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 現在から数年後。

 早朝。とある三ツ星レストランの厨房。

「新作を出す。手順に誤りが無いようにな」
 シェフを束ね厨房を管理するシェフ・ド・キュイジーヌ(総料理長)の声が厨房に響く。その声の主は少し成長し背も伸びて少年から青年の姿になったシン・クーリッジ(しん・くーりっじ)だった。羊のような悪魔独特の角まで生え、すっかり悪魔らしくなっていた。
「はい!!」
 シェフ達は一同に声を上げ、準備を始めた。
 準備が整うといよいよ開店。
 シンは調理だけでなく新しいレシピを考えたり、
「客に不味いもん出すなよ?」
 アプランティ(料理見習い人)を厳しく指導したりと忙しく動き回る。

 昼休憩。昼食にアプランティが作った賄いが出される。
「どうですか?」
 熱心なアプランティが自作した賄いを食べるシンに恐る恐る訊ねた。
「悪くない。お前は遅くまで頑張っているからな。その成果が出て来ている」
 シンはニッと笑った。このアプランティが人一倍努力をしている事は知っていた。見えない所まできちんと目を利かせ、すっかり指導者の顔だ。
「ありがとうございます。これからもお願いします!!」
 アプランティは頭を深々と下げ、食事に戻った。
 シンは余った賄いを持ち帰りにした。

 公演会場、管弦楽団の楽屋。

「いつも勉強熱心ね、マエストロ」
 クラリネットを持った女性は担当曲の理解を深めるべく熱心に勉強をしている斑目 カンナ(まだらめ・かんな)に声をかけた。
「新人だから当然の事だよ。みんなの音色を観客に届けるためには指揮者も努力しなければならないから」
 顔を上げたカンナは年月が経ち、髪を伸ばし少年のような外見ではなくなっていた。しかも表情も言葉も明るく以前のクールさはなりを潜めていた。ちなみに真摯に合奏に取り組む姿勢から楽団員からは『マエストロ』と呼ばれている。
「……さすがね。しかも手紙とプレゼントの山じゃない。またファンの子に貰ったのね。何々“以前のコンサートで指揮をするカンナさんを見ました。その姿が格好良くて一目でファンになってしまいました。これからも頑張って下さい”だって」
 そう言って女性は山積みになった贈り物の中から適当に手紙を取り、からかいにと読み上げた。
「……恥ずかしいから読み上げないでよ。それよりそろそろ練習だよ」
 カンナは恥ずかしそうに女性から手紙を取り上げた。指揮中の姿が真剣そのもので格好いいと密かに女性ファンが出来つつあったり。
「はいはい」
 女性は追い払われ、楽屋を出た。
「……さてと」
 カンナは勉強を中断し、ケースから指揮棒を抜き取り、楽屋を出て公演のためのリハーサルに参加した。

 夕方。
「……はぁ、これだと今とあまり変わらないよ」
 溜息の九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)。なぜだかこれが現実では無いと知っている。深夜、営む診療所となっているアトリエで机に突っ伏して眠って目覚めたら創世学園の授業の準備のために執筆し、朝になったらアトリエに来る患者の診療、その数時間後、アトリエを空けて学園に行き教師をして現在、帰宅の途についた。
「……不満ではないけど」
 充足した生活に不満はないが、何か寂しく肩を落としつつ家へ。
 玄関先についた時、
「お疲れさん」
 長曽禰 広明(ながそね・ひろあき)が片手を上げてローズを迎えた。ちょうど広明も帰宅した所だった。
「えっ、広明さん。どうしてここに?」
 広明に驚いたローズは思わず間の抜けた声で訊ねた。
「お前、疲れ過ぎて頭がおかしくなかったか。お前らが住む家にシェアさせて貰ってるんだよ」
 広明は呆れたように答えた。
「あぁ……そう言えば」
 ローズは思い出し得心の声を上げた。
「お前らも帰った所か。すぐに作るからな」
「ただいま」
 アプランティが作った賄いを持ち帰ったシンとカンナが現れた。途中、会って一緒に帰って来たのだ。
 すぐに四人は家に入り、夕食となった。

「シンの料理は今も昔も変わらず美味しいね。それに持って帰ってくれたこれ悪くないね。指導者としてどうなの?」
 ローズはシンの料理や持ち帰った賄い料理を食べながら言った。
「これを作った奴はなかなか熱心な奴でさ、教え甲斐があるんだよな。ロゼはどうなんだ?」
 シンも賄い料理を食べながら答えた。すっかり指導者の顔だ。
「……いつもと変わらずかな」
 ローズの報告は一言で終わった。おそらく明日も同じだろう。
「少しは寝た方がいいだろ。玄関先でおかしな事言い出すもんな」
 広明が玄関先での事を思い出し、ローズを気遣った。
「ロゼは働き過ぎだからね。あたしもそうした方がいいと思う。あぁ、そうだ」
 広明の意見に同意した後、カンナはチケットを広明とローズに差し出した。
「チケットか?」
「カンナが指揮をしている楽団の公演チケットだよね」
 広明とローズはまじまじとチケットを確認してから顔を上げた。チケットになっている公演のためにカンナは今日も会場でリハーサルをしたのだ。
「……都合が良ければどうかと思って。どうですか?」
 カンナは広明にまず都合を訊ねた。
「この日なら大丈夫だな。お前はどうだ? 出来れば一緒に行かねぇか」
 広明はカンナに行ける旨を答えた後、ローズを誘った。実はこれを狙ってカンナは二人にチケットを渡したのだ。
「……私も大丈夫ですよ……ん、これって」
 うなずいた時、ローズは自分の左薬指に指輪が輝いている事に気付いた。

■■■

 覚醒後。
「……確認せずに薬を使用したけど、明るい未来でよかった。でも薬指に指輪が」
 ローズは指輪に驚いていた。ちなみに薬を確認しなかったのはローズだけ。
「悪い未来ではなかったな。まぁ、趣味に生きられるなら悪かねぇか」
 シンは大満足。
「……指揮者か……挑戦してもいいかもしれないな」
 カンナは意外な未来に新たな可能性を感じていた。
 この後、報告をしてからローズ達は顔見知りの双子の様子を見に行った。