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古城変死伝説に終止符を

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古城変死伝説に終止符を

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 古城前。

「ただの幽霊が古城をあれほどまでにする力を得るとは思えないな。魔法使いさんがあの魔術師であると考えるべきだろうが、一体何を企んでいやがるのか気にはなるがこれほどの惨事で手掛かりがあるとは……」
 ベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)は北都が消火した後の厨房やあちこち割れた窓ガラスに目を向けながら城内の惨状を想像していた。
「マスター、ポチ、ハナエさん達からお伺いしたのですが、再度お部屋が散らかってしまい幽霊さんが暴れているそうです。オルナさんも負傷してとてもお困りだそうなので精一杯お掃除致しましょう。もしかしたら魔術師さんの事も解るかもしれませぬ」
 代表としてウルバス老夫妻達から事情を聞いて来たフレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)がベルクと忍野 ポチの助(おしの・ぽちのすけ)の元に戻って来た。
「ふふん、魔術師だか何だか知りませんが今の時代はハイテクなのですよ? エロ吸血鬼同様そんな古くさい力に頼るような怪しい下等生物なんかこの科学の忍犬たる僕の犬力で懲らしめてやりますよ! ご主人様お任せ下さい。手掛かりの一つや二つ見つけてみせますよ! ビグの助も一生懸命働くのです」
 ポチの助は任せてくれと思いっきり胸を反らした。実はフレンディスが事情を聞いている間、ネットで古城の図面を調べ上げ、『防衛計画』で完璧に把握し準備を整えていたのだ。
「ポチ、ありがとうございます。では、お掃除頑張りましょう!」
 フレンディスはポチの助に礼を言った後、ぐっと両拳を作り気合いを入れて城内に侵入して行った。
 その気合いに待ったを入れたのは
「いや、待て。俺達は魔術師の手掛かりを探しに来たんであって掃除は……」
 後ろからついて来るベルクだった。第一目的が魔術師の手掛かり探しで掃除がおまけのはずがなぜだか逆転している今の状況。
 しかし、ベルクの言葉は届かず、
「マスター、これは魔法ごみとして処理した方が良さそうですね」
 フレンディスは城内に入るなり掃除を始めていた。
「……そうだな」
 付いて来たベルクの口から洩れるのはため息だけだった。苦労人はいつでも苦労人。
「……手掛かりを求めて掃除をするしかないか」
 ベルクは仕方無く掃除に付き合う事にした。
 ポチの助はここ掘れワンワンの術こと『トレジャーセンス』で手掛かり探しをしていた。隣ではビグの助がポチの助のお手伝いとして付き従っていた。
 途中、前住人達に襲われるも
「悪いが、敵意満載な前住人の幽霊共、俺達はお前らの死因、オマケで無念を晴らせるよう情報と手がかりを探しに来てるんだ。あんま話を聞かずに暴れて邪魔すると悪ぃがコレで無理矢理大人しくして貰うからな?」
 ベルクが死龍魂杖で向かって来る前住人達を脅して退かせるが、中には退かない者もいて仕方無く吸い込んでこちらの安全を確保していた。
 その後ろでは
「……マスター、頼りになります。これも捨てた方がいいですね。魔法ごみと普通ごみは分けて」
 ベルクがいる事に安心してフレンディスはぽやぽやとごみ分別をしながら片付けていた。
 ごみ袋を二つ持つのは大変だという事で普通ごみだけビグの助が背中に乗せて運んでいる。
「……予想通り手掛かりらしき物は無いな。あるのはごみだけか」
 ベルクは頼られている事に嫌な気分にはならないものの目的が果たせないでいる事には残念な気分を抱いていた。
「……ポチ、大丈夫ですか」
 フレンディスは匂いを嗅ぎながら歩き回っているポチの助に声をかけた。
 本人は真剣そのものだが端から見たら散歩で縄張り場所探し中の子犬にしか見えない。
「ご主人様、問題ありません。すぐに見つけてみせますよ!」
 ポチの助はちょこんと顔を上げて、フレンディスに答えるなり手掛かり探しに戻った。

 それからしばらく後。
「ご主人様、ここに何かありますよ!」
 ポチの助はぱっと顔を上げて書斎の前で立ち止まった。
「……書斎か。危険な存在はなさそうだが」
 『ディテクトエビル』でベルクは扉の奥に敵意を持つ存在がいない事を確認するが開けない限り中の詳しい様子は分からない。ここでは異臭や気配がしないからと言って安全とは言えないのだ。
「……この中ですね。危険物が無いか確認しますね」
 フレンディスは『壁抜け』で顔だけをドアに突っ込んで室内を確認し、すぐに安全である事を報告してドアを開けて中に入った。

 中に入るなり、ポチの助は
「これです! これが手掛かりです!」
 床に散らばる本の中で一番年季の入った紫表紙の本の匂いを何度か確認した後、吠えた。
「……本ですか。少し焼けたり汚れたりしていますね」
 フレンディスはそろりと本を手に取り開いた。本は古いだけでなく汚れと焼け跡まみれで見た目だけで中身がズタズタである事が容易に想像出来る様子だった。
「……何かあったか」
 完成した幽霊浄化薬を入れる大量の霧吹きを手に実験室に戻る途中のダリルがフレンディス達に声をかけて来た。
「あぁ、何か手掛かりが無いかと捜索をした所、妙な本を見つけたんだが」
 ベルクが事情を説明した。
「マスター、凄いですよ! この本に魔術師さんが載っています」
 中身を確認していたフレンディスが歓喜の声を上げ、ベルクにも確認して貰おうと本を開いたまま差し出した。
「……百年前の事件か、確かに載っている。古城の変死伝説と同じ内容だな。ただここに出ている魔術師と同一人物か判断するには材料が足りねぇし、事件についても風の便りで解決したと知ったとしか書かれていないな。日付は分かったとしても発生場所が焼けて読めないのが致命的だ」
 ベルクは本を受け取り中身を確認してからダリルに渡した。流麗な字体で記されている事件の内容は、百年前のとある富豪の屋敷に舞台が変わっただけでそれ以外は現在遭遇している古城変死事件と酷似していた。本には不可思議な力を使う魔術師と書かれてあり、漆黒のローブをまとい、フードを目深に被り顔は分からないと被害者から聞いたと記されていた。
「……これは物語ではないみたいだな。何とかの旅団の手記、か。旅団と筆者名が焼けて読めなくなっているな」
 ダリルは教えられたページを読んだ後、表紙を確認するも肝心の部分が抜けている事に気付いた。本の中身は日記形式に近いもので年月日、訪問した場所と筆者が体験した出来事や思いが細かく記されている物だった。
「大方、魔法実験に巻き込んだりしたんだろ。詳しい事が分からない事にはどうにもならねぇな」
 ベルクは新しめの焼け跡や汚れを確認し、ありふれた予想を口にした。実際これは的中してたりするのだが。
「だろうな。後ほど、詳細を頼む」
 ダリルは本をベルクに渡し、自分の仕事が途中のため実験室に戻って行った。

 ダリルが去った後、
「ふふん、今こそこのハイテク忍犬の力を発揮する時なのです!」
 『コンピューター』を持つポチの助は今こそ役に立つ時だと獣人化してノートパソコン−POCHI−で旅団についてキーワードを入れて素早く検索を始めた。
 検索を始めしてしばらくして
「……何か分かりましたか?」
 フレンディスはぴょこんとノートパソコンを覗き込みながら訊ねた。
「この本は名も無き旅団の手記なのですよ。五人組の旅人であらゆる場所を巡り歩き、団員それぞれが手記を書いたそうですよ。その団員の詳細や活動期間は不明なのですよ。手記が全何巻は不明でそれほど有名ではない存在なのです!」
 ポチの助はフレンディスに画面を見せながら検索結果を話した。それほど有名ではないためかヒットは少ない上に詳細を書いたものはなかった。
 仕事を終えたポチの助は再0.び可愛らしい豆柴に戻った。
「そうですか。ポチ、お手柄です!」
 フレンディスはポチの助の頭を撫でながらにっこりと笑いかけた。
「これぐらいご主人様のためなら大した事無いのです!」
 ポチの助はフレンディスに褒められて嬉しかったのか思いっきり尻尾を振っていた。
「しかし、気になるのは最後の文だな。“この事件に巻き込まれ、団員を一人失った。旅をするために早く一人見つけなければ、我々は……”肝心な部分が焼けてしまっている。団員不明、活動期間不明か今いたとしても不思議じゃねぇという事だよな」
 ベルクは念のためぱらりと全ページを確認したが、最終ページに引っかかり、途切れた文章に考えを巡らせていた。どう考えても悪い事しか思い浮かばない。
「とても旅が好きな人達だったんですね」
 フレンディスは天然な感想をぽやりとする。
「それだけならいいけどな。ともかく、似た事件があるのならこの先何が起きるか予測が可能かもしれないという事だ。詳しい事は後で他の奴らの意見を聞いてみた方がいいだろう。ついでにこの本の入手経路も」
 ベルクは手掛かり探しの収穫を得て良かったと思う反面、手記の最後の一文と言い別の問題が起きるのではと危惧していた。
 とりあえず、戦闘の際邪魔になるため本はビグの助の背中に乗せて運ばせる事にした。得た情報はベルクによって忘れずに拡散させられた。ちょうどダリルが実験室に戻る前だった。
 手掛かり探しは清掃をしながら続けられ、最後は貯蔵庫に赴いた。ちょうど幽霊少女の説得後でルカルカ達と一緒にという事になった。