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水宝玉は深海へ溶ける

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水宝玉は深海へ溶ける
水宝玉は深海へ溶ける 水宝玉は深海へ溶ける

リアクション

「ジゼルって子の交遊データ見た時から、アンタがここに来るのは分かってたっス」
 振り向いた少女は規律正しいはずの軍服姿なのに、全体的に見ると随分と派手な装いだった。
 そもそもが外見は外国人のそれなので髪色や何かは置いておいても、
戦場にこんなバッチリメイクで来る女は居ないだろう。
 一般兵士の着ていた戦闘服で無い事から、幹部クラスか??または個人的な趣味のそれ――なんだろうか。
 上半身は無骨な折襟のジャケットに身を包んでいるものの、下は思いきり私物のフレアスカートだ。

 思いきり舐めきっている。そしてそのスカートに赤い点々が散っている辺り、推測される人物は一人。
「(さっき撃たれた女……。)

 キアラ・アルジェントか」
 最も既に何かで傷を回復済みのようで、割と元気いっぱいに見えるキアラは、
顔に嫌悪の一文字を張り付けて前に立つ敵をを見ている。
「そういう君は国頭 武尊(くにがみ・たける)クンっスね。

 てゆーかぁ、パンツ好きとか超変態スよね。
 マジきもいから、近寄らないで」
「分かってるなら話は早いな。
 君もオレとやる以上、パンツの一枚や二枚は覚悟してもらうぞ」
 武尊の言葉を聞くと、キアラは嫌悪の表情を「フフン」と変えて軽くステップを踏んで非物質化していた箒に乗り、
廊下の間のミニホールの高い天井に舞い上がった。
 因にその時武尊は、キアラのパンツが見えないかと目を凝らしてみたが、
照明が点々としていてその場全体が微妙に暗いのと、スカートの下のフワフワパニエの鉄壁防御でそれは適わなかった。
 此処は矢張り漢らしく、

 『敵を倒し、そしてパンツを見る』。

 それしか無い。
 二重の意味で目標を定めて、武尊はキアラに向かって走り出した。


「しゅーてぃんぐすたあっ!!」
 フルメイクの外見からは想像も付かないアニメ声が響くと、
走る武尊の前後左右にファンシーな星がキラキラと落ちてくるが、彼のスピードはそれを凌いでいた。
「ちょございなっス!
 でもそんなに逃げ回っても無駄無駄無駄無駄ァッ!
 この魔法軍曹(自称)キアラが君をさーちあんどですよろい!
 見敵必殺しちゃうッス!!」
 キアラが箒を掴んでいない左の手でリボンを結んだワンドをくるくるっと振ると、武尊の周囲には炎の壁が立ち上った。
「ふふふ、これで完璧っス!」
 キアラは勝利を確信した余裕の笑みで地面に降り立つと、クラッシュキャップを脱いで天井へ投げ、ウィンクした。

「へーんしん!」

 スカート以外はミスマッチだったファッションが、全てピンク色の衣装に変わって行く。
「まじかるっすてーーーーっじ♪」
 ハートの嵐が舞い、薄暗かった廊下ホールがライブステージのような照明で照らし出される。
「あたしたちはパンツを見せないのが鉄則っスよ!」
 ウェストのサイド部分にあったリボンをきゅっとしめるキアラは、間違いなく軍人でも、ギャルですら無い。

「……魔法少女?」
 魔法の効果というよりもキアラの存在そのものに混乱し呆気にとられそうになった武尊だったが、
頭を振って再び走り出した。
「ふふふっ攻撃が単調っスよ!」
 再びワンドから星を舞い散らせようとしたキアラだったが、一瞬の間に武尊の姿を見失い、慌てて周囲を見回した。
「ッ!? 消えた?
 どこッ!?」

