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【後編】『大開拓祭』 ~開催期間~

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【後編】『大開拓祭』 ~開催期間~

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「ねじゅちゃん、お疲れ様! あ! 涼介さん、そのお土産欲しい! あとで頂戴っ。料理作ってくれてありがと!」
 一人フルマラソンをこなす紅月。主催者は大変である。
「あ、紅月さん。これのどを潤すデザートだから持ってって」
「うわ、ありがと! 皆にも渡しておくから、それじゃまた後でー!」
「はーい。……主催者は大変だね」
「そんなみんなの後押しになるよう料理を作ってがんばろうねぇ」
「おいしい料理、たっくさんつくらないとね!」
 小さいながらも料理腕前はプロ級の三人、ネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)舞衣奈・アリステル(まいな・ありすてる)結衣奈・フェアリエル(ゆうな・ふぇありえる)
 同じく料理人として抜擢された涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)ミリア・フォレスト(みりあ・ふぉれすと)もいた。
「涼介さんとミリアさんも今日はよろしくお願い!」
「うん、ネージュさんに負けないような肉料理とスープを作るよ」
「私はお土産用のパウンドケーキをお作りしますね」
「うん! それにしても綺麗な奥さんだね。涼介さん、幸せものだー」
「自分でもそう思うよ。こんなに幸せでいいのかって」
「そんな、私のほうこそ」
※今回のコース料理の味付けには夫婦の惚気がふんだんに使われます。
 お手元にブラックコーヒーを置いてお召し上がりください。

 のような注意書きが必要かもしれない。

「それじゃまずはオードブル担当、合宿所『沙羅双樹』厳選直送素材を生かしに生かそう!」
 ここからはあっという間の出来事になるので、括目せよ!
「まずはお魚や貝、エビにイカさんをフライパンへ並べて……ブロッコリー、セロリ、ラディッシュ、オリーブなどなど野菜を入れて」
 ここまでわずか1秒。くらいの手際のよさだと思っていただきたい。
「そして陳皮にクローブ、しっかり炒ったフェヌグリーク、タイムにセージにローレル、レモングラスのせる。
 後は軽く挽いた岩塩をぱぱっと、上から重ねるように白ワインを掛けて蒸しあげて、蒸しあげて……はい出来上がり」
 上手にできましたー!
 お手軽に、かつ本格的に。素材の味を殺さない素敵な前菜が各テーブルへ運ばれていく。

「お次は私、お魚メインディッシュ担当ユウナがいっくよぉ〜」
 お客の人数も相当数いるためすぐさまユウナが調理に取り掛かる。
「おっと、あっちのテーブルは肉料理だね。ミリアさん、スープの方手伝ってくれるかな?」
「もちろんです」
 肉と魚と時々スープ、メインディッシュ担当の二人とミリアが腕を鳴らす。
「ハーブでマリネしたアイールの白身魚を丸くくり抜いて、パイに丸く包んでオーブンで焼きましたらしっかりことこと煮込みます」
 先ほどのユウナよりも鮮やかな手つきで調理をこなすマイナ。
「煮込んだ後は、黒に近い濃厚な、赤色の野菜入りドミグラスソースの星空に浮かべてできあがり。仕込んでおいた甲斐がありましたですねぇ」
 パイという満月が輝く、夜の深い闇を表すような濃厚でおいしい夜空を堪能できる、涎必至の魚のメインディッシュが完成。

 その横で肉料理に取り掛かっていた涼介が負けじと調理をしていた。
「シシケバブは一口大に切った羊肉を特製のマリネ液に付け下味しっかり。これを串に刺して炭火で……ミリアさん、スープはどう?」
「はい。ばっちり進行中ですよ」
 レンズ豆と人参、玉ねぎを煮込みに煮込み終わったらペースト状にして漉したら、バター、チリっと辛いチリパウターと乾燥ミントで味付け。
 これでばっちりスープも完了。
「さすがミリアさんだ。よし、こっちも焼けたね。あとはお皿にチョバンサラタスを添えたら、はい出来上がり」
 肉料理も完成し、各テーブルへスープ付きで配膳される。
 音楽を耳で楽しみ、料理を鼻と舌で楽しめる。
 なんとうらやましいことだろうか。なんとうらやましいことだろうか!

「……おいしい。こんな美味しいものが食べられるなんて」
「あまり舌は肥えていないが、それでも美味しいと感じられるな」
 音楽祭に来ていた柚と海も極上の料理を楽しんでいた。
「幸せですね。素晴らしい歌に、お料理、こんなに幸せでいいのでしょうか」
「いいんじゃないか」
「……そうですね。今日くらいは幸せで満たされてもいい気がします」
「俺もだ」
 すっかり美味しい料理で心がときほぐれまくりの二人は自然と笑顔で音楽祭を楽しんでいた。

「うんうん、みんな満足そうだね。でもまだ、最後の一手があるんだからね!」
 最後のデザート担当、ネージュが腕によりを三百倍くらいかけて調理開始。
「花梨は、お砂糖とレモン汁、ワイン、シナモンスティックでコトコトと煮てコンポートに」
 まるで魔法を唱えるように料理を作っていく。
「柚子は果汁とピールにハチミツを少し加えて温めて、ゼラチンで固めたら、細かく砕いてクラッシュジュレに」
 否、彼女は魔法をかけようとしている。
「そしてグラスに盛り付けたなら、ハチミツとミントのソースをそっと回しがけ。はい、金糸雀の歌声ももっと澄み渡るデザートの完成だよ!」
 食べた観客の心を離さず、食べた歌姫たちの声をどこまで澄み渡らせるそんな魔法を。
 当然、料理を口にした者たちの顔はとろけ、笑顔だった。
「幸せそう……このお土産のパウンドケーキも魔法をかけられるでしょうか」
「大丈夫だよ。ミリアさんの魔法にかけられた僕が言うんだから間違いない」
「涼介さん……」
「お二人とも、まだまだ魔法をかけてあげる人たちはいっぱいいるから、また後でね?」
「ご、ごめんなさい」
「これは失敬。さて、料理の魔法をかけたなら、後は歌の魔法がかかるだけ、だね」
「紅月さん、頑張ってね! 私たちも料理しながら応援してるから!」