ルカルカは剣士を見てうなずいた。そして、
「きたわね」と出迎える。
「あなたは、先日風太郎さんに襲いかかった剣士ですね?」
 竜胆尋ねる。
「しかし、忍びの仲間でもないようです。どうして、風太郎さんの命を狙うのですか?」
「理由などどうでもいい」
 剣士は手を差し出していった。
「とにかく、その像を我によこせ」
「断る」
 風太郎は像を我が身で守るように抱え込んで答える。
「これは渡せぬ。妹の命を守るために必要なのだ」
「しかし、我が主の平穏のためにも必要なのだ」
 剣士は答えた。
「主?」
 竜胆が首をかしげるが、それには目もくれず。
「どうしても渡さぬというなら、殺す」
 剣士は刀を抜く。
「みんな風太郎さんを連れて逃げて」
 ルカルカが言った。
「ここはルカルカ達にまかせて」
「分かりました」
 竜胆は頷く。そして、皆とともに風太郎を連れて逃げていった。すると、すぐにその後を剣士が追う。さらにその後を、ルカルカと夏侯 淵(かこう・えん)が追いかけていった。
 しかし、ルカルカには魔剣士と戦うつもりは無かった。なぜか、この剣士がただの悪党に思えなかったからだ。それは、夏侯 淵も同じ気持ちだった。
 それにしても、剣士の足は異様に速かった。重い甲冑を身に纏いながら軽々と風太郎を追撃していく。
 ルカルカはゴッドスピードで加速し追いつくと、分身の術と呪い影を駆使し剣士と剣を交えた。
「はっ!」
 剣士はソードプレイで影たちを振り払う。
 淵は絶対領域を展開し風太郎を守護しようとした。
 剣士はスカージを展開。光が放たれ、ルカルカ達のスキルを封じようとする。夏侯 淵は記憶術を展開し、スキル封じに耐える。
「あ……あああ」
 風太郎は目の前で起きている戦闘におびえていた。
 そして、混乱したまま一人であらぬ方に駆け出した。
「行ってはなりません! 風太郎さん」
 竜胆が叫ぶ。
 しかし、風太郎は制止も聞かずにどこまでも走り続け、やがて夏侯 淵の絶対的領域の範囲を逸脱してしまった。
「風太郎さん」
 一同は風太郎を追いかけていった。
 しかし、剣士の方が一息早く風太郎に追いつくと、袈裟がけにその体を斬った。
「風太郎さん!」
 竜胆が叫ぶ。
 剣士は再び刀を振り上げて風太郎にとどめを刺そうとした。
 しかし、それよりも一瞬早く、侯 淵が剣を抜いて剣士に斬りつける。油断していた剣士の背中から血が噴き出してそこに倒れた。
 息を止めたその骸を見て夏侯 淵は残念がった。
「共闘出来た筈だ」
 しかし……。
 次の瞬間一同は目を疑った。死んだはずの剣士が起き上がったからだ。
「イモータリティか……」
 夏侯 淵はうなずく。
「イモータリティが使用可能なのは英雄だけのはずだ。ぬしの魂は、かつて英雄と呼ばれし者か」
 すると剣士は答えた。
「いかにも、我は英雄とよばれていた事もある。しかし今はただの摩利支天を守る者」
「それで、どうするのだ。次にうたれたらお前の命は無いぞ」
「我が名はマサシゲ。我が主を守るためなら命など惜しくない」
「主を守るか。見上げた心だが、お前が死んだ後な主の身は誰が守るのだ?」
 夏侯 淵の言葉にマサシゲと名乗った剣士はハッとする。
「ねえ。剣士さん。ルカルカにはあなたが悪い人には思えないの。できれば仲間になってくれないかな。摩利支天の像を最終的に取り戻せるなら敵対しなくていいはずよ」
 ルカルカが言った。
「……仲間か……」
 剣士は笑った。しかし、
「我にはそ仲間などいらぬ」
 そう言って像を抱えたままその場を立ち去る。
 ルカルカ達が追おうとしたその時、
「風太郎さん」
 竜胆が悲鳴をあげた。
「どうしたのだ?」
 夏侯 淵が駆け寄ると竜胆が泣きながら叫んだ。
「風太郎さんが死んでしまった」
「何?」
 夏侯 淵は風太郎の脈を取った。確かに死んでいるようだ。
 しばらく考えた後、夏侯 淵は口の中で何ごとか呪文を唱えた。その途端夏侯 淵はその場に倒れた。
「夏侯 淵さん?」
 竜胆がいぶかしげに近づく。見ると、夏侯 淵もこと切れていた。何が起きたのか竜胆には分からない。
「夏侯 淵さん、夏侯 淵さん!」
 ひたすらその体を揺さぶる。
 やがて。
「ここは……?」
 いきなり風太郎が起き上がった。
「風太郎さん?」
 驚く竜胆に向かってルカルカが言う。
「きっと、風太郎さんは淵のサクリファイスで甦ったんだよ」
「サクリファイス?」
「自分を犠牲にして味方を救う術だよ」
「え? で……では夏侯 淵さんの命は?」
「大丈夫だよ。多分すぐに生き返るから」
 ルカの言葉通り、しばらくすると夏侯 淵が起き上がった。
「か……夏侯 淵さん?」
 竜胆は驚きあたふたしている。
「イモータリティで甦ったのだ。奴と同じ、英雄にしか使えぬ秘技……だ……」
「あ……ああ……」
 竜胆は一瞬ホッとしたような顔を見せた後、怒った。
「そんな危険な技を使わないでください。心臓が止まるかと思いました」
「ああ。心配をかけてすまぬな」
 夏侯 淵は真剣に謝った。竜胆が案じてくれた気持ちが嬉しかったのだ。