「ジゼルはオレにパンツをくれる事になってる娘だから、
ジゼルにひでー事しようとする連中を通す訳には行かねんだよ!」
「嘘……天井ッッ!?」
 武尊は壁を走っていた。
 キック力で上へと跳ね、そこから更に地面に向かって天井をキックしてキアラの真上から落ちてくる。
「しゅーてぃんぐすたー! あたしを守って!!」
 キアラのワンドから魔法の星が飛び出す。
 が、武尊はそれをアブソービンググラブを付けた手で反射させた。
「ふぇえ!?」
 キラキラ光る星は砕けながらキアラに向かって飛び、彼女の魔法少女の装いをビリビリに斬り裂いていく。
「きゃああああああああ!」
「どうした、まだ服が破けただけだろ」
 飛び退いたキアラに向かって両手をキャモーッンのポーズで煽る武尊に、
キアラは破けてしまった胸元を抑えながら、変身を解いた。
「ほら、かかって来いよ!!」
 キアラは汚れてしまったフレアスカートの裾を両手で掴み、
叱られた子供のように唇を噛み締め涙を零している。
 今彼女の頭の中には、あの大嫌いな隊長の(身長的に当たり前なのだが)自分を見下す視線が蘇っていた。
『貴様は甘い。ゲロ甘い。リンゴのシュトゥルーデルより阿呆程オレンジとチョコレートをぶっかけたパンケーキより甘い。
 いいか、ドヘタレのイタリア娘。
 女は戦場で性別それだけで不利だ。ただでさえ貴様の実力は成っていないというのに、それをこんな見た目からチャラチャラと悪化させてたら
直ぐに目に留まるぞ。
 お前にそれを退けるだけの力があるのか? 無いだろ。
 俺に今殴られて立ち上がれるか? 無理だろ。
 襲われてもトーヴァみたいに笑い飛ばせるか?(いやあいつは襲う方か) それも出来ないんだろ』
 返す言葉も無いのに未だに頬を膨らませるキアラを見て、隊長殿はため息をついていた。
『貴様がそうやって軍規を乱し続けるなら、俺は何時か強硬手段に出なければならない。
 頭で分からないというならそれそのままを身体に叩き込む。
 キアラ・アルジェント。
 貴様が今後もトーヴァについて行きたいというのなら、いい加減この組織の――自分のしている事に自覚を持て。
 死ぬぞ』
 そして文字通り今日、銃弾を叩き込まれた。

 しかしキアラはどうしてもどうしても納得がいかなかった。
 年齢も然程変わらない相手に、どうしてあそこまで言われなければいけないのか。
 ただでさえ嫌いな奴なのに、どうして従わなければならないのか。
 愛するお姉様は何時も、『キアラはやれば出来る子〜☆』だと言ってくれるのに。
 きっと、いや絶対に、間違っているのはあの男の方なのだ。
「で、できるもん……あたしはちゃんと戦えるんだもん!!」手と腕で涙を抑え武尊を睨むと、キアラは叫んだ。

「男の人になんて??負けないんだからああああああああああ!!」
 キアラの声に呼応して、ワンドは形態を変えて行く。
 パワーアップモードになったワンドが光り出すと、その場に魔力の紋章が現れ出でる。
 砲身と化したその先からは今、強力な光りのビームが発射されようとしていた。
 幾らアブソービンググラブでも、この強大なパワーを吸収しきれるだろうか。
 両腕を正面に突き出してあくまで受け止める姿勢の武尊。
 だがそれと同時に彼の右足は『何か』を蹴り上げていた。
「え……?」
 飛んで来た何かに、キアラは反射で下を向いた。それがまずかった。

 キアラの足下飛ばされたそれは、犬の死骸の首だったのだ。

「ゃ……………
 いやあああああああああああ!!!!」
 キアラの手からワンドが投げ出され、所有者を失った杖から輝きが一瞬にして収まる。
「やあああっ!」
 犬の首から1センチでも遠くへ離れようと四つん這いで逃げて行くキアラに向かって武尊は上から伸し掛り、その両腕を掴んだ。
「(非物質化した犬の首のレプリカなんて大した脅しにもならないと思ってたが、
こいつは思ったよりビビってくれたな。
 つーかびびりすぎか?)」
「ぅああああああんっこわいよぉ、助けておねえさまあッ!」
 両腕をばたつかせるキアラを抱きかかえてホールドすると、彼女の魔法力をアブソービンググラブで吸収する。
「……ふぇぇ……ちからが……でない……っス……」
 それまで暴れまくっていたキアラがくてんと力を抜いたのを確認し、
武尊は伸し掛っていた上半身を放した。
 魔法使いが魔法力を失ったら即ち戦い終了だろう。
 見た目からして他の戦闘力はなさそうだし。

「(後は、じっくりとぱんつを)」
 キアラの位置を紳士的に仰向けに直し、武尊は彼女のある部分に向かって腕を伸ばす。
「な、なにを……するっスか?」
 眉根をこれ以上無いくらいに下げるキアラに向かって、武尊はにやりと笑った。

 サングラスが光った。
「――最初に言っただろ。オレとやる以上パンツの一枚や二枚は覚悟して貰うってな」