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冬のとある日

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冬のとある日

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【21の2】


 「あけましたねおめでとー……」
 くるなり玄関先で倒れてしまった縁を見下ろしてルーシーが「ヒールとかいる?」と声を掛けている。
 空京からツァンダ郊外まで彼女を連れて着た縹も一枚の毛皮と化しており、カガチに好きなようにモフモフされていた。
 件の雑煮を食べて一杯になった腹が休まると、身体を動かしたくなってきたのか真が徐に執事服のジャケットに手を掛ける。
「誰かと少し手合せをお願いしたいな。
 共闘する機会が多いからこそ、挑んでみたい。と、いうのもだけど……ちょっとスッキリしたいっていうがあってね」
 ――去年も色々ありすぎた、今年も色々あるんだろうと真は思うのだ。
「俺は、この肉体が武器だから……ね」
「やれやれ真、立会人ならやってやるつか俺も誰かとやらせろ!
 なんか棒きれでもあるか? なけりゃ俺も素手でいいぞ!」
 冬の寒空の下勢いよく着物をはだける左之助に、カガチが「棒っきれつか木刀ならそこら辺にあるよ」と示す。と、そこでスヴェトラーナが立ち上がった。
「やだな左之助さん。やるなら槍使ってくださいよ。あなたあっちの方がお得意でしょう」
「お、嬢ちゃんが手合わせしてくれんのかい?」
「言っときますけど、ちょっと酔ってますからね私」
 くっと咽を震わせて立ち上がったスヴェトラーナと左之助の視線が絡み合う。
「あっあれ? これって気合い入れたのに俺の方が立ち会い人的な展開?」
 狼狽していると、「なんか可哀想だから、俺やってあげようか?」とアレク言ってくれる。それが逆に悲しい感じだった。


「どっからでもおいでー」
 だらっと言って左手に持ったままの大太刀は抜かれてもいなかった。正直アレクとの間にはそのくらいの実力差があるのだと思い知らされる。
「じゃあ遠慮なく――!」
 間合いに飛び込んで右腕を正面に繰り出すと、アレクも右手でそれを外へ軌道をずらして逃がした。次いで左の拳は軽々と掴まれてしまう。
 そのまま腹部に刀の柄が入りそうになったのを、ギリギリで抑えた。
(やっぱりアレクさんには余裕で『見えてる』な。
 正面きった攻撃じゃ喰らって貰えないか)
 そう考えてそのままの姿勢で左足を軸にしてぐるりと回る力を利用しながら、右足で蹴り繰り出した。
 膝の関節を狙った攻撃は右足で抑えられる。直後に掴まれたままの腕ごと蹴りで後ろへ押し出された。
「ッ!」
 飛ばされた勢いを逃がす為に真が右手で地面を蹴る様に片手側転し正面へ向き直る、その一瞬の間に間合いは詰められている。
「上です真さん!」というスヴェトラーナの言葉通り上段から落ちてくる鞘に入ったままの刃は理解していたが、此れはある種『機』なのだと真は低い姿勢のまま前に突っ込んだ。
 柄を握るアレクの手を上から掴むと、そのままぐるりと宙へ回そうと試みる。上手くいけば地面に叩き付けられる筈だったが、そう簡単にはいってくれない。
 飛び上がったアレクは自ら地面を蹴り上げていた。
 地面の真と宙で逆さまになるアレクの視線が搗ち合う。
 瞬間ニッと微笑まれて冷静さを奪われた。立ち位置が入れ替わった直後に未だ地面についていないアレクへ向かって掌底を入れようと真が左手を出したのに、雌雄が決する。
 アレクは自由になっている左手で真の左手を掴み捻る。そこには刀の鞘が沿わされている。
 ゴキッと鈍い音がした。


「ごめん真。わざとだけどわざとじゃない」
「いいよ」
 手合わせとはいえ戦いなのだから、こういうこともあるのだと真が折れた腕の痛みを堪えつつ首を横に振る。それをどう勘違いしたのか知らないが、アレクの目が急にきらきらと輝いた。
「じゃあもっとやってよかったかな。
 刀抜いても良いならもっかいやろう!
 俺と、カガチと、真とそれから――」
「胴体と首が分離したら、ステッキでも治せんよー」
 厳竜斎がぼんやりと言いながら真を治癒している間、左之助とスヴェトラーナの立ち合いが始まる。
 お互いにそういう性格だからか、開始直後に二人とも突っ込んでいった。
 スヴェトラーナは右上段、左下段、右を切り上げ。
 左之助はそれに鐺(こじり)を当て、切っ先で払い、鐺で落としながら刃ごと回して突きを入れる。
「ヒヒッ」と笑ってその突きを左手の刀で打ち落としながら、スヴェトラーナが側宙する。
 二人の位置が入れ替わった。
 スヴェトラーナが右回転をしながら首へ向かって刃を向けるが、左之助が瞬時に背中に回した槍で受け弾き上げる。
 と、もう一度勢いで回ったスヴェトラーナが渾身の力で両手の二刀で横薙ぎした。
「貰ったあああ!!」
「甘いな」と、呟いたのはアレクか、カガチか、厳竜斎か、真か。全員かもしれないが、兎に角その言葉通りに左之助が縦に置いた槍で受けきると、そのまま正面に蹴りを喰らわせた。


「お前は調子にのり過ぎるんだ」
「必殺の一撃は見極めてうたないと隙だらけ」
「そしたら自分の命が危なくなるよ」
 そんな風に口々に言われながらスヴェトラーナが正座で反省しているのをみて、ジゼルは笑い声を漏らしている。
「お正月だってのに、皆さん元気ですねぇ……」
 呟く縹の背中を撫でて、「いつも通りよね」とニッコリ微笑んだ